第36回:「これは一番答えたらいけない質問だ」 小沢コージがマツダの丸本 明社長を直撃(後編)
2023.05.09 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ骨までしゃぶるぜ!
(前編からの続き)
小沢:賭けどころか無駄がほとんどない、直6・FR経由で電動化に向かうマツダのビルディングブロック戦略。骨までしゃぶるように綿密なストーリーがだんだん分かってきましたが、根本には私が10年前に先々代の山内社長に聞いた世界2%戦略、つまりマツダは年間販売200万台以上は狙わない、台数ではなく、ビジネスの質の向上を狙うある種のプレミアム計画が脈々と生き続けているわけですか?
丸本:プレミアムという言葉は独り歩きしてしまうので違うと思いますが、変わらずマツダならではの高付加価値、お客さまが納得される価値の高い商品を適正な価格で、ということはあります。商品の質を上げて、現行の「CX-5」「CX-8」からお客さまを逃したくないと思ったとき、やはりエンジンの多気筒化は大きな武器です。実際、北米マツダのディーラーはラージの計画には大喜びですから。西海岸は電気自動車(EV)を欲しがりますが、アメリカ全体ではウエルカム。
小沢:要はEV化EV化と言ってるのは欧州、中国と日本の大手マスコミだけだと。「CX-60」の直6・FRは考え抜かれた合理的な戦略だと。
丸本:合理的だなんておこがましい。もちろんとことん悩みましたよ。従来のFFプラットフォームのまま突き進んだら一体どうなるのかと。しかし、一度決めたらあとはどうやって成功させるかしか考えていません。ただ、逆張りと言われるのは違うかと。われわれは確かにEV先行型メーカーに比べて遅れているかもしれない。でも、じゃあどこで追いつけばいいんですかと。2030年か2035年か分かりませんが、環境変化を常に見ながら、ひょっとしたらタイミングは早まるかもしれないけど、それはそれで追いついていこうと。ただしその間、ちゃんと利益を上げられる内燃機関を持っていてね。売れているのに手放す必要はないし、今のやり方が一番マツダらしいのではないかと。
小沢:他社はなんであんな急いでるんでしょうか。
丸本:分かりません(笑)。まあ、これだけEV一辺倒の報道をすると、当然ステークホルダーも従業員も不安になるとは思いますが、何のために電動化するんですかと。ひとつは政策に合致するためで、それも大切ですが基本は企業としてちゃんと利益を上げるということです。そのうえでカーボンニュートラルにもいかなくてはいけない。
小沢:日本はどこかの大国みたいに大量の赤字を大量の補助金で補ってくれませんからね。
丸本:今、われわれの企業スケールでEVをつくって、すぐに利益が上がりますかといったら答えはNOです。もちろんバッテリーやモーター、その他電動化ユニットを外部から買ってくればつくれますよ。でもマツダらしいEVにできますか、ちゃんとしたコストでつくれますか、ちゃんと利益が上がりますか、といったらそれは無理。利益を上げるためにはちゃんとそれぞれの技術を手の内化しなければならないし、コストも下げなければいけない。地場で生産もしたいですし、今やEV用の電池も国の補助金をもらい、開発技術と生産技術の両面から試作までできるようになりましたが、ものにするにはそれなりの時間がかかる。今はいろいろなトライアルをして、ちゃんと電池メーカーと話せるようになりたいという段階です。
小沢:マツダはマツダ流で着々と電動化への道を歩んでいると。直6・FR技術を経由しながら。僕らもそういう記事を書きたいというか、応援したいですが、いかんせんついEV偉い! 日本遅れてる! という風潮が。
丸本:それはどうぞお好きにしてくださいとしか言えません。ただ、われわれにはものすごいペナルティーは払えませんし、どういうタイミングで電動化するかは慎重にみなくてはいけない。2030年にEVを20~40%という目標を掲げたのは、超えなきゃいけない技術的ハードルがいくつかあるなかで、ある程度、それらがずれるリスクを考えてのことです。
小沢:われわれメディアなんてそれ以上に右往左往してて、電動化でホント毎日ドキドキですよ。上海ショックがあれば、それはそれで影響されますし。とはいえ電池の生産がそれほど増えるわけがないということも想像はつく。
CX-60は乗って楽しい
小沢:ちなみに丸本社長ご自身はCX-60、どうですか?
丸本:乗り味は大好きですよ。(広島の)三次のテストコースをアクセルを踏みながら曲がっていく。個人的にあの感覚は大好きです。FFだと増し切りにあんなに力が必要になるのに、ホントに「ロードスター」かと思っちゃうほどにナチュラル。あんなに大きなSUVであることを忘れる。なんと言ったらいいか、乗り味が人間の感覚に合ってるというか、操舵と駆動を分けられるFRはいかにストレスがないのかと。あらためて実感させられました。
小沢:スタイリングはどうですか?
丸本:美しいと思います。ただロングノーズなのでボンネットの中央を拭くのは大変だろうなと(笑)。
小沢:僕は前から勝手に思ってるんですが、昔からマツダは欧州的カルチャーを欧米人でもやらないレベルにまで洗練させるのが得意ですよね。それも日本人の繊細さで昇華させる。英国発祥のライトウェイトスポーツカーもそうだし、ドイツ発祥ではロータリーエンジンとか、FFハッチバックの初代「ファミリア」もそう。その根源には何があるんでしょうかね?
丸本:実際、欧州のクルマが好きな人は多い。私もそうですがヨーロッパに行ったり駐在したりすると当然そうなりますよ。アウトバーンを200km/hを超えて安心して走れるクルマとは何なのか。それもストレスなく。私が欧州に駐在していたときのマツダ車は、必死にステアリングを握っていたものですが、CX-60は絶対に大丈夫です。個人的にも満足してますね。
小沢:聞きにくい質問になりますが、ラージ系のエンジン縦置きプラットフォームでSUV以外の商品は出ないんですか。2017年の東京モーターショーで出たスポーツカーの「ヴィジョンクーペ」とか?
丸本:これは一番答えたらいけない質問(笑)。
小沢:SUV以外は出ないんですかね?
丸本:ポテンシャルはありますねと(笑)。
小沢:あるいは「マツダ6」がFRになるとか?
丸本:新社長に聞いてください(笑)。
小沢:では、最後に聞きにくい質問ですが、気合入れてた「スカイアクティブX」はどうなるんですか? ガソリンエンジンの希薄燃焼。
丸本:まだまだ頑張りますよ。
小沢:欧州ではガソリンの6気筒がXになりますよね? 国内には持ってこないんですか?
丸本:どうしましょう?(笑)
小沢:僕らもぜひ味わってみたいというか、気持ちよさと燃費のバランスが気になります。ただ、現状「マツダ3セダン」から知らないうちにXの設定がなくなっているし、ぶっちゃけ普通の2リッターより60万円高いわりに実燃費が良くないので。
丸本:おっしゃるとおり。今言えるのはまだ諦めてないですと。ただ、やっぱりスカイアクティブXはラージ商品群、6気筒のほうが合ってるでしょうね。
小沢:期待していいと?
丸本:もちろん(笑)。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』