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レクサスUX300e“バージョンL”(FWD)

音楽もラジオも要らない 2023.05.26 試乗記 今尾 直樹 レクサス初の電気自動車(BEV)「UX300e」が、一充電走行距離を大幅に拡大する大規模な改良を受けた。2035年のBEV専業ブランド化に向けてニューモデルがどんどん登場することだろうが、やはり初号機へのケアは手厚い。高速道路を中心に300km余りをドライブした。

大阪が見えた

電池と畳は新しいほうがいい。なんてことを世間では申しますが、2023年3月に発売されたレクサスUX300eの一部改良モデルはまさにそれである。最大のポイントは「トヨタbZ4X」「レクサスRZ」と同じ、新開発の電池パックを得たこと。電池の容量が54.4kWhから72.8kWhに増強され、一充電の走行距離が367kmから40%増の512kmへと飛躍的に延びた。3年前、レクサス初の100%BEVとしてUX300eが登場したときには、あくまでカタログ値の話ながら、東京から大阪まで一充電で行けなかった。それがこんにち、楽に行けるようになった。大きな進歩であろう。

電池以外は2022年7月発売の「UX250h/UX200」に実施された改良に準じている。このときの特筆事項は、サイドとリアのドア開口部のスポット溶接打点を20点追加し、ボディー剛性の向上を図ったことだ。新しい300eではその強化済みのボディーを使って、愛知県豊田市のトヨタ本社近くにつくられた新しい開発拠点、Toyota Technical Center Shimoyamaのテストコースで走り込み、BEV専用のショックアブソーバーと電動パワーステアリング(EPS)、それにブレーキを再チューニングしているという。

新しい電池パックの搭載もあって車重が20kg重くなっているし、そもそもレクサスは“Always On”を掲げ、年次改良を自らに課してもいる。じつのところ、筆者はUXに試乗するのは初めてのため、新旧の比較はできないけれど、その第一印象を報告したい。

「レクサスUX300e」の一部改良モデルが発売されたのは2023年3月のこと。新開発の電池パックの搭載によって一充電走行距離が367kmから512kmに拡大した。
「レクサスUX300e」の一部改良モデルが発売されたのは2023年3月のこと。新開発の電池パックの搭載によって一充電走行距離が367kmから512kmに拡大した。拡大
駆動用バッテリーの容量は54.4kWhから72.8kWhに拡大。車体を真横から眺めるとフロア下が厚くなっていることが分かる。最低地上高はハイブリッド車の「UX250h」よりも20mm低い140mm。
駆動用バッテリーの容量は54.4kWhから72.8kWhに拡大。車体を真横から眺めるとフロア下が厚くなっていることが分かる。最低地上高はハイブリッド車の「UX250h」よりも20mm低い140mm。拡大
グレードは“バージョンC”と“バージョンL”の2種類。今回試乗した“バージョンL”の場合、車両本体価格が改良前よりも50万円アップしている。
グレードは“バージョンC”と“バージョンL”の2種類。今回試乗した“バージョンL”の場合、車両本体価格が改良前よりも50万円アップしている。拡大
急速充電用ポートは車体の左後部に備わっている。
急速充電用ポートは車体の左後部に備わっている。拡大
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静かさを楽しむ

運転席に乗り込み、走りだしての衝撃は、ものすごく静かなことだ。100%BEVはなべて静かではあるけれど、UX300eの場合、レベルが違う。静かなること林の如く。という風林火山のフレーズが浮かんできたのは、『どうする家康』に阿部 寛の武田信玄が出ているから、だけではない。BEV特有のヒュウィイィ~ンというインバーター、もしくはコンバーター、つまりは電気の制御システムが発する高周波の電子音を、バルクヘッドに防音材を詰め込むことで徹底的に抑え込んでいる。これは100%BEV専用モデル「RZ450e」と同じ思想のもとで、そうしているのだろう。

耳を澄ませていると、発進加速時のみ、ウィ~ンという人工的な音が控えめに聞こえてくる。これは自然な加速感をドライバーに感じさせるために、ASC(アクティブサウンドコントロール)なるデバイスでアクセル開度に合わせて人工的につくっているもので、BEV専用モデルのRZ450eの印象も加えて想像するに、人工音を積極的に聴かせるのではなくて、静かさを楽しませることを狙っていると思われる。

首都高速1号羽田線を東京から横浜まで、パーシャルスロットルで巡航走行していると、Aピラーが寝ていることもあって風切り音は低く、フロントに採用した二重ガラスも効いているそうで、ともかく聞こえてくるのはロードノイズだけ。それも静かな路面ではめちゃんこ静かで、芝浦とか川崎の料金所のあたりに至ると、がぜん、そのロードノイズがゴーッと大きくなる。おそらく大型トラックの加減速の繰り返しによって路面が荒れているのだろう。なんてことを音の変化から思う。

モーターは従来どおりの4KM型で、最高出力203PS、最大トルクは300N・mを発生する。車重は新しい電池パックの搭載もあって、20kg増え、1820kgもある。BEVとしては軽量かもしれないけれど、同じUXでも一番軽いガソリン車のUX200と比べると340kgも重い。電池とは、かくも重い(防音材による増加は10kg程度だそう)。幕内力士の平均体重は160kg台というから、2人も乗せている。どすこ~い。どすこい。

従来モデルよりもスポット溶接のポイントを20カ所増加。Toyota Technical Center Shimoyamaにおける走り込みを通じて電動パワステとショックアブソーバー、ブレーキの再チューニングを図っている。
従来モデルよりもスポット溶接のポイントを20カ所増加。Toyota Technical Center Shimoyamaにおける走り込みを通じて電動パワステとショックアブソーバー、ブレーキの再チューニングを図っている。拡大
ダッシュ中央には新たに12.3インチのタッチディスプレイが搭載された。人間工学に基づいてレイアウト……とうたわれるだけあって、大胆にドライバー側に向けられている。
ダッシュ中央には新たに12.3インチのタッチディスプレイが搭載された。人間工学に基づいてレイアウト……とうたわれるだけあって、大胆にドライバー側に向けられている。拡大
ディスプレイのタッチ操作化に伴い、スクリーンを操作するタッチパッドは廃止に。その跡地にはシートのヒーター/ベンチレーションおよびステアリングヒーターのスイッチがレイアウトされている。
ディスプレイのタッチ操作化に伴い、スクリーンを操作するタッチパッドは廃止に。その跡地にはシートのヒーター/ベンチレーションおよびステアリングヒーターのスイッチがレイアウトされている。拡大
メーターパネルは「UX300e」専用デザイン。駆動用バッテリーの残電力計は右下の部分(針式!)で、具体的な%表示はされない仕組み。
メーターパネルは「UX300e」専用デザイン。駆動用バッテリーの残電力計は右下の部分(針式!)で、具体的な%表示はされない仕組み。拡大

頭打ちにならない加速感

BEVはなべてそうではあるものの、加速に電気モーター駆動ならではの軽やかさがある。眼前のデジタルメーターには速度が数字で表示されると同時に、その周囲が半円になっていて、「CHG(充電)」「ECO(エコ)」「PWR(パワー)」と区分されている。そのパワー計を眺めていると、エコでもアクセルに対するレスポンスは抜群で、パワーに突入した途端、ガソリンエンジンのターボチャージャーが利き始めた、みたいにふわっと加速する。

大トルクのモーター駆動のFWDなのに、FWDの悪癖は皆無で、駆動方式を意識させない。全開加速を試みても姿勢がほとんど変わらないのは、過度な車両ピッチ挙動を抑制するAPC(アクセレレーションピッチコントロール)という制御によるのだろう。

全開を試みると、伸びやかな加速を維持して、頭打ちにならない。これも大容量の電池の恩徳のひとつであろう。と思ったけれど、これは3年前からそうだったことを開発責任者の方に後ほど確認した。

テスト車は総走行距離が約500kmということもあって、いわゆるあたりがついていない印象を受けた。乗り心地はいい路面ではいいけれど、路面が荒れたところだと、ストローク感があまりない。18インチの225/50サイズのタイヤのゴム感が先走るというか、柔らかさのなかに硬さが偏在しているというか、ステーキチェーン店のステーキみたいに多少筋張っているというか、高級店の赤身のリブロースだったらもっと全体に柔らかいぞ、と思ってしまった。走行距離を重ねたら、もうちょっと熟成肉みたいになる、といいなぁ。

フロントに積まれる駆動用モーターは最高出力204PS、最大トルク300N・mを発生。アクセル操作に対するレスポンスは抜群だ。
フロントに積まれる駆動用モーターは最高出力204PS、最大トルク300N・mを発生。アクセル操作に対するレスポンスは抜群だ。拡大
今回の試乗車のインテリアカラーは「ヘーゼル」。ほかに「ブラック」「リッチクリーム」「ホワイトアッシュ」が選べる。
今回の試乗車のインテリアカラーは「ヘーゼル」。ほかに「ブラック」「リッチクリーム」「ホワイトアッシュ」が選べる。拡大
ドアの開口幅が狭いため後席の乗降性はいまひとつ。駆動用バッテリーが積まれているためか、前席の下につま先が入りづらい。
ドアの開口幅が狭いため後席の乗降性はいまひとつ。駆動用バッテリーが積まれているためか、前席の下につま先が入りづらい。拡大
「おくだけ充電」は2万4200円のオプション。その上にある2つのUSBタイプCポートは充電専用で、「Apple CarPlay」と「Android Auto」を利用するにはコンソールボックス内のUSBタイプAを使うことになる。
「おくだけ充電」は2万4200円のオプション。その上にある2つのUSBタイプCポートは充電専用で、「Apple CarPlay」と「Android Auto」を利用するにはコンソールボックス内のUSBタイプAを使うことになる。拡大
今回の試乗車の車両重量は改良前のモデルより20kg重い1820kg(カタログ値)。駆動用バッテリーの容量が18.4kWhも増加していながら、わずかなアップに抑えられているのがすごい。
今回の試乗車の車両重量は改良前のモデルより20kg重い1820kg(カタログ値)。駆動用バッテリーの容量が18.4kWhも増加していながら、わずかなアップに抑えられているのがすごい。拡大
ドライブモードセレクターはメーターフードの左側に生えている。モードは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3種類。
ドライブモードセレクターはメーターフードの左側に生えている。モードは「エコ」「ノーマル」「スポーツ」の3種類。拡大
オプションながら床下透過表示機能付きのパノラミックビューモニターが設定されている。
オプションながら床下透過表示機能付きのパノラミックビューモニターが設定されている。拡大
荷室の容量は310リッター(後席使用時)。ゴルフバッグを積むには後席の背もたれを倒す必要がある。
荷室の容量は310リッター(後席使用時)。ゴルフバッグを積むには後席の背もたれを倒す必要がある。拡大

消費電力に思うこと

総じて、UX300eはガソリンターボみたいな加速っぷりを備えた、異次元の静粛性を楽しませようというコンパクトなクロスオーバーで、その静かさときたら、愛車にして出発時と到着時に寺社とか道場でのように拝んでいると、室内に神聖な空気が漂い始めるのではあるまいか。というくらいのレベルである。小型クロスオーバーだけど、東京都心から100km程度の距離なら無充電で気軽に出かけられる長い足の持ち主でもある。乗り心地は、前述したように、いい路面ではいいし、首都高速の目地段差も上手にこなす。ホイールベースの短いコンパクトSUVとしては頑張っている。1クラス上のレクサスRZ450eより200万円も安い、BEVのドアオープンモデルなのに。

私なら? RZにしたいところではあります。だけど、200万円も高い。この価格帯で200万円の差はデカい。う~む。結局、UX300eはレクサスのファンのための入門用BEVなのだ。当たり前の結論ですけど。

最後に。筆者にとってはBEVのドライブは久しぶりで、315.6km走行して、車載の電費計が5.2km/kWhだったことが個人的には気になった。仮に1日の走行距離が30kmだとすると、単純計算でUX300eは1日あたり6kWの電力を消費することになる。30日で180kWh。ひとり暮らし世帯の1カ月の平均使用電力量は185kWhだそうだから、BEVが1台増えると、ひとり暮らし世帯分の電力消費が増えることになる。日本の2022年の新車販売台数はおおよそ420万台。これが全部BEVに切り替わったら、いったい日本はどうなるのだろう。

自然エネルギーによる発電を、われわれ自動車メディアはもっともっと発信していくべきである。

(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

レクサスUX300e“バージョンL”
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テスト車のデータ

レクサスUX300e“バージョンL”

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1840×1540mm
ホイールベース:2640mm
車重:1820kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:203PS(150kW)
最大トルク:300N・m(30.5kgf・m)
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー3)
一充電走行距離:512km(WLTCモード)
交流電力量消費率:141Wh/km(WLTCモード)
価格:685万円/テスト車=721万6300円
オプション装備:寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ&ウインドシールドデアイサー>(1万7600円)/ブラインドスポットモニター+パーキングサポートブレーキ<前後方静止物+後方接近車両>(6万6000円)/パノラミックビューモニター<床下透過表示機能付き>(12万1000円)/デジタルキー(1万6500円)/おくだけ充電(2万4200円)/ルーフレール(3万3000円)/カラーヘッドアップディスプレイ(8万8000円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:523km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:315.6km
参考電力消費率:5.2km/kWh(車載電費計計測値)

今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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