遊びも仕事もお任せあれ! フランスの風を感じるMPV
【徹底解説】新型ルノー・カングー 2023.05.21 ニューモデルSHOWCASE 商用車ゆずりの広さと便利さ、そしてフランス車ならではの趣で人気を博す「ルノー・カングー」。3代目となる新型は、文字どおりの全面刷新によってどのように進化したのか? グレードごとのデザインのちがいや、装備、燃費、価格設定と、多角的な視点から徹底解剖する。ルノー自慢の知る人ぞ知る人気モデル
この2023年2月に通算3代目が日本上陸したカングーはもともと、1997年(日本発売は2002年)に、コンパクトカーの車体後半に大きなボックスを背負わせた箱型バン「エクスプレス」の後継としてデビューした。
カングーはエクスプレスに対して、スタイルが2ボックスの専用デザインとなったことと、リアサイドにスライドドアが与えられたことが大きなちがいだった。そんなカングーを、ルノーは新ジャンルの「ルドスパス」と定義した。
ルドスパスとは遊びを意味するラテン語“LUDOS”と、空間を意味するフランス語“ESPACE”を組み合わせた造語で、さしずめ「遊びの空間」といったニュアンスをもつ。基本的に商用車設計だったエクスプレスに対して、カングーは「商用バンと乗用ワゴンという2つの顔をもつ=ルドスパス」というわけだ。
カングーは2002年に正規輸入がスタートした日本でも、商用車共通設計ならではの利便性に加えて、キュートなデザインやフランス仕込みの快適性と安定性が両立した走りで、知る人ぞ知る人気モデルとなった。
さらに2009年に日本で発売された2代目は、全幅が1.8m超まで大型化したものの、より高まった実用性に愛玩動物的なデザイン、さらには日本法人による息もつかせぬ(?)限定車攻勢や「カングージャンボリー」というイベント戦略も奏功して、一時は日本で売れるルノー全体の半分以上を占めるヒット商品となった。その比率は、日本におけるルノー全体の販売が急成長しはじめた2013年ころから相対的に下がっていったものの、台数そのものはモデル末期といえる2020年までほぼ右肩上がりを続けていたから驚きである。
そんな2代目の後を継いで、日本だとおよそ14年ぶりのフルモデルチェンジを経て登場した新型(参照)は、基本的にはより乗用車ライクな高級感や快適性を目指している。新型カングーの世界販売比率は、商用6割、乗用4割ほど。前者のほうが高いのは、南米や豪州など商用車しか販売していない市場があるのも理由のひとつだといい、「両方のカングーを展開している市場では商用と乗用は拮抗していて、とくに最新の3代目では乗用モデルの人気が上昇気味」とは本国担当者の弁である。
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【ラインナップ】
わざわざ日本専用のグレードを用意
日本に導入される新型カングーは、本国で2種類あるホイールベースのうち標準サイズともいえる短いほうである。本国には商用車版もあるが、日本はもちろん乗用車仕様のみで、快適装備や先進運転支援システム(ADAS)も基本的にフル装備。そして、リアは日本ではお約束の観音開きのダブルバックドア一択となる。
エンジンは2種類で、1.3リッターガソリンターボと1.5リッターディーゼルターボ。組み合わせられる変速機はどちらも7段DCT(ルノーでの商品名は「EDC」)である。
装備グレードはツール感を押し出した「クレアティフ」と、乗用車ライクなボディー同色バンパーをもつ「インテンス」の2つが主力。加えてガソリンにのみ、受注輸入グレードとしてより質素な「ゼン」も用意する。
このうちクレアティフは本国にもない日本専用グレードだ。インテリアの快適装備やADASはほぼフル装備ながら、ブラックバンパー、スチールホイール+センターキャップ、サイドプロテクターと、エクステリアをあえて商用車ライクに仕立てた「日本のカングーファンが理想とする姿」(?)を、ルノー・ジャポンが本国と丁々発止の交渉を経て実現した渾身のグレードである。クレアティフとインテンスのちがいはそのエクステリアのコスメ部分だけで、メカニズムや走り味に差はない。
【主要諸元】
グレード名 | ゼン | クレアティフ | クレアティフ | インテンス | インテンス | |
基本情報 | 新車価格 | 384万円 | 395万円 | 419万円 | 395万円 | 419万円 |
駆動方式 | FF | FF | FF | FF | FF | |
動力分類 | エンジン | エンジン | エンジン | エンジン | エンジン | |
トランスミッション | 7AT | 7AT | 7AT | 7AT | 7AT | |
乗車定員 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | 5名 | |
WLTCモード燃費(km/リッター) | 15.3 | 15.3 | 17.3 | 15.3 | 17.3 | |
最小回転半径 | 5.6m | 5.6m | 5.6m | 5.6m | 5.6m | |
エンジン | 形式 | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒SOHC | 直列4気筒DOHC | 直列4気筒SOHC |
排気量 | 1333cc | 1333cc | 1460cc | 1333cc | 1460cc | |
最高出力 (kW[PS]/rpm) | 96[131]/5000 | 96[131]/5000 | 85[116]/3750 | 96[131]/5000 | 85[116]/3750 | |
最高トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | 240[24.5]/1600 | 240[24.5]/1600 | 270[27.5]/1750 | 240[24.5]/1600 | 270[27.5]/1750 | |
過給機 | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | |
燃料 | ハイオク | ハイオク | ディーゼル | ハイオク | ディーゼル | |
寸法・重量 | 全長 | 4490mm | 4740mm | 4740mm | 4740mm | 4740mm |
全幅 | 1860mm | 1890mm | 1890mm | 1890mm | 1890mm | |
全高 | 1810mm | 1685mm | 1685mm | 1685mm | 1685mm | |
ホイールベース | 2715mm | 2870mm | 2870mm | 2870mm | 2870mm | |
車両重量 | 1560kg | 1560kg | 1650kg | 1560kg | 1650kg | |
タイヤ | 前輪サイズ | 205/60R16 | 205/60R16 | 205/60R16 | 205/60R16 | 205/60R16 |
後輪サイズ | 205/60R16 | 205/60R16 | 205/60R16 | 205/60R16 | 205/60R16 |
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【パワートレイン/ドライブトレイン】
新エンジンのガソリン車は燃費性能もトルクも向上
新型カングーに用意されるパワーユニットは先述のように2種類。ガソリンエンジンはルノーの最新主力ユニットともいえる1.3リッター4気筒DOHC直噴ターボで、ディーゼルエンジンは先代から受け継がれる1.5リッター4気筒SOHCターボだ。駆動方式はどちらもFFのみ。4WDは本国にも用意はない。
1.3リッターガソリンエンジンは、正確には1333ccという排気量をもつ独メルセデス・ベンツとの共同開発ユニットで、日本で売られるルノーでも「ルーテシア」「キャプチャー」「メガーヌ」「アルカナ」と多くのモデルに使われている。メルセデスだと「Aクラス」や「Bクラス」でおなじみのものだ。いっぽうのディーゼルエンジンはアライアンス内の日産と共同開発したもので、初出は2001年という古参ユニット。ベルト駆動のSOHC 8バルブという動弁系のスペックも今や古典というほかない。
本国(にはほかに電気自動車版もあるが)で搭載されるエンジンもこの2種類のみ。ただし、欧州では出力、トルクのちがいでガソリンに2種類、ディーゼルに3種類のチューンが用意される。このうち、ガソリンエンジンで最高出力131PS、最大トルク240N・m、ディーゼルエンジンで116PS、270N・mを発生する日本仕様のチューンはともに、欧州ではもっとも高性能なバリエーションに準じる。ディーゼルは先代末期に日本の排ガス規制に対応させたばかりとあって、今回も性能に大きな変化はないが、それでも最大トルクを10N・m上積みしているのは感心する。組み合わせられる変速機はともに7段EDCだが、ディーゼルには将来的に6段MTの追加も予告されている。ちなみに、ガソリン車には本国でもMTの用意はない。
日本仕様のカタログ燃費(WLTCモード)はガソリンで15.3km/リッター、ディーゼルで17.3km/リッター。基本的に同じエンジンで重量が増しているディーゼルは先代より悪化しているが、ガソリン車では50N・mもトルクを上乗せしつつ、燃費も改善している。
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【ボディー/プラットフォーム】
最新のプラットフォームでより静かで快適に
全長×全幅×全高=4490×1860×1810mmというスリーサイズは先代比で全長が210mm、全幅が30mm拡大している(全高は変わらず)。2715mmというホイールベースは先代比で15mm伸びただけだ。本国のデビュー時期(参照)を基準にしても、12年以上ぶりの刷新となるから、この程度のサイズアップは想定の範囲内というべきか。日本ではもともと大きかった全幅がさらに30mm広がったことを懸念する声もあるようだが、最小回転半径は0.2mの拡大にとどまり、現実の取り回し性はあまり悪化していないというのがルノーの主張だ。
ちなみに、先述のとおり新型カングーには本国では2種類のホイールベースがあり、日本仕様はその短いタイプである。先代では3種類のホイールベースがあって日本仕様はその真ん中だったが、先代のショート(かつて日本でも「ビボップ」の名で導入されたアレ)が受け持っていた需要は、いまはエクスプレスという別モデルが担うようになっている。
久しぶりのモデルチェンジということもあり、ハードウエアは(ディーゼルエンジン本体を除いて)ほぼ全身が完全に新しい。土台となるプラットフォームは日産主導で開発された「CMF-C/D」で、ルノー以外だと「日産エクストレイル」や「三菱アウトランダー」の最新モデルに使われている。
CMF-C/Dといえば、クラスを超えたデュアルピニオンパワーステアリングのほか、ダイレクトマウントのサブフレームなど、より正確な操縦性を実現するぜいたくかつ高剛性な設計が目を引く。さらにカングーでは、フロント周辺強化部材の一部に、ルノーの最上級モデルである新型「エスパス」と共通の部品を使ったり、最大積載量1tまで対応する専用の高剛性リアトーションビームを採用しているんだとか。こうした、商用での過酷な使い方を想定したタフな設計も、カングーの卓越した走りにつながる美点といえるだろう。また静粛対策の徹底も新型カングーの売りで、ウィンドウガラスはすべて厚みを増し、ドアやダッシュボードに防音・吸音材を多用することで、走行中の可聴音声周波数は10%拡大しているという。
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【インテリア/荷室/装備】
ライバルを打ち負かすために荷室を拡大
インテリアは質感の向上が顕著だ。さすがにソフトパッドを多用するようなことはしていないが、視覚的な質感はルーテシアに匹敵する。さらに、ステアリングやシフト周辺、エアコンパネル、メーターやセンターの液晶ディスプレイなどは、上質で乗用車ライクなルーテシアとの共通部品でまとめられている。
室内空間の変化は、外寸の拡大に合わせて“微増”といったところ。後席のチルトダウン可倒機能や後席背後に斜めに収納できるトノボードなど、自慢の機能装備の多くも健在(トノボードの2段階調整の高さ調整は廃止)なのはうれしい。先代ではチルトだけだったステアリング調整にテレスコピック機構も追加されたのには、時代の流れを感じる。
カングーの荷室といえば、先代で“ユーロパレット”という欧州の規格荷役台(1200×800mm)を積むために全幅が拡大したことが話題となった。新型はさらに荷室長が100mm以上、荷室幅が30mm拡大しているが、今回は「新たに○○を積むため」というより、進境著しいライバルの「プジョー・リフター」「シトロエン・ベルランゴ」(ルノー自身が欧州で直接的な競合を意識しているのはアウトドア感の強いベルランゴではなく、より乗用車らしいリフターだそうだ)にすべての寸法で勝つのが目的だったという。
また、先代カングーといえば「ラ・ポステ」(フランス郵便公社)との共同開発によるL字型パーキングレバーが、知る人ぞ知るウンチクアイテムだった。しかし、新型カングーのクレアティフやインテンスでは電動パーキングブレーキ(EPB)が新採用された。さらに小口配達車にもEPBが普及したことやスペース的な理由もあって、本国仕様に一部残されている手動パーキングレバーも、例のL字型ではなく一般的なストレート型となった。
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【バイヤーズガイド】
受注輸入の「ゼン」はマニア向けなのでご用心
受注輸入のゼンがガソリン車のみであることを除けば、ディーゼル車、ガソリン車ともにクレアティフとインテンスの両グレードが用意される。外観コスメを除けば、インテリアデザインや装備内容、タイヤサイズ(≒乗り味)もまったく共通。またエンジンが同じなら価格も変わりない。
標準装備となるADASも、緊急ブレーキの性能、アダプティブクルーズコントロールやレーントレースアシスト、LEDヘッドランプ、道路標識認識機能は、最初から乗用車として開発された他モデルと変わりない。そればかりか、現時点でルノー・ジャポンの最後発モデルなだけに「エマージェンシーレーンキープアシスト」と「ブラインドスポットインターベンション」は、今はカングーだけの装備となっている。
クレアティフが日本専用グレードなのは先述のとおりだが、じつは最上級グレードとなるインテンスも欧州のそれとは仕立てが微妙に異なる。というのも、日本でのお約束であるダブルバックドアは本国では商用車専用装備であり、日本のインテンスは「本国に設定のないダブルバックドアをベースに、日本独自にインテンス風に仕立てた」ともいうべき内容だ。
各部の意匠も異なっており、本国のインテンスはフロントグリルがフルメッキでダッシュボード加飾パネルもウッド調、さらには足もとも17インチのアルミホイールとなる。しかし、日本のインテンスはブラックグリル、16インチスチールホイール、ダッシュは金属調パネルなのだ。
価格は主力のツートップともいえるクレアティフ、インテンスともに、ガソリンが395万円、ディーゼルが419万円。この状態でフル装備なので、とくに必要なオプションはないが、先代末期と比較すると130万円以上の値上げにはなる。ただ、ADASを中心とした装備のグレードアップを考慮し、また日本におけるカングー人気にあやかって(?)上陸したリフターやベルランゴ、さらには最近の「フィアット・ドブロ」の価格と比較すると、まだ割安といえなくもない。
他方、ゼンは安価ではあるが、ADASの一部の機能が省かれ、オートエアコンがマニュアルエアコンになり、さらに後席エアダクトもなくなるのに、ほかグレードより9万円しか安くなく、マニア向けというほかない。広く薦められるのはクレアティフかインテンスで、どちらを選ぶかは完全な好みだろう。
一般的には燃費経済性が高く、走りもトルキーとされるディーゼルの人気が高いと思われるが、1.3リッターガソリンエンジンも想像以上に力強く、実際の動力性能にディーゼルとの差は意外なほど小さい。しかも、操縦性や乗り心地は圧倒的にガソリンのほうが軽快なのが悩みどころだ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典、向後一宏、ルノー・ジャポン/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。