メルセデス・ベンツA200dセダン(FF/8AT)
磨かれた王道の味わい 2023.04.26 試乗記 マイナーチェンジによって内外装をリフレッシュし、さらに最新のADASやインフォテインメントシステムの採用で安全性と快適性を向上させたという「メルセデス・ベンツA200dセダン」。SUVブームのなかにあってもきらりと光る、伝統のセダンならではの魅力とは?充実のセダンラインナップ
先日、生まれて初めて韓国に行った。取材での訪問だったが、生で見る今のソウルはとても刺激的。走っているクルマや自動車ディーラーのショールームを見ているだけでも楽しかった。
路上を走るクルマは韓国ブランドが圧倒的に多く、そのうえ日本とは異なり、セダンが目立つ。現地で案内してくれた人によれば、韓国ではクルマがひとつのステータスシンボルであり、今も高級セダンがもてはやされているという。ヒョンデのフラッグシップセダン「グレンジャー」が、ソウルの街なかをさっそうと走る姿がとても印象的だった。
そんなセダン王国から日本に戻ると、成田から東京へと向かう東関道で目に留まるセダンは、日本車ならレクサス、輸入車ではメルセデス・ベンツ、BMW、アウディといったところ。なかでも、2015年以降、8年連続で輸入車新規登録台数ナンバーワンの座を維持しているメルセデスは、人気の「Cクラス」や高級車の代名詞である「Sクラス」など、セダン好きの心をくすぐるモデルが充実している。
そうしたセダンラインナップのなかで、プレミアムコンパクトと位置づけされるAクラス セダンがマイナーチェンジされ、今回メディア向け試乗会でその進化を確かめることができた。
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見た目よりも中身が進化
Aクラス セダンは、現在の4代目Aクラスで追加された3ボックスモデルだ。日本では2019年7月に発表され、2023年2月にはマイナーチェンジモデルが上陸している。
言うまでもなくAクラス セダンは前輪駆動プラットフォームを採用し、2730mmのホイールベースはハッチバックと共通。一方、全長は130mm長く、独立したラゲッジスペースはハッチバックよりも50リッター広い。
今回のマイナーチェンジでは、見た目よりも中身の変更が中心だ。試乗したのは、メーカーオプションの「AMGラインパッケージ」が装着されるA200dセダンで、ちょっといかつい“サメ顔”はこれまでどおりだが、よく見るとラジエーターグリルには、従来のドットではなく、由緒正しい“スリーポインテッドスター”がちりばめられている。
前後バンパーやリアディフューザー、アルミホイールのデザインが変わり、さらにボンネット中央にはパワードームが設けられるなど精悍(せいかん)さに磨きがかかったのが最新版の特徴だ。
それ以上に変わったのがコックピットのデザインである。10.25インチの液晶パネルが2枚並ぶデザインこそ以前のままだが、ドライバー真正面のステアリングホイールは新デザインの3本ツインスポークデザインになり、また、センターコンソールのタッチパッドが廃止されたおかげで、これまでとは明らかに違う印象に仕上がっているのだ。
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ディーゼルターボが生み出す力強い走り
ハッチバックのAクラス、セダンともにマイナーチェンジ後のモデルには、1.3リッター直4ガソリンターボの「A180」と、2リッター直4ディーゼルターボのA200dが設定されている。
前者が最高出力136PS(100kW)/5500rpm、最大トルク200N・m(20.4kgf・m)/1460-4000rpm、後者が最高出力150PS(110kW)/3400-4400rpm、最大トルク320N・m(32.6kgf・m)/1400-3200rpmを誇るが、いずれもマイナーチェンジ前と同じスペックで、トランスミッションもA180に7段DCT、A200dには8段DCTが引き続き搭載されている。
今回はディーゼルエンジンを搭載するA200dセダンをドライブ。早速クルマを発進させると、軽くアクセルペダルを踏むだけでも低速から加速に余裕があり、ディーゼルターボエンジンの魅力はたっぷり。タウンスピードではディーゼル特有のノイズが耳につくこともあるが、スピードが上がるにつれて気にならなくなる。
一方、高速道路の合流などでアクセルペダルを強く踏むと、2500rpmを超えたあたりからさらに力強さを増し、4600rpmのレブリミットまで一気に吹け上がる様子は実にスポーティー。今回は短時間の試乗ゆえに残念ながら燃費をチェックできなかったが、WLTCモードで19.1km/リッター、高速道路モード(WLTC-H)で23.0km/リッターの低燃費を誇り、走行距離が多い人には打ってつけの選択肢といえる。
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貴重なプレミアムコンパクト
そうした試乗のなかで気になったのが、A200dセダンの乗り心地だ。A200dセダンではフロントにマクファーソンストラット式、リアにトーションビーム式のサスペンションが採用され、さらに試乗車にはAMGラインパッケージによって、標準より1インチアップの225/45R18タイヤと、15mmローダウンの「ローワードコンフォートサスペンション」が組み合わされている。
その影響なのか、低速ではやや硬めの乗り心地に粗さが伝わり、快適性はいまひとつといったところ。しかし、スピードの上昇とともにその印象は薄れ、高速道路を走るような場面ではフラット感のある落ち着いた挙動や優れた直進性を味わえる。さらに燃費にも有利な2リッターディーゼルターボを積むA200dセダンは、ロングドライブの友としても実に優秀である。
細かいところでは、マイナーチェンジを機に、アダプティブクルーズコントロールの「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」使用時にハンズオフを検知する方法が、ステアリングホイールにかかるトルクから、ステアリングリムの静電容量式センサー式に変更になった。軽く握っていてもちゃんと認識してくれるので、高速のドライブはさらに快適になりそうだ。
ほかにも対話型インフォテインメントシステムの「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」が最新世代にバージョンアップされたことで、地図を表示したままオーディオなどの操作が簡単に行え、カメラ画像にルート案内を重ね合わせて表示する「ARナビゲーション」が使えるようになるなど、操作性が向上。扱いやすいサイズのセダンが少ないなかで、今後もAクラス セダンには貴重なプレミアムコンパクトとしての役割を果たしてほしい。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツA200dセダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1800×1430mm
ホイールベース:2730mm
車重:1520kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150PS(110kW)/3400-4400rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/1400-3200rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:19.1km/リッター(WLTCモード)
価格:570万円/テスト車=618万7000円
オプション装備:メタリックペイント<デジタルホワイト>(9万5000円)/AMGラインパッケージ(39万2000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:301km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。