BMW iX1 xDrive30 Mスポーツ(4WD)
今が収穫期 2023.06.06 試乗記 「BMW X1」がフルモデルチェンジ。従来モデルとの最大の違いはピュアな電気自動車(BEV)の「iX1」がラインナップされたことだ。エントリーSUVながら、前後車軸にそれぞれパワフルなモーターを搭載。果たしてその仕上がりは?警鐘を鳴らす一方で
次世代パワートレインにまつわるBMWの戦略は、日本の自動車メーカーが示すそれとよく似ている。
それすなわちマルチパスウェイ。
オリバー・ツィプセ会長はコロナ禍以降、機会あるごとに内燃機廃止を伴うEUのBEV一本足戦略に異議を唱えてきた。市況の悪化や原材料調達の偏り、要素技術の対外的な依存性、仕向け地別のCO2削減率などに鑑みると、BEVへのハードランディングは自らの首を絞めることになりかねない。至って正論だと思う。
この論がより大きな意味を占めるようになってきたのが、この1年余のEU圏での急激な状況変化、具体的にはロシアのウクライナ侵攻や中国のNEV車攻勢だ。2023年の第1四半期、中国車の輸出台数は日本を抜いて世界一となった。仕向け地別台数でロシアが1位というのは理解できるが、一方で全数の3分の1を占めるNEV車の多くは需要地である欧州域になだれ込んできている。
この状況下で内燃機を捨て去る方策はエネルギーのみならず、経済的な安全という側面からみても無謀に過ぎる。先の合成燃料容認方針の表明もしかりだが、EUはここでようやく現実との折り合いにかじを切ろうとしているようにうかがえる。
と、その一方でBMWはラインナップの電動化にもご執心だ。既に日本でも5銘柄のBEVと4銘柄のプラグインハイブリッド車(PHEV)が展開されている……と書いているところに、新型「5シリーズ」のBEV版「i5」の日本導入も発表された。
プラットフォームはガソリンモデルと共用
なんだかんだ言いながら、やるこたぁやってんなぁ! とツッコミたくもなるが、世は100年に一度の変革期。世の中がどう転んでも受け身がとれるように構えておくのは当然といえば当然だし、状況に応じてきびすを返すのもまた当然だ。むしろこういう有事の際には、朝令を暮改できない日本の生真面目さのほうが足を引っ張ることになるのかもしれない。
今、日本で買えるBMWの最も新しいBEVはiX1だ。現時点ではFF系アーキテクチャーをベースとした唯一の、そして最もコンパクトなモデルとなる。BMWはFR系のCLARプラットフォームでは内燃機とPHEV、そしてBEVを柔軟につくり分けているが、果たしてMINIの一部モデルと共用するULK2プラットフォームがどれほどの受容性を持つかは未知数だ。動的質感もさておき、床面へのバッテリー搭載によるユーティリティー面への影響は気になるところだろう。
日本に導入されるiX1は「xDrive30」、つまり前後軸にモーターを搭載する4駆ということになる。2つのモーターのアウトプットはまったく同じで、システム総合での最高出力は272PSで最大トルクは494N・m。数値的なところで言えばパワーは「330i」以上、トルクは「M340i」にほど近い。ちなみに最高速は180km/h、0-100km/h加速は5.6秒と発表されている。
iX1が搭載するバッテリーは66.5kWhと、このクラスの標準的な容量。ちなみに「EQA250」とぴたり同じだ。2モーター4駆にして最大航続距離はWLTCモードで465kmとライバルを引き離す効率を示していて、試乗でもそれを実感することになった。残量10%→80%に要する充電時間は出力8kWの普通充電で6時間30分、90kWの急速充電では50分となる。
インフォテインメント系は上位モデルに見劣りしない
iX1の最低地上高は172mmと、同じアダプティブMサスペンションを採用するガソリンモデルの「xDrive20i Mスポーツ」に比べてもさらに17mm低い。バッテリーを床下に積むがゆえだろうが、そのかさは室内側へも若干ながら侵食していて、ペダルまわりを除けばうっすらと床面が上がっている。181cmの筆者でもドラポジに差し障りはないが、後席は床面が高いぶん、太ももが少し上がり気味の着座姿勢となるのは致し方ない。が、つま先の置き場所はしっかり確保されているし、そもそものX1の素性として前後席間が広いこともあり、後席居住性はまずまずだ。荷室容量は内燃機モデルに対して50リッター小さい490リッターで、4:2:4の独立したフォールダウン機能を用いれば、最大で1495リッターにまで拡大できる。
インフォテインメントやADASは最新世代のものがおごられており、機能的にも「iX」のそれに準じるなど、エントリーモデルながら出し惜しみはない。イルミネーションなどアンビエントな仕掛けものはさすがに上位車種のようにはいかないが、しつらえそのものはライバルと互角以上のところにある。そもそもハコがかっちり仕上がっているのか、ドアの開閉などから伝わる感触は剛性たっぷりという印象だ。
ちなみにiX1の生産を担当する独レーゲンスブルグ工場は、仮想工場の導入やデジタルツインの実装などクルマづくりの最先端をいくような設備投資がバンバン繰り広げられている。その新しさが品質につながっているか否かは定かではないが、BEV時代に進むだろう生産技術改革を彼らが先取りしていることは確かだ。
おのずと土台ががっちり重くなるBEVの場合、拾った入力が上物に集まりがちだ。それゆえに建屋の剛性やそのバランスは内燃機もの以上に重要になる。その点で言えばiX1は十分合格ラインだろう。大きな入力もパシッと一発で抑え切る一方で、低周波の振動が室内にたまることもない。微小~小負荷域ではちょっとアシの硬さが気になるが、Mスポーツとしては遠慮気味なタイヤのエアボリュームがうまくそれを丸めている。総じてすっきりと気持ちいいライドフィールは、このタイヤサイズによるところも大きいだろう。
電費のよさでライバルをリード
コーナリングで味わえるのもまた、ブレがないスキッとした旋回感だ。凝ったサスからなるそもそもの接地性のよさに加えて、駆動配分の精緻さも奏功しているのだろう。背高な体格を感じさせない高い安心感とクリーンな運動性能が備わっている。一方で高速域では大きなうねりなどで伸び側の抑えが甘く、バウンシングがやや大きい点は他と共通したBMWの癖といったところだろうか。逆に極低速域では回生と油圧のブレーキ協調がやや雑な点が気になるが、ブレーキペダルの操作力や摺動を調整するだけでも随分印象は変わりそうだ。
と、実はそれらを差し置いて、今回のiX1の試乗で最も感心したのは電費のよさだった。撮影を伴いつつ、もろもろの特性をみるために気遣うことなく走らせても5.9km/kWh。高速を流れに任せてACCで走らせている際には7km/kWhをマークするなど、同級のBEVに対して1割近く省電力を達成しているのではないかという印象だ。これはiX1に限らず、他のBMWのBEVにも共通した特徴といえる。
理由は推するしかないが、やはり「i3」で積んだ経験はゼロではないはずだ。前述の生産技術の件もしかりだが、先駆けて払った高い授業料は無駄にはなっていない。それは居抜きであらゆるパワートレインを受け止める設計をして、時流の変化に対応しながら価格的優位に立つという方針にもみてとれる。実際、日本でのiX1の価格は戦略的とはいえ、「日産アリア」や「トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ」に対しても競争力は十分だ。BEVを巡る覇権争いの厳しさはこういうところにも表れる。
(文=渡辺敏史/写真=峰 昌宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW iX1 xDrive30 Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4500×1835×1620mm
ホイールベース:2690mm
車重:2030kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:190PS(140kW)/8000rpm
フロントモーター最大トルク:247N・m(25.2kgf・m)/0-4900rpm
リアモーター最高出力:190PS(140kW)/8000rpm
リアモーター最大トルク:247N・m(25.2kgf・m)/0-4900rpm
システム最高出力:272PS(200kW)
システム最大トルク:494N・m(50.4kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 102Y XL/(後)225/55R18 102Y XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
交流電力量消費率:155Wh/km(WLTPモード)
一充電走行距離:465km(WLTCモード)
価格:668万円/テスト車=720万7000円
オプション装備:ボディーカラー<ミネラルホワイト>(8万円)/ヴァーネスカレザー<モカ×ブラック>(0円)/ハイラインパッケージ(24万1000円)/テクノロジーパッケージ(20万6000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2092km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:326.3km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.9km/kWh(車載電費計計測値)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。