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トヨタ・アルファード エグゼクティブラウンジ(FF/CVT)

優美なハイウェイスター 2023.09.19 試乗記 鈴木 真人 「トヨタ・アルファード」がフルモデルチェンジ。歴代モデルが紡いできた快適性の進化もさることながら、新型の最大の特徴は走りの質感を大幅に高めているところだ。もはやミニバンの運転は退屈な行為ではなくなった。

誰もが知るミニバン日本代表

話題沸騰である。トヨタの「アルファード/ヴェルファイア」が8年ぶりにフルモデルチェンジされたことは、一般メディアでも大きなニュースになった。高級ミニバンのジャンルで一人勝ちを続けてきたモデルであり、注目を集めるのは不思議ではない。今や「クラウン」などのセダンに代わり、ショーファードリブンとして日本を代表する存在なのだ。さまざまなトピックが取り沙汰されている。出来のよさが称賛されるだけでなく、今注文しても納車は1年以上先という情報がさらなる飢餓感を呼んでいるようだ。

クルマ好きでなくても、アルファードの名前は誰もが知っている。テクノミュージシャンBubble-Bの『爆走ミニバン~Highway Star~』では、歌詞の最初に名前を挙げられているのがアルファードなのだ。「エルグランド」「ノア」「セレナ」と続き、5番目にはヴェルファイアも顔を出す。Bubble-Bは特にクルマに関心があるわけではないらしいが、それでもミニバンといえばアルファードというイメージを持っているのだろう。

試乗したのは、アルファードの最上級グレードとなっている「エグゼクティブラウンジ」である。最上級といっても、ほかには「Z」というグレードしかない。パワーユニットは2.5リッターガソリンエンジンと、それをベースにしたハイブリッドの2種類だ。駆動方式はFFと4WDがあり、その組み合わせで6種類がラインナップされる。試乗車はFFで、価格は850万円。4WDなら872万円である。前モデルから大幅にアップした車両価格もちょっとした驚きだったが、注文が殺到しているのだからそれだけの価値があると受け止められているのだろう。

実物と対面すると、迫力に圧倒される。大きなグリルを持つ押し出しの強いキャラクターは、立派さやゴージャス感を求めるユーザーを引きつけた大きな要因なのだ。それはうっかりすると品位に欠ける俗臭をまとう危険を持っていたのだが、新型アルファードには野卑な印象がない。フォルムは野性的な力強さを増しているが、それが悪趣味にならず、むしろ優美さと品格をもたらしているように感じられる。

今回の試乗車は4代目「トヨタ・アルファード」の最上級グレード「エグゼクティブラウンジ」のFFモデル。車両本体価格は850万円。
今回の試乗車は4代目「トヨタ・アルファード」の最上級グレード「エグゼクティブラウンジ」のFFモデル。車両本体価格は850万円。拡大
ボディーの全長は4995mm。先代モデルよりもキャビン全体が後ろ寄りになったことでより伸びやかなスタイリングになった。
ボディーの全長は4995mm。先代モデルよりもキャビン全体が後ろ寄りになったことでより伸びやかなスタイリングになった。拡大
逆スラントのグリルによって先代モデルよりも迫力を増したフロントマスク。ヘッドランプの下のデイタイムランニングライトはグリルと連続した意匠になっており、ウインカーも兼ねている。
逆スラントのグリルによって先代モデルよりも迫力を増したフロントマスク。ヘッドランプの下のデイタイムランニングライトはグリルと連続した意匠になっており、ウインカーも兼ねている。拡大
タイヤ&ホイールは17インチ。最上級グレードだからとむやみに大径サイズを採用していないところが見識だ(下位の「Z」グレードは18インチ)。
タイヤ&ホイールは17インチ。最上級グレードだからとむやみに大径サイズを採用していないところが見識だ(下位の「Z」グレードは18インチ)。拡大
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彫刻的な力感とエレガンス

高速道路のSAで前モデルの隣に駐車する機会があったので、並べて見てみた。デザインの要素としては共通する部分が多い。同じようなフォルムなのに、新型は抑揚とメリハリを強めていて彫刻的な力感を得ている。それでいて、外寸や室内空間に悪影響を及ぼしてはいない。リアに向かって緩やかに下降するラインには、英国の高級車を思わせるエレガンスがある。デザイン陣のあっぱれな仕事ぶりだ。ここ2、3年のトヨタデザインは、ひと頃の停滞と混乱から抜け出したことを示している。

インテリアもこれ見よがしに豪華さを誇示するようなことはなく、節度のある高級感演出だ。シートやドアトリム、ダッシュボードには柔らかで上質な素材が使われ、居心地のいい空間になっている。メーターパネルやセンターコンソールはいたずらに流行を追わないオーソドックスな形状で、コンサバなユーザーの感覚に寄り添っているようだ。乗用車的なドライビングポジションでありつつも視点が高く、ドライバーは気分よく前方を見渡せる。

走りだしてすぐに実感するのは、乗り心地の柔らかさだ。滑るように発進し、悠揚迫らぬ動きで余裕を見せつける。路面が悪い道でも、不快な振動はほとんど伝わってこない。目地段差が連続することで悪名高い西湘バイパスを何事もないようにクリアしたのだから本物である。ガッシリとしたボディーの強さがあり、しなやかな足で衝撃を受け止めているようだ。エグゼクティブラウンジ専用の「周波数感応型ショックアブソーバー」が効果を発揮しているのかもしれない。

路面からの振動に応じて減衰力を機械的に変化させる装備で、乗り心地だけでなく操縦安定性の向上にも寄与しているのだという。それを肌で感じたのは、高速道路である。街なかでのおっとりした振る舞いから一転、キレのいいシャープな身のこなしを見せる。路面に張り付くように高速コーナーを抜けていく圧倒的な安定感は、まさにハイウェイスター。ドライバーは無敵感に包まれる。

後ろ下がりになったボディーサイドのキャラクターラインによって飛びかからんとする闘牛のような躍動感を表現している。
後ろ下がりになったボディーサイドのキャラクターラインによって飛びかからんとする闘牛のような躍動感を表現している。拡大
VIPの移動空間としても使われることが多いため、室内には過度な装飾が施されず落ち着いた印象。木目の部分には「UZURAMOKU」と呼ばれるリアルウッドを使っている。
VIPの移動空間としても使われることが多いため、室内には過度な装飾が施されず落ち着いた印象。木目の部分には「UZURAMOKU」と呼ばれるリアルウッドを使っている。拡大
ヘッドアップディスプレイとステアリングスイッチの連携によって車両のさまざまな機能をコントロールできる。レクサスでは「Tazuna Concept」と呼ぶが、トヨタでは「タッチトレーサーオペレーション」と呼ぶ。
ヘッドアップディスプレイとステアリングスイッチの連携によって車両のさまざまな機能をコントロールできる。レクサスでは「Tazuna Concept」と呼ぶが、トヨタでは「タッチトレーサーオペレーション」と呼ぶ。拡大
運転席のドアアームレストには、スライドドアの開閉スイッチと2列目シートの背もたれやオットマンを自動でデフォルト位置に戻すスイッチが備わっている。
運転席のドアアームレストには、スライドドアの開閉スイッチと2列目シートの背もたれやオットマンを自動でデフォルト位置に戻すスイッチが備わっている。拡大

2列目はエグゼクティブ

大型ミニバンが苦手とするはずのワインディングロードでも、華麗な走りを披露した。タイトなコーナーが続く道ではさすがに慎重なドライブを強いられたが、中高速コーナー主体の箱根ターンパイクでは水を得た魚のよう。ロールは少なめで不安感はなく、思いのままに向きを変える。加速では勇ましいエンジン音が聞こえてくるが、騒音というレベルではない。車内は快適な空間のままだ。

車重が2tを優に超える大型ミニバンを活発に走らせたのに、燃費は12.7km/リッターを記録した。『爆走ミニバン~Highway Star~』には「♪CVTなら燃費は10キロ」という歌詞があるが、それ以上の好燃費である。快適な乗り心地と高い操縦性を両立させ、燃費もいい。マツダがミニバンから撤退したのは、目指す走りを実現するのが難しいとの理由だったが、アルファードの仕上がりを見たら考え直すのではないか。

ここまで運転席からの印象を書いてきたが、このクルマで特等席となるのは2列目である。ことにエグゼクティブラウンジでは、極上の座り心地を誇るキャプテンシートが乗員に至福の移動時間を提供することに大きな意味があるのだ。おもてなし感はさらにグレードアップされており、腰を下ろすとなんだか偉くなったような気がしてエグゼクティブ気分に浸れる。表皮のプレミアムナッパレザーは肌触りがよく、480mmものパワーロングスライドで思いどおりの位置決めができる。

前方に広がった空間にオットマンをせり出し、思い切りリクライニングすればまったりした安楽姿勢が眠りを誘う。シートを立たせて回転格納式テーブルを使うと、飛行機のビジネスクラスにいるような心持ちに。アームレストには脱着式のマルチオペレーションパネルが仕込まれていて、空調やオーディオ、照明などをスマホ感覚でコントロールできる。

「エグゼクティブラウンジ」のシート表皮はプレミアムナッパ本革。今回の試乗車のニュートラルベージュのほかにブラックも選べる。
「エグゼクティブラウンジ」のシート表皮はプレミアムナッパ本革。今回の試乗車のニュートラルベージュのほかにブラックも選べる。拡大
2列目は「エグゼクティブラウンジ」専用のキャプテンシート。トヨタ車としては初めてレールとの間に防振ゴムを採用したほか、シートバックには低反発ウレタンを使っている。
2列目は「エグゼクティブラウンジ」専用のキャプテンシート。トヨタ車としては初めてレールとの間に防振ゴムを採用したほか、シートバックには低反発ウレタンを使っている。拡大
シートバックを最大限に倒し、オットマンとテーブルを展開したところ。腰を下ろすとなんだか偉くなったような気分に浸れる。
シートバックを最大限に倒し、オットマンとテーブルを展開したところ。腰を下ろすとなんだか偉くなったような気分に浸れる。拡大
2列目頭上のオーバーヘッドコンソール。スライドドアやウィンドウ、ルーフおよびウィンドウシェードの開閉ができる。
2列目頭上のオーバーヘッドコンソール。スライドドアやウィンドウ、ルーフおよびウィンドウシェードの開閉ができる。拡大
スマートフォンのような形状のマルチオペレーションパネルは脱着式。オーディオやアンビエントライトがコントロールできるほか、これでも各サンシェードの開閉が可能。
スマートフォンのような形状のマルチオペレーションパネルは脱着式。オーディオやアンビエントライトがコントロールできるほか、これでも各サンシェードの開閉が可能。拡大

多様なコントロール機能

マルチオペレーションパネルは、サンシェードの開閉にも対応している。下降するタイプで任意の位置で止めることができる便利な機構だ。コントロールの手段はほかにもある。天井に備わるスーパーロングオーバーヘッドコンソールは、サイドに加えてルーフサンシェードの操作もでき、カラーイルミネーションの切り替えやパワースライドドアのスイッチもある。

運転席にもコントロールの機能が用意されていて、同じ動作を何種類もの方法でできるようになっている。スライドドアの開閉では7種類もの操作方法を見つけたが、もっとあるかもしれない。至るところにスイッチがあって、短い試乗ではとてもすべてを把握することはできなかった。試乗車に「CHECK!! 見落としがちなアイテム」と記されたA4サイズ4枚の操作マニュアルが入れてあったのは、それを分かったうえでの親切なのだろう。

3列目にも座ってみて、苦痛を強いられる空間ではないことを確かめた。SUVがいくら頑張っても追いつけないアドバンテージである。後席の乗員にとってのパラダイスとなるのが、ミニバンという車型なのだ。新型アルファードはドライバーにとっても不満のない性能を実現しているが、当然ながら運転を楽しむことが最優先されるクルマではない。かつてはミニバンの運転はあまりありがたくない役割だったが、ネガティブな面を消したということなのだ。主役が2列目、3列目の乗員であることは変わらないが、ドライバーが苦痛を感じる必要がなくなったことに意義がある。

歴史を大きくさかのぼれば、後席には屋根があっても運転席は吹きさらしという時代もあった。日本的ミニバンの進化は、ドライバーにも恩恵を与えて高度な民主化を実現したのだ。民主化の大先輩がクルマを大衆に普及させた「T型フォード」である。生産を効率化して価格を下げるために、ボディーカラーを黒に統一するという割り切った手法まで取り入れた。試乗車は「プレシャスレオブロンド」だったが、アルファードのボディーカラーはほかに白と黒だけ。ヴェルファイアに至っては白黒2色である。生産効率化のためかどうかは知らないが、100年以上前のレジェンドとの親縁性をつい感じてしまった。

(文=鈴木真人/写真=峰 昌宏/編集=藤沢 勝)

2.5リッターハイブリッドはシステム最高出力250PSを発生。車重2230kgのヘビー級でありながらWLTCモード燃費は17.5km/リッターを誇る。
2.5リッターハイブリッドはシステム最高出力250PSを発生。車重2230kgのヘビー級でありながらWLTCモード燃費は17.5km/リッターを誇る。拡大
座面の両サイドがはね上がり、包み込まれるようなサードシートは、3列SUVには望めない装備。カップホルダーやUSBなどの用意も抜かりない。
座面の両サイドがはね上がり、包み込まれるようなサードシートは、3列SUVには望めない装備。カップホルダーやUSBなどの用意も抜かりない。拡大
3列目シートの格納は左右へのはね上げ固定式。最後にベルトで固定するのは先代モデルと同じだが、ある程度の高さまで上げた後は自重で落ちてこないようになったため、格納しやすさは段違いだ。
3列目シートの格納は左右へのはね上げ固定式。最後にベルトで固定するのは先代モデルと同じだが、ある程度の高さまで上げた後は自重で落ちてこないようになったため、格納しやすさは段違いだ。拡大
リアエンターテインメントシステムのスクリーンは14インチ。テレビチューナーは標準装備だが、CD/DVDデッキはオプションとなっている。
リアエンターテインメントシステムのスクリーンは14インチ。テレビチューナーは標準装備だが、CD/DVDデッキはオプションとなっている。拡大

テスト車のデータ

トヨタ・アルファード エグゼクティブラウンジ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1850×1935mm
ホイールベース:3000mm
車重:2230kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:190PS(140kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:236N・m(24.1kgf・m)/4300-4500rpm
モーター最高出力:182PS(134kW)
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
システム最高出力:250PS(184kW)
タイヤ:(前)225/65R17 102H/(後)225/65R17 102H(ブリヂストン・トランザT005A)
燃費:17.5km/リッター(WLTCモード)
価格:850万円/テスト車=888万1920円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスレオブロンド>(5万5000円)/ユニバーサルステップ<スライドドア左右・メッキ加飾付き>(6万6000円)/ITSコネクト(2万7500円)/CD・DVDデッキ(4万1800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エグゼクティブ・エントラントマット付き>(13万2000円)/ラグマット(1万5400円)/前後方2カメラドライブレコーダー(4万4220円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:998km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:489.1km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.7km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタ・アルファード エグゼクティブラウンジ
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トヨタ・アルファード エグゼクティブラウンジ(FF/CVT)【試乗記】の画像拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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