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次を待つか? 初版モデルを買うべきか!? GM関係者が新型「コルベットZ06」の日本導入を語る

2023.06.02 デイリーコラム 堀田 剛資

いうなれば「公道も走れるレーシングカー」

いよいよ日本導入が発表された「シボレー・コルベットZ06」。アメリカンスポーツのアイコンであるコルベットのなかでも、さらに動力性能を先鋭化させた、強烈なモデルだ。

しかし、そのあまりの特殊性ゆえ、ぶっちゃけ記者は「日本への正規輸入はムリだろうなぁ」と半ばあきらめていた。それを見事に覆したゼネラルモーターズ・ジャパン(GMジャパン)にはもう、いちファンとして「アリガトウ」(感涙)としか言葉がない。

そもそも、なぜZ06の導入は難しいと思われ、GMジャパンはどうそれを克服したのか? 導入に際してホントに性能は犠牲になってないのか? というか、コルベットZ06ってどんなクルマで、なぜファンはこんなにフィーバーしているの?

GMジャパン担当者とのQ&Aを通して、こうしたギモンに全部お答えしよう。

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GMジャパン 上原慶昭プロダクト&パブリックポリシー ディレクター(以下、上原):シボレー・コルベットZ06は、GMが言うところの「ストリートリーガルレーシングカー」です。最初の世代(1963年に2代目コルベットに初めて設定された)の頃から、レースにも耐えられる高性能パッケージという扱いでしたし、5代目(以下、C5)で復活してからもそれは変わりません。この8代目コルベット(以下、C8)では、当初からレース活動をすること、Z06を出すことが決まっていたので、レギュラーモデルもレースカーもZ06も、全部同時に開発してきました。

レーシングシーンで勝てるようエンジンは新開発で、DOHCとフラットプレーンクランクシャフトを使った高回転型です。これをレースに出る「C8.R」も積んでいますし、Z06にも積んでいる。とにかく回す! レッドゾーンの8600rpmまで回す! 回る! 回せば回すほどパワーが出るエンジンです。

シャシーもこのパワーを余すところなく路面に伝えるため、前後ともトレッドを広げています。タイヤもより径を上げて、幅も広くしています。

2023年5月のファンイベントで日本初公開された新型「シボレー・コルベットZ06」。同年夏の正式発表が予定されている。
2023年5月のファンイベントで日本初公開された新型「シボレー・コルベットZ06」。同年夏の正式発表が予定されている。拡大
「Z06」が最初に「コルベット」に設定されたのは1963年のことで、モータースポーツを楽しむオーナー向けの、特別なパッケージとして用意された。
「Z06」が最初に「コルベット」に設定されたのは1963年のことで、モータースポーツを楽しむオーナー向けの、特別なパッケージとして用意された。拡大
世帯耐久選手権やIMSAスポーツカー選手権などで活躍するコルベットレーシングの「C8.R」。「Z06」はこのレーシングカーをベースに開発された。
世帯耐久選手権やIMSAスポーツカー選手権などで活躍するコルベットレーシングの「C8.R」。「Z06」はこのレーシングカーをベースに開発された。拡大
より強力なエンジンの搭載に合わせ、タイヤも前:275mm幅、後ろ:345mm幅にワイド化。ボディーサイズも85mm拡幅している。
より強力なエンジンの搭載に合わせ、タイヤも前:275mm幅、後ろ:345mm幅にワイド化。ボディーサイズも85mm拡幅している。拡大
今回話をうかがった、ゼネラルモーターズ・ジャパンの上原慶昭氏(写真向かって左)と、中野 哲氏(同右)。よく見れば、上原氏がかぶっているのはコルベットレーシングの“JAKE”スカル キャップである。氏のコルベット愛が感じられた。
今回話をうかがった、ゼネラルモーターズ・ジャパンの上原慶昭氏(写真向かって左)と、中野 哲氏(同右)。よく見れば、上原氏がかぶっているのはコルベットレーシングの“JAKE”スカル キャップである。氏のコルベット愛が感じられた。拡大
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レーシングエンジンをほぼそのまま搭載

webCGほった:新型Z06の性能を引き出すにあたり、C8のミドシップ化はやはり効いていますか?

GMジャパン 中野 哲プロダクト&パブリックポリシー プロダクトマネージャー(以下、中野):先代(以下、C7)でもZ06や「ZR1」という高性能モデルを出していたのですが、もうFRでは極められないところまできてしまっていました。リアのトラクションを100%伝えるにはどうしたらよいか、やはりミドじゃないかと。

上原:エンジン性能は出せるんです。ただ、C7でさらにパワーを上げたものをレーシングトラックで走らせても、もう前のモデルよりタイムが出ませんでした。異常に柔らかいタイヤでとにかく食いつかせる手もありますが、シャシーの性能を考えると自然にリアにトラクションをかけたい。C8はすごく運転しやすいでしょう? 「なにかあったら、どっかに飛んでいくのでは?」という不安が全然ない。Z06もエンジンは8600rpmまで回るので、踏めば踏むほどに走るクルマですが、むちゃなことをしなければ、よっぽど扱いやすいですよ。

webCGほった:エンジンについても、もう少し教えてください。Z06のエンジンは5.5リッターV8 DOHCで、他の市販車には一切使われていないですよね。このご時世に、共用部品がほとんどないエンジンをよくつくれたなと思うんですが。

上原:一番は、やはりレースをやることが決まっていたからでしょう。先ほども述べたとおり、これはレーシングマシンのC8.Rも使っているエンジンなんですよ。ブロックはまったく一緒ですし、ヘッドも全部一緒。当初から「それで新たなものをつくる!」と決めていたんです。レース用の車両はリストリクターが付いていてパワーが抑えられているんで、こっちのほうがむしろパワーは出ているんですけど(笑)。

「Z06」に搭載される5.5リッターV8 DOHCエンジン「LT6」。基本的にレーシングカー「C8.R」の「LT6R」エンジンと同じものだ。
「Z06」に搭載される5.5リッターV8 DOHCエンジン「LT6」。基本的にレーシングカー「C8.R」の「LT6R」エンジンと同じものだ。拡大
「LT6」は動弁機構にDOHCを採用。「コルベット」がDOHCエンジンを搭載するのは、1989年に登場した「ZR-1」以来のこととなる。
「LT6」は動弁機構にDOHCを採用。「コルベット」がDOHCエンジンを搭載するのは、1989年に登場した「ZR-1」以来のこととなる。拡大
レーシングユニット由来の「LT6」は、クランクシャフトがフラットプレーンとなっている。この形式は2次振動の大きさがネックとされるが、カウンターウェイトを小型化(≒クランクシャフトを軽量化)でき、またバンク間の排気干渉がないため、レスポンシブで高回転・高出力型のエンジンをつくることができる。
レーシングユニット由来の「LT6」は、クランクシャフトがフラットプレーンとなっている。この形式は2次振動の大きさがネックとされるが、カウンターウェイトを小型化(≒クランクシャフトを軽量化)でき、またバンク間の排気干渉がないため、レスポンシブで高回転・高出力型のエンジンをつくることができる。拡大
「LT6」は欧州のプレミアムスポーツカーと同様、一基のエンジンを一人の職人が責任をもって組み上げる。エンジンルームには組み立てを担当したスタッフのサインプレートが装着される。
「LT6」は欧州のプレミアムスポーツカーと同様、一基のエンジンを一人の職人が責任をもって組み上げる。エンジンルームには組み立てを担当したスタッフのサインプレートが装着される。拡大

ラジエーターを3つから5つに増強

webCGほった:冷却システムも変えていますよね?

上原:通常のコルベットは、フロントの両脇に1基ずつラジエーターを積んでいます。私たちが日本に持ってきているクルマは「Z51」というスポーツパッケージを入れていて、それだとリアサイドにもう1つラジエーターが付いて、全部で3つになる。これがZ06だと、エンジンやドライブトレインがもっと熱を出すので、もっと冷やさなければならない。そこでフロントでは真ん中にもラジエーターを足して、リアも左右両方にラジエーターを積んでいます。これまで3つで冷やしていたものを、5つで冷やすようにしています。

中野:それに合わせて、フロントもサイドも開口部を拡大しました。両サイドのエアインテークは、ブレーキ冷却のほうにも空気を回しています。

webCGほった:フロントセンターにラジエーターが追加されるとなると、日本仕様ではナンバーがジャマになりそうですけど。

中野:それについては大丈夫。風の流れ的には、下から吸い込むほうが多いいんですよ。

上原:われわれも“ならし”をするんですが、プレートを付けて走らせているのでその点は確認済みです。渋滞でも平気です。

問題なのはトランクですね。コルベットはリアに大きいトランクがあって、それとは別にフロントにもトランクがあるんですよ。今までのコルベットだとフロントは暑くならなかったので、「ビールを積むのはフロント。ピザを積むのはリア」という風に言っていたんですけど(笑)。Z06はラジエーターの増設でフロントもかなりあったかくなるもんだから、困りました。

中野:それはもう、あったかくなってもいいモノを入れていただくということで(笑)。

webCGほった:前も後ろもピザですね。

あけすけなほどに巨大なエアインテークが目を引く「Z06」のフロントフェイシア。左右に加え、中央にもラジエーターが装備された。
あけすけなほどに巨大なエアインテークが目を引く「Z06」のフロントフェイシア。左右に加え、中央にもラジエーターが装備された。拡大
リアまわりでは、ボディーの左右両方にラジエーターが装備されたほか、こちらもめいっぱいエアインテークが大型化されている。
リアまわりでは、ボディーの左右両方にラジエーターが装備されたほか、こちらもめいっぱいエアインテークが大型化されている。拡大
日本仕様の「コルベット」のレギュラーモデル。フロントフェイシアの中央に装着されるナンバープレートがいかにも冷却を阻害しそうだが、実際にはそこまでジャマにはならないという。
日本仕様の「コルベット」のレギュラーモデル。フロントフェイシアの中央に装着されるナンバープレートがいかにも冷却を阻害しそうだが、実際にはそこまでジャマにはならないという。拡大
ミドシップのスポーツカーでありながら、十分な積載性を備えているのもC8の魅力。リアトランクにはゴルフバッグも積めるという。ただ、冷却システムの配置や排気の取り回しなどの都合で、内部が温かくなってしまうのが弱点だ。
ミドシップのスポーツカーでありながら、十分な積載性を備えているのもC8の魅力。リアトランクにはゴルフバッグも積めるという。ただ、冷却システムの配置や排気の取り回しなどの都合で、内部が温かくなってしまうのが弱点だ。拡大

象徴の“センタークアッド”はいずこ?

webCGほった:ここからは日本仕様について教えてください。たしか、米本国仕様のZ06はマフラーがセンター4本出しでしたよね?

上原:よくお気づきで。コルベットは先代まで(C5からC7まで)は全車が“センタークアッド(センター4本出し)”でした。その象徴的だったモノが、C8の世代になって、通常のモデルは左右それぞれ2本出しになったんです。Z06だけがセンタークアッドを守っているのですが……あれ、真ん中の2本が実は直管なんですよ。これは絶対(日本の認証を)通らない。確実に騒音でひっかかります(笑)。

アメリカと日欧ではレギュレーションが違うでしょう? 輸出マーケットでも、アメリカ仕様のままでいけるところはそのまま出していますけど、ヨーロッパとか日本とかはムリなので、通る仕様に変えてもらいました。

webCGほった:そうなると、スペックも変わってきますか?

上原:馬力はちょっと。やはり排気が違うので性能値が変わります。本国仕様は670HP(679PS)出るんですが、うちのは646PSしか出ていない! お客さまには「その違いはなんですか!」って言われるけど、日本仕様も踏んだらグワッ! と出ますから。

中野:あと実用だと、センター4本出しはカッコいいんですけど、トランクに荷物を積むときに熱いんですよね。このクルマだと、気にせずにゴルフバッグも積めますから、素晴らしいですよ。

webCGほった:C7では取材のとき、カメラ機材を積むたびに気を使いましたね(笑)。一度だけ、油断していてヤケドしそうになりました。

中野:ヤケドしますよね、あれ(笑)。

米本国仕様の「Z06」ではマフラーはセンター4本出しとなるが、その中央2本はサイレンサー無しの直管だ。
米本国仕様の「Z06」ではマフラーはセンター4本出しとなるが、その中央2本はサイレンサー無しの直管だ。拡大
米本国仕様のマフラーでは確実に騒音規制にひっかかるので、日本と欧州の「Z06」は、それとはまったく異なる排気システムを採用している。
米本国仕様のマフラーでは確実に騒音規制にひっかかるので、日本と欧州の「Z06」は、それとはまったく異なる排気システムを採用している。拡大
センター4本出しのマフラーが勇ましいC7(写真は「グランスポーツ」)。トランクに荷物を積むとき、ちょうど立つ位置にマフラーがあるので、足もとにはご用心だ。
センター4本出しのマフラーが勇ましいC7(写真は「グランスポーツ」)。トランクに荷物を積むとき、ちょうど立つ位置にマフラーがあるので、足もとにはご用心だ。拡大
C7の取材でスネを焦がしそうになった記者の話に、笑顔で同調する中野氏。ひょっとして、氏もその経験アリか?
C7の取材でスネを焦がしそうになった記者の話に、笑顔で同調する中野氏。ひょっとして、氏もその経験アリか?拡大

黒外装&赤内装で実現した早期の日本導入

webCGほった:あと、日本仕様といえば気になるのが、「今のところ選べるのはこの仕様だけ」というところですよね。黒のボディーカラーに赤の内装、装備グレードは「3LZ」っていう……。米本国にはいろいろなオプションがありますよね? 例えばサーキット走行に特化した「Z07パフォーマンスパッケージ」とか。

中野:仕様をひとつに絞ったのは、現状では最初に導入できる数が非常に少なくなりそうだからです。この仕様とした理由は、日本のお客さまは一番いいものを欲しがるので、最上級の3LZを選びました。加えて一番コルベットらしい、走りをほうふつとさせるコンビネーション……黒のボディー、赤のシート、黒のホイールに赤のキャリパーという、走りたいという意欲をかき立てるコンビとさせていただいています。

上原:いろんな選択肢はあるんですよ。われわれでもアメリカのウェブサイトを見ていたら、1週間ぐらいそこでじーっとしていられるほどいっぱいある。もちろん、お客さまにもそういう楽しみを提供したいんですけど、それをすると待っても待ってもクルマがこなくなっちゃうので、「とにかくクルマを押さえろ!」と。まずはお客さまの手元にクルマを届けようということで、こういうカタチになりました。

ちなみにこのコンビネーションは、アメリカでも一番人気の組み合わせなんですよ。もう圧倒的。面白いんですよね。通常のC8だと、一番人気のボディーカラーは赤なんです。ところがZ06は断トツで黒。世の中の人は皆「Z06=黒」って思っているんですね。われわれもその、一番人気のものを日本に出すということで、この仕様を選びました。

webCGほった:かなり気の早い話ですけど、今回Z06を買われたお客さまにアップデートを提供する予定とかは?

中野:Z07パフォーマンスパッケージについては、後付けは難しいですね。サスペンションが変わってくるので。

上原:シャシーのところがちょっと違うんですよね。交換できるものもあるんですけど。そういう質問も、今日(このインタビューはZ06が日本初公開された「CHEVROLET FAN DAY 2023」の会場で行われた)6回ぐらいいただきました(笑)。「フツーのC8にはZ07は付くのか? Z06には後付けできるのか?」。とはいえ、私どもとしてはまずはお届けできる商品を確保しなきゃいけない段階なので。

中野:最初に導入するモデルでは、まずは“素のZ06”のスゴさを感じてほしいなと。

現状、日本で選べる「Z06」は以下の仕様のみで、ほかの色や装備は選べない。【ボディータイプ:クーペ/グレード:3LZ/ボディーカラー:ブラック/インテリアカラー:アドレナリンレッド/シート:コンペティションスポーツバケット(スウェーデッドマイクロファイバーインサート付きナパレザー)/シートベルト:トーチレッド/ステアリングホイール:カーボンファイバー&スウェーデッドマイクロファイバーラップド/ホイール:スパイダー・デザイン・ブラック/ブレーキキャリパーカラー:ブライトレッド】
現状、日本で選べる「Z06」は以下の仕様のみで、ほかの色や装備は選べない。【ボディータイプ:クーペ/グレード:3LZ/ボディーカラー:ブラック/インテリアカラー:アドレナリンレッド/シート:コンペティションスポーツバケット(スウェーデッドマイクロファイバーインサート付きナパレザー)/シートベルト:トーチレッド/ステアリングホイール:カーボンファイバー&スウェーデッドマイクロファイバーラップド/ホイール:スパイダー・デザイン・ブラック/ブレーキキャリパーカラー:ブライトレッド】拡大
本国仕様では“雨天NG”のカップタイヤも用意される「Z06」だが、日本仕様ではタイヤは「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S ZP」一択となる。
本国仕様では“雨天NG”のカップタイヤも用意される「Z06」だが、日本仕様ではタイヤは「ミシュラン・パイロットスポーツ4 S ZP」一択となる。拡大
「3LZ」とは「Z06」で選べる最上級のグレードで、カーボン製のステアリングホイールや、レザーとマイクロファイバーで仕立てられたインテリアなどを特徴とする。
「3LZ」とは「Z06」で選べる最上級のグレードで、カーボン製のステアリングホイールや、レザーとマイクロファイバーで仕立てられたインテリアなどを特徴とする。拡大
日本仕様の「Z06」は、本国仕様ではオプション扱いとなる「コンペティションスポーツバケットシート」が標準装備となる。日本だとレギュラーモデルの「3LT」や「コンバーチブル」にもこのシートが採用されている。
日本仕様の「Z06」は、本国仕様ではオプション扱いとなる「コンペティションスポーツバケットシート」が標準装備となる。日本だとレギュラーモデルの「3LT」や「コンバーチブル」にもこのシートが採用されている。拡大
「Z07パフォーマンスパッケージ」は、カーボンファイバー製のリアウイングや、カーボンセラミックブレーキ、「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」タイヤ、専用チューニングのマグネティックセレクティブライドコントロールなどからなるオプションパッケージだ。
「Z07パフォーマンスパッケージ」は、カーボンファイバー製のリアウイングや、カーボンセラミックブレーキ、「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」タイヤ、専用チューニングのマグネティックセレクティブライドコントロールなどからなるオプションパッケージだ。拡大

MR化とセットで実現した右ハンドルの設定

webCGほった:日本仕様はハンドル位置も右ですよね。個人的には、Z06は万が一日本に来るにしても、左ハンのままだと思っていました。……というか、もう何度もこの話はされたでしょうけど、C8ではよく右ハンドルが用意できましたね! しかも、すごくよくできてる(参照)。

中野:輸入車の右ハンドル仕様って、タイヤハウスの都合とかで、体を内側に向けなきゃいけないものがあったりしますからね。

webCGほった:それに、ブレーキシステムのレイアウトが左ハン仕様のままで、極端にブレーキが扱いづらいクルマなんかもあります。それが、右ハンのC8ではそういう不満が全然ありませんでした。日本から注文をつけたりはしたんですか?

上原:いえ。もちろん最初に要件は伝えはしましたけど。そもそもC7までは右ハンドルなんてつくりたくてもできなかったんですよ。こーんな大きなブイハチを前に置いているんで(笑)。もうステアリングシャフトを反対側に移せないんですよね。レイアウト上とても無理。それが、C8ではエンジンが後ろにいって、その辺の取り回しがかなりやりやすくなったので「それじゃぁやるか」となった。開発した人間には、「それでも大変だった! もっともっと簡単にできると思ってた。えらい苦労した」と言われるんですが。

日本仕様の「Z06」は全車右ハンドルとなる。記者は、販売台数の少ない一部のマーケットのためだけに、わざわざ右ハンのZ06を仕立ててくるとは思っていなかったのだが……。
日本仕様の「Z06」は全車右ハンドルとなる。記者は、販売台数の少ない一部のマーケットのためだけに、わざわざ右ハンのZ06を仕立ててくるとは思っていなかったのだが……。拡大
輸入車のなかには、左ハンドルから右ハンドルへのつくり変えによって、運転姿勢がおかしくなったり、ブレーキフィールが変わってしまったり……というものがいまだに見受けられるが、C8ではそういった点がまったく見受けられなかった。お見事!
輸入車のなかには、左ハンドルから右ハンドルへのつくり変えによって、運転姿勢がおかしくなったり、ブレーキフィールが変わってしまったり……というものがいまだに見受けられるが、C8ではそういった点がまったく見受けられなかった。お見事!拡大
リアウィンドウ越しに見る「LT6」の図。右ハンドル仕様の「コルベット」は、大きなV8エンジンがリアに移り、フロントにステアリングシャフトの取り回しを変えられるだけのスペースができたことから実現したものだった。
リアウィンドウ越しに見る「LT6」の図。右ハンドル仕様の「コルベット」は、大きなV8エンジンがリアに移り、フロントにステアリングシャフトの取り回しを変えられるだけのスペースができたことから実現したものだった。拡大

実車を見るまで誰も信じていませんでした

上原:実は、C8では当初から「日本向け、英国向け、オーストラリア向けは右ハンドル!」って決まっていたんです。でも、社長の若松もそうだったんですけど、そんなの誰も信じていなかった(笑)。

webCGほった:「GMが言っているだけで、右ハンドル車なんてどうせ来ないよ」と?

上原:ドギーマンのCMじゃないけど、実車を見るまでは「信じないから!」って(笑)。ところが、日本に最初に持ち込んだクルマは飛行機で飛ばしてきたんですけど、向こうの空港でスクープされたんですよ。で、その写真を見たら、「ちゃんとハンドルが右に付いているぞ!」ってなった。あとはクルマが届いて、座って、ふぁっとハンドルを握り込んだときにぴったりしているんで、「ああ! レイアウトもちゃんとしてる、アリガトウ!!」っていう感じでね。それまではずっと、夜な夜な心配していました。

中野:その手のお話だと、細かいところでは電動可動式ドアミラーも気をもみましたね。これは最後の最後までもめたんですけど、「日本は絶対に欲しい! アメリカとは駐車方法が違うんだよ」と。日本では駐車場にお尻から入れて、出庫のときはドアミラーをすり抜けてクルマに乗り込むじゃないですか。電動ミラーが絶対必要なんですよね。最後には落とされる寸前までいったんだけど、ちゃんと説明して、ビデオまで送って、「日本ではこういうやり方で駐車場から出るんだよ」と伝えて、なんとか持ちこたえて実現しました。本当に、そういういうところはどうしても分かってくれないんですよ(笑)。

「右ハンドルの『コルベット』がこんなによくできているとは、思っていませんでしたか?」という記者の問いに、「それ以前に、誰も『本当に右ハンのコルベットがつくられる』なんて、信じていませんでしたよ!」と答える上原氏(写真向かって左)。
「右ハンドルの『コルベット』がこんなによくできているとは、思っていませんでしたか?」という記者の問いに、「それ以前に、誰も『本当に右ハンのコルベットがつくられる』なんて、信じていませんでしたよ!」と答える上原氏(写真向かって左)。拡大
いつお会いしてもナイスな笑顔の、GMジャパンの若松 格社長。
いつお会いしてもナイスな笑顔の、GMジャパンの若松 格社長。拡大
日本からの熱い要望で実現した電動可動式ドアミラー。ところ変われば駐車の作法も変わるということで、中野氏は「なんでそんな装備が必要なの?」と首をかしげるGMスタッフに、日本のパーキング事情を説明するのに苦労したとか。
日本からの熱い要望で実現した電動可動式ドアミラー。ところ変われば駐車の作法も変わるということで、中野氏は「なんでそんな装備が必要なの?」と首をかしげるGMスタッフに、日本のパーキング事情を説明するのに苦労したとか。拡大

日本に持ってきてくれてありがとう!

中野:いかがです? 実車を見た感想は。

webCGほった:説明不要で、ストレートにカッコいいですよね。ワタシはC8も好きなんですけど、逆に「C7までは好きだったけど、C8はちょっと優等生なんじゃない?」なんて思っている人も、これなら心をガシっとつかまれるんじゃないかと思います。来場者の注目もスゴそうですし。

上原:われわれも“ならし”でアチコチ走らせたんですけど、大人気ですよ。もう黒山の人だかり。「写真は5月20日(日本初公開の日)までSNSとかに上げないでくださいね!」って、とにかく大変でした。なかには熱心な方もいらっしゃって、箱根でずっと追いかけてきたオーナーさんがパーキングエリアで横に並んだら「写真撮らせてください! 私、今C8の納車待ちなんです!」って(笑)。そしたら2人、3人と集まってきて……。

webCGほった:そうなると、今レギュラーモデルを納車待ちしている方から、「これにステップアップしたいんだけど」という相談が来るんじゃないですか?

上原:今日もね、そういうお話をいっぱいいただいたんですよ。「スグ現金持ってくるから!」って。私にそう言われても……っていうお話なんですけど(笑)。今はまだ数がそろえられないですが、この先はホントになんとかしたいと思います。

webCGほった:あと、実車を見ての感想というと……。いや、もう「日本に持ってきてくれてありがとう!」としか言いようがないですね。

上原:そう言ってもらえるのがわれわれにとっても本当に幸せなんですけども……。いやホントに大変なんですよ(笑)。なかなか一筋縄ではいかなかった。

コルベットって、年間4万台いくかいかないかの台数を、ボーリンググリーンていうケンタッキーの専用工場でつくっているんですが、そのうちの95%はアメリカ市場にいっちゃうんです。残りが輸出向けで、日本は最近の人気上昇もあって、海外マーケットで5番目くらいの位置にいます。そこでわれわれも、毎月毎月「もっとくれ、もっとくれ!」って戦っているんです。気を抜くと、他のマーケットが「いやいや、うちのマーケットのほうがもうかりますよ」と横から出てきて、クルマを持っていってしまうので。

webCGほった:世界的に奪い合いなんですね。

上原:まずはアメリカでのバックオーダーをもう少し減らさないと。それが解消されれば、日本へ持ってこられる数も、もう少し増やせるんじゃないかと思います。

ワイドボディーや専用の空力パーツも相まって、独自のスゴ味を放つ「Z06」。C8のデザインを「スマートすぎる」と敬遠していた人も、これなら納得の迫力だろう。
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「Z06」のならし運転中、方々で話しかけられ、カメラを向けられたと語る上原氏。SNS等で拡散されなくてよかったですね!
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富士スピードウェイのレーシングコースを走る「Z06」(左手前)と、レギュラーモデルの「コンバーチブル」(右奥)。C8はレギュラーモデルもバックオーダーを抱えているため、納車待ち中のお客から「今からZ06に変えられない?」と相談されることもありそうだ……。
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「コルベット」の故郷であるケンタッキー州のボーリンググリーン工場。C8の生産開始に合わせて人員の増強がなされたが、それでも生産は追いついていないという。
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「CHEVROLET FAN DAY 2023」が行われた富士スピードウェイのパドックの様子。ご覧のとおり、ミドシップの「コルベット」は日本でもすっかり受け入れられており、GMジャパンは「もっとクルマを日本に回してくれ!」と本国に掛け合っているという。
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エンジニアの熱量が尋常ではない

webCGほった:先ほど「“ならし”運転で注目された」というお話をうかがいましたが、GM車って若い方からの注目度が高いですよね。ワタシも取材でクルマに乗っていて、ガソリンスタンドとかで話しかけられるのはGM車のときが一番多いんですよ。カマロ、エスカレード、コルベット……。若者にこれだけ訴えかけるクルマって、そうはないと思います。GMのデザイナーは本当にスゴいと思いますよ。

上原:デザイナーはとにかく自信とプライドを持ってやっていますからね。語らせたら語りますよ(笑)。でもね、デザイナーってだいたいそういうものなんです。これがカマロやコルベットでは、エンジニアも語るんですよ! それは皆、明確に「この世界で一番になろう。絶対になる」って思ってやっているから。例えばZ06のエンジンなんかは、市販のV8自然吸気のなかでは最高出力じゃないですか。これはもう、はじめからそうするって決めていたんだけれども、ギリギリギリギリ、詰めて詰めて詰めて開発していった結果、当初の開発目標よりさらに高いところまでいってしまった。

中野:ボディーもそうで、C8.Rに使っていたテストアプリケーションを全部使ってデザインに生かしている。カッコだけじゃなくて機能がデザインに生きているんです。C8ではエンジンのパワーを路面に伝えるため、揚力の抑制、ダウンフォースの強化をものすごくこだわってやりました。パワーがあってもダウンフォースがなければ逃げてしまうんで。

上原:タイヤにしても、ミシュランにたくさんメニューを用意してもらって、走り込んで走り込んで、とにかくタイムを詰めるわけです。で、「これかこれ」って仕様を絞って、また走って走って……。それは皆、語りますよ(笑)。

このZ06ができたとき、社内向けにセッションが組まれたんです。アメリカ時間でやるから日本だと夜中の2時からになるんですけど、3時間のセッション中、とっかえひっかえエンジニアが出てきて、もうしゃべるしゃべる。おなかいっぱいになりました。

webCGほった:コルベットはどれもそうでしたけど、Z06もものすごい熱量のクルマみたいですね。

上原:だからラジエーターが5つも必要になっちゃったんですよ(笑)。

(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=ゼネラルモーターズ・ジャパン、webCG/編集=堀田剛資)

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堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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