ランボルギーニ・ウルス ペルフォルマンテ(4WD/8AT)
心地よい錯覚 2023.05.19 試乗記 スーパーSUVをうたう「ランボルギーニ・ウルス」が「ペルフォルマンテ」に進化。その名のとおり、よりパフォーマンス志向に進化した最新モデルは、エンジンパワーを強化したばかりか、シャシーも以前とは別物に仕上がっている。箱根のワインディングロードを目指した。世界最速を争うSUV
300km/h以上、3.3秒以下……。アストンマーティンに加えてフェラーリまでもが参入したハイエンドSUVリーグはいま、「CO2? なにそれ食べられるの?」とばかりに激烈なパワーウォーズ時代に突入している。そこでは冒頭の2つの数字が“世界最速クラス”を名乗る必須条件ともいうべき数字となっている。ご想像のとおり、前者は最高速を、後者は0-100km/h加速タイムを指す。
これらの数字を2つとも満たす市販SUVは現在、世界に4台ある。まずは2022年9月に世に出たフェラーリの「プロサングエ」で、最高速は“310km/h以上”という。そんなプロサングエを迎え撃つべく、「ポルシェ・カイエン」に2021年6月に追加された「ターボGT」の最高速は300km/h、同じくアストンが2022年2月に繰り出した「DBX707」のそれは310km/hとされる。そして、これら3台はすべて、ぴたりと同じく“ゼロヒャク3.3秒”をうたっているというわけである。
そして残る1台は、いうまでもなく今回の主役でもあるウルスの最新トップモデルだ。最近じわりと浸透しつつあるペルフォルマンテのグレード名を冠したランボルギーニSUVも、ポルシェやアストン同様に、フェラーリの機先をぎりぎり制するかたちで、2022年8月に登場。ゼロヒャクは当然のごとくライバルたちに照準を合わせた3.3秒をアピールする。最高速の公称値は306km/hだ。
以上の4台が、いまこの瞬間における世界最速クラスのSUVということになる。ちなみに「ベントレー・ベンテイガ スピード」も最高速は306km/hをうたっているが、“ゼロヒャク”は残念ながら、3.9秒(でも、とんでもなくスゴイのだが)にとどまる。
「S」より速い理由
ウルス ペルフォルマンテが搭載する4リッターV8ツインターボは、850N・mという最大トルクこそ従来のウルスそのままだが、最高出力が16PS増の666PSとなっている。この数字はエンジンや車体の基本設計を共有するカイエン ターボGTより26PS高い(最大トルクは同じ)。ちなみに、DBX707の4リッターV8ツインターボはこれらより明らかにハイチューンで、最高出力は707PS、最大トルクが900N・m。プロサングエの6.5リッター12気筒は716N・mという最大トルクこそターボ勢にゆずるが、フェラーリらしい高回転エンジンで最高出力は725PSという。
ところで、ペルフォルマンテはウルスとしては初のマイナーチェンジに合わせて登場したモデルでもある。マイナーチェンジ版の最新ウルスのラインナップは、ペルフォルマンテと「S」という2モデル構成となっているが、じつは最高出力や最大トルクなどのエンジンスペックは2台で統一されている。
ただし、エンジンフードやルーフをカーボン複合樹脂化して、本国のカタログ車重をSより47kg軽い2150kgとしている。さらに、各部の専用エアロパーツや専用コイルサスペンションによって車高を20mmローダウンしたことなどで空力も改善しているという。これらがペルフォルマンテをSよりゼロヒャクで0.2秒、最高速で1km/h上回らせている秘訣らしい。
実際、今回の試乗車もペルフォルマンテ専用のカーボンパネルを強調すべく、エンジンフードの一部やルーフ、さらに空力パーツの一部も地肌むき出しのクリア塗装となっていた。それにしても、以前に遭遇したウルスより明らかに獰猛感が増しているのは、あちこちにのぞくカーボン模様や20mm下がった車高、さらにエンジンフードのエアアウトレットに加えて、フロントで約15mm、リアで約10mm拡大したトレッドのおかげもあるだろう。
余力残し(?)のパワースペック
そのインテリアはまさに「アルカンターラ」祭りだ。別項にもあるようにその大部分はオプションだが、こういうメニューが用意されること自体がスーパーカーのココロである。スーパーカーや本格スポーツカーのシート表皮やステアリングにこのスエード調素材はお約束だが、このクルマではそれがダッシュボードの上から下まで丹念に張られているだけでなく、コンソールにアームレスト、ドアポケット、さらには変速機のリバースシフトレバー(前進側はステアリングパドルで操作)にまでおよぶ。
ドライブモード切り替えの「アニマ(イタリア語で魂の意味)」は、舗装路用の3モードはそのままだが、「サビア(砂)」「テラ(土)」「ネーヴェ(雪)」があった悪路用が「ラリー」に統一されている。ただ、舗装路のみとした今回の試乗では、そのドリフト上等チューンというラリーモードを試すことは遠慮した(ら、ラリーモードは舗装路でのグリップ走行でも効果ありと、関係者から後日教えてもらった。残念!)。
インテリア観察のついでに車検証も確認すると、車両重量欄には2420kgとあった。本国公表値と差があるのは当然としても、2カ月前に乗った前型(の最終モデル)より70kgほど重かったのはちょっと意外だった。装備内容のちがいによるものだろうか。いっぽうで、前後重量配分が55:45と、前型の57:43より改善していたのは、主にカーボンエンジンフードの恩恵と思われる。
なにかの最終兵器ボタン(見たことないけど)を思わせるスターターを押すと、V8ツインターボは早朝や深夜の住宅街では遠慮したくなるほど激しい爆発音で目覚める。ただ、その動力性能は666PSという不吉な数字の響きほどには暴力的ではない。いや、ゼロヒャク3.3秒、300km/h超のSUVをつかまえて非暴力的もないだろう。しかし、その加速力は同じ最大トルクを約200kg軽い車体に使うカイエン ターボGTよりは控えめで、そのサウンドはDBX707ほどヒステリックではない。筆者自身は残念ながらプロサングエに触ったことはないが、もしかしたらその宿敵フェラーリの今後の進化に備えて、あえて寸止めしているのか……とすら思えた。
車体が小さく感じられる
こうして最新ウルスのエンジンに生意気にもハッパをかけたくなったのは、そのぶんシャシーのダイナミクス性能が文句なしのハイレベルだったことも無関係ではない。実際、ウルス ペルフォルマンテの最大のキモはシャシーといっていい。
前型やウルスSでは電子制御エア式だったスプリングがローダウンコイルになった……というのが、ペルフォルマンテのフットワークの特徴で、それだけを見ると「ガチガチ?」と本能的に身構えてしまう。だが、さらに23インチのオプションタイヤまで履かせた今回の試乗車でも、ダンピングがソフトになる「ストラーダ」モードでは市街地での乗り心地は望外に快適だった。
超偏平の超大径タイヤによるゴロゴロとした感触こそあるものの、市街地でもアシはしっかりストロークしてくれている。さらにアニマのレバーで「スポルト」「コルサ」と走りの優先度合いを引き上げると、多少の上下動が出はじめるものの、目線が揺さぶられるような過酷なことにはならない。この性能を考えれば、許容範囲とすべきだろう。
この巨体でせまい箱根のワインディングロードに分け入ってもまるで苦にしない。上屋の動きはこれまでのウルスより明らかに小さく、柔らかいストラーダモードでも、アクセルをあえて積極的に踏んでいけば最終的には素直に曲がってしまうのだ。
さらにモードを上に切り替えるごとに、ペルフォルマンテを名乗るウルスの走りはみるみるタイトになっていく。コルサモードにいたっては、まるでコンパクトハッチ……とまではいわずとも「ハチロク?」と思わせるくらいの俊敏さを披露する。それはもちろん勘ちがいだが、アクセルを踏むほどに思ったラインにクルマを乗せるトルクベクタリング4WD、ロールを最小限に抑制する電動スタビライザーに加えて、ガツンときくブレーキがそう錯覚させてくれるのだろう。
あくまで自然な調律
カイエンに加えて、ベンテイガや「アウディQ8」とも共用するウルスの骨格構造は、パッケージレイアウトが極端な低重心・低慣性マスとはなっていない。そして3m強というホイールベースは「ベンテイガEWB」を例外とすれば、これらのSUVファミリーで最長だ。
それもあって、ショートホイールベースのカイエンや、ホイールベースはウルスより長いが、軽量・低重心・低慣性マスであることが乗った瞬間に体感できるDBXなどと比較すると、箱根でのウルスは長く重いものを振り回している感覚が少し強い。そんなウルスが、それでもカイエンやDBXに劣らない機動性で走ってくれるのは、タイヤにトレッド、コイル、ダンパー、電動スタビライザーなどのフットワークだけでなく、前後(とリアの)左右に絶妙に配分するトルクベクタリングの調律のたまものと思われる。
メーター上にリアルタイム表示できるトルク配分を観察していると、わずかでもステアリングが切れていれば、エンジントルクは即座にアウト側の後輪に流れていることが分かる。ただ、実際にはこれ見よがしの回頭性など人工的な感触がほとんどないのに驚く。アクセルを踏むほど、無意識のうちにつじつまが合ってしまうのだ。そうした、いい意味で自然でイージーな調律は見事といっていい。
とはいえ、パワステが総じて軽めの設定(コンソール右側にある「エゴ」システムでパワステだけを重くすることもできる)であるウルス ペルフォルマンテでもっとも心地よいのは、細かなつづら折れより高速コーナーが続く山間部の高速道路だろう。いずれにしても、ランボルギーニの宿敵といえばフェラーリ。骨格からコーナリングマシン然としているプロサングエと比較すると、ウルス ペルフォルマンテは戦闘力は同等でも、乗り味はくっきり対照的と想像されて面白い。実際は乗ってみないと分からんけど。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウルス ペルフォルマンテ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5137×2026×1618mm
ホイールベース:3003mm
車重:2420kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:666PS(490kW)/6000rpm
最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2250-4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y/(後)325/30ZR23 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.1リッター/100km(約7.1km/リッター、WLTPモード)
価格:3181万6785円/テスト車=4042万0771円
オプション装備:エクステリアカラー<アランチョボレアリス>(102万0730円)/バイカラースポルティーボアルカンターラwithペルフォルマンテトリム(35万1841円)/ノズル内蔵式ワイパーブレード(9万4783円)/プレミアムエアクオリティーシステム<イオナイザー&アロマティゼーション付き>(6万4909円)/リア「Lamborghini」ロゴ<ハイグロスブラック>(4万1429円)/23インチホイールwithチタンボルト<ダイヤモンドフィニッシュドシャイニーブラック>(66万8029円)/オレンジキャリパー(14万0638円)/エクステンデッドペルフォルマンテトリムパックonアルカンターラ(35万1841円)/Bピラー&フロントフェンダーグリッドinカーボンファイバー<シャイニー>(37万2862円)/アドバンスト3D“Bang & Olufsen”サウンドシステム(79万9693円)/フルアルカンターラスポーツステアリングホイール<ダーククロームベゼル&レッドマーカー>(7万6712円)/アンビエントライトパッケージ(34万8890円)/アッパーインテリアカーボンパッケージ<エアベント&インストゥルメントクラスターカバー>(55万0380円)/ヘッドアップディスプレイ(21万1080円)/ナイトビジョン(29万5659円)/カーボンファイバーボンネット<シャイニー>(65万2048円)/アーバンロードアシスタント(20万6900円)/フル電動フロントシート<ベンチレーション&マッサージ付き>(36万2045円)/オプションステッチ(9万8471円)/オプションステッチ<ステアリングホイール>(4万6101円)/フロアマット<レザーパイピング&ダブルステッチ>(7万6712円)/カーボンファイバールーフ<シャイニー>(80万4119円)/カーボンファイバーキッキングプレート(25万7795円)/シートヒーター<フロント&リア>(7万0442円)/ハイウェイアシスタント(33万0450円)/ダークパッケージonアルカンターラ(30万9427円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1842km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:663.6km
使用燃料:109.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。