ヤマハMT-10 SP ABS(6MT)
スゴいとしか言いようがない 2023.05.10 試乗記 ヤマハのネイキッドスポーツである「MT」シリーズの、フラッグシップにあたる新型「MT-10」。リッタークラスの4気筒エンジンを搭載したハイエンドな一台は、圧倒的なパフォーマンスを備えながらも、同時に幅広いライダーが走りを楽しめるマシンに仕上がっていた。まずは加速に驚かされる
ヤマハMT-10は、要は同社の「YZF-R1」のカウルを剝がしてバーハンドルを与えたネイキッドモデルである。1405mmのホイールベースはそのままに、スーパーバイクゆずりの1リッター4気筒をストリート向けに仕立て直して、さらにクルマで言うファイナルギアレシオにあたる2次減速比を落としてダッシュ力にますます磨きをかけた。ノーマルモデルで212kg、今回の試乗車となった「SP」バージョンで214kgのボディーを、166PS/1万1500romの最高出力と112N・m/9000rpmの最大トルクでカッ飛ばす。
2022年にモデルチェンジを受けてさらに小顔になった「MT-10 SP ABS」にまたがって、「これはまあ、『スゴい!』としか言いようがないのではないでしょうか」と予想しながらクラッチミートして走り始めると、うーむ、なるほど、スゴい。まずは荒ぶるエンジンがスゴい。シュイィィィン……と脳天を突き抜けるかのようにスムーズに回転を上げるマルチシリンダーを想像すると、さにあらず。クロスプレーンエンジンの不等間隔サウンドと振動に合わせて、リアタイヤがかきむしらんばかりに地面を蹴飛ばして、にわかオーナーとなったライダーをおびえさせる。右手の微操作にかみつかんばかりに反応する電制スロットルのレスポンスにもあきれるばかり。トルクの塊にバイクともどもさらわれていく。
電子制御でいかようにも
ストップ&ゴーが繰り返される混雑した街なかでこの野獣っぷりは少々疲れるので、根性の足りないライダーは早速電子制御に頼ろうとするわけです。「D-MODE」(走行モード切り替えシステム)をチェックすると、パワー、トラクションコントロール、スライドコントロール、そしてサスペンションと、いずれも最もハードなセッティングになっている。パワーとサスペンションを1段階ソフトにするだけで、「The King of MT.」は、ウソのように乗りやすくなる。もともとのアウトプットの幅が広いので、電子制御による調整がわかりやすく反映されるのだ。「A」「B」「C」「D」と4種類の走行モードが登録可能なので、気分とシチュエーションによって最適なモードを簡単に呼び出せる。
東京から箱根への道程で、できるかぎり穏やかな出力特性と乗り心地重視の足まわりにしたところ、MT-10 SPは軽く喉を鳴らしながらの安楽ツアラーと化してライダーを喜ばせる。腕をリラックスさせて広げた、自然でアップライトな姿勢がいい。水面下に満々とたたえられたトルクを感じながらのぜいたくなクルージングである。
MT-10はヤマハのトップオブネイキッドだけにクルーズコントロールを備える。これは簡単にセットできる実用的なデバイスだが、貧乏性のライダーとしては、バイク任せで一定速度で走るのがなんだかもったいない。ちなみに、その気になればローギアだけで法定速度をカバーできるリッターバイクゆえ、ニューMT-10には最高速度を制限する「YVSL(Yamaha variable speed limiter)」機能が新たに採用されている。
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ライダーをちゃんと楽しませてくれる
比較的大きなカーブが続く山道に入れば、早速パワーとサスペンションをスポーツ寄りに、ただし車両コントロール関係は安全方向に全振りして、急な坂道を息もつかずに思い切り駆け上がる。190/55ZR17のリアタイヤが大トルクを路面にたたきつけ、一方アスファルトからの反発は、R1からMT-10用に最適化されたとうたわれるアルミフレームががっしり受け止める。
腰をずらしてバンクしながら、あらためて「こりゃあ、スゴい」と感心する。コーナーからの脱出、カーブの手前では、ギアを変える際にクラッチ操作を求めないクイックシフターが、シフトアップはもちろんダウンにも対応してライダーのファイター気分を盛り上げる。しょせんはThe Kingの手のひらの上で転がされているだけだけれど、乗り手に合わせてちゃんと遊ばせてくれるところが、ヤマハMT-10の本当のスゴさだと思う。
トップネイキッドにライドする興奮ですっかり順序が逆になってしまいましたが、価格は、ノーマルのMT-10 ABSが192万5000円。オーリンズの電子制御サスペンションがおごられ、スペシャルカラーをまとったSPが218万9000円。両者の差額は26万円と決して小さくはないけれど、日々の街乗りからスポーツ走行、ロングツーリングまで、実際にリッターバイクを使い倒そうとするならば、結局は後者を選んだほうが満足度が高いはず。
最後に蛇足ながら、MT-10のシート高は835mm。身長165cm短足仕様のライダー(←ワタシです)では両足ツンツン。日常使いでは「ギリ」な感じだが、R1の860mmと比較すると御の字かもしれない。
(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×800×1165mm
ホイールベース:1405mm
シート高:835mm
重量:214kg
エンジン:997cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:166PS(122kW)/1万1500rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/9000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:15.6km/リッター(WMTCモード)
価格:218万9000円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。