第760回:ブランド初のBEVを示唆! 「ランボルギーニ・ランザドール」に見る“牡牛”の挑戦
2023.09.06 エディターから一言![]() |
ランボルギーニが電気自動車(BEV)のコンセプトモデル「ランザドール」を発表。2028年導入予定のニューモデルを示唆するショーカーは、他に類を見ないGTの姿をしていた。ブランド初のフル電動マシンに見るランボルギーニの狙いを、4人のキーマンに聞く。
◆「ランボルギーニ・ランザドール」のより詳しい写真はこちら(53枚)
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道行く人が振り返る
ところは米カリフォルニア州のペブルビーチ17マイルドライブ。風光明媚(めいび)な海岸線をたまたまドライブしていた観光客たちが、大層驚いている。歩道のジョガーたちが思わず立ち止まっている。なぜなら、まとった青色をかすかに変化させながら、見たこともないスタイルの、けれども確かにランボルギーニっぽいクルマが、突如、しかも無音で現れたのだから。前の2席は東洋人が占めており、後部にも席があって、そこには西洋人が2人座っている。いったいなにがそこまで彼らを楽しませているというのだろう? みな幸せそうに笑っている……。
人々をアッと驚かせること。それこそがランボルギーニの真骨頂だ。そもそもモダン・ランボルギーニの歴史は「おったまげ~」という感じの北イタリア方言を車名にしたモデルで始まった。「クーンタッチ」=「カウンタック」である。見るものを驚かせ、そしてそれがどんなカタチであっても「あ、ランボルギーニだね」と思わせる。同時に、パワートレインや駆動方式によらず、当代一級のパフォーマンスを備えている。レイジングブルのエンブレムを背負ったモデルはそうでなければならない。
2023年8月、恒例の「モントレー・カーウイーク」が久しぶりに“フル開催”された。ギャザリングからツーリング、レース、オークション、そしてコンクールと、多種多様なイベントが実に9日間にわたりモントレー・ペニンシュラ一帯で催される。自動車マニア垂涎(すいぜん)の、間違いなく世界最大級のカーイベント群だ。
数あるイベントのなかでも、ラグジュアリーブランドによる新型車の発表が多く予定されているのが、ペニンシュラホテルグループのゴルフリゾート「ザ・クエイル」で開催される「モータースポーツ・ギャザリング」である。新興のハイパーカーメーカーから、ロールス・ロイスなどの老舗まで、ビリオネア御用達のブランドがこぞって集結し、ニューモデルを披露することで有名だ。そのぶん入場料もバカ高く、実に10万円近くする。
今年の注目は、なんと言ってもランボルギーニだった。ブランド初となるBEVのコンセプトカーを発表すると、事前に広報されていたからだ。
ファンの予想を超えてこそランボルギーニ
ランボルギーニは2021年に「Direzione Cor Tauri(コル・タウリを目指せ)」計画を発表し、2028年からBEVの2+2シーターGTを販売すると明言している。2023年のこのタイミングで発表されるコンセプトカーが、それに深く関連するモデルであることは明白だった。5年も先のこと? いやいや、「ウルス」を思い出してほしい。あの時もコンセプト発表から市販まで5年を要した。この先5年で「ウラカン」の後継も出てくる、ウルスのモデルチェンジもある、さまざまな派生モデルが登場する。あっという間のことだろう。
いったいどんなGTが登場するのか。多くのファンやマニアは、以前にランボルギーニが提案したGTコンセプトの「エストーケ」や「アステリオン」の姿を思い描いたはずだ。4ドアクーペ、もしくは2ドアクーペ。しかしながら、いずれもマーケットにはすでに存在するカテゴリーである。前項を思い出してほしい。ランボルギーニのようなブランドが、みんなの予想どおりのモデルをつくっていいものか?
果たしてランボルギーニは、多くのファンの予想を裏切り、というか予想もつかないカタチをした新型BEVのコンセプトを発表した。その名はLanzador(ランザドール)。もちろん名のある闘牛から拝借した名前である。金曜に行われたザ・クエイルでの発表に続き、週末のコンクール展示も終えた月曜の朝、私は17マイルドライブで、そのランザドールに乗っていたのだった。後部座席にルーベン・モール氏(開発責任者)とミッティア・ボルケルト氏(チーフデザイナー)を乗せて。
4ドアボディーを選ばなかった理由
運転をしながら、前夜祭やお披露目の席で聞いた話を思い出す。
「第4の新たなモデルを開発するにあたっては、もちろんいろんなアイデアがありました。けれども、われわれはすでに2つのスーパーカーと1つのスーパーSUVを擁しています。そこにもう1台、どうしても必要なモデルはなにかということを考えた時、小さなSUVはブランドとして要りません。ウラカンの後継より下のスーパーカーも同様です。われわれは生産台数を競っているわけではないからです。かといって4ドアセダンの人気には、はっきりと陰りが見える。それに、われわれにはすでにウルスという“4ドアモデル”がある。そうすると必然的にGTという選択肢が残ったわけです。それも、われわれの伝統にのっとった2ドアのラグジュアリーなGTを、全く新しいスタイルで提供したい。ブランドのエクスクルーシブ性を保つ意味でも、それは(ウルスのように)販売台数を狙うモデルではありません」(ステファン・ヴィンケルマン社長兼CEO)
4ドアでなかったことに対して、中国や北米のメディアからはネガティブな反応もあった。それに対してマーケティングトップのフェデリコ・フォスキーニ氏は、「中国や北米でも4ドアセダンの需要は先細りすると見られている」と答える。それよりもスタイリッシュなGTのほうが、今はマーケットが小さくても「未来を見据えるとまだポテンシャルがある」と判断したということだ。ちなみにヴィンケルマンCEOいわく、ウルスのオーナーの約7割が、普段はひとりでウルスをドライブするという。「(セダン好きの)メイン市場だけを見ればいいというものではない。GTを受け入れてくれそうな地域は、例えば中東や東南アジア、それに日本などがある」とフォスキーニ氏は続けた。
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完全に新しく、どこから見てもランボルギーニ
後席の2人にも話を聞こう。
「ランボルギーニのデザインDNAはとてもシンプルです。サイドウィンドウの形、明確なサイドのキャラクターライン、そしてヘキサゴンスタイルのキャビン。これを守りながら、全く新しいスタイルのGTを考えました。もちろん若いデザイナーたちのアイデアが常にたくさんあって、ゼロから始めたわけじゃありません。スペースシップをクルマで表現するというアイデアはいつの時代も刺激的です。ランザドールではリアリティーあるデザインでそれを表現できたと思います。また、『ウラカン ステラート』はいい経験でした。スーパーカーのスタイルのまま車高を上げてみると、とてもクールだった。ならばそこに+2のシートとラゲッジルームを足してみたら? ランザドールになります。そして完全にモダンで新しい。けれども、どこから見てもランボルギーニなのです」(ミッティア・ボルケルト チーフデザイナー)
実際にランザドールのシートに座ってみると、薄く左右に広がるフロントスクリーンと、カウンタックのように迫ってくるフロントピラー、そして適度に高い視点の組み合わせが、これまでになく新しい。見上げれば、ペリスコープの現代版というべき天窓もあった。
室内はモダン・ランボの定石にのっとってY字シェイプを多用し、デザインに一貫性と個性をもたらしている。芸の細かいことに、ディテールにも“Y字”は多用されている。そしてなにより、ルーミーで心地いい空間だ。このインテリアデザインだけで欲しいと思ってしまう。
+2とはいえ、リアシートには背の高いルーベンもなんとか収まっている。ミッティアは私とほぼ同じ背格好で、十分くつろいでいそうな雰囲気だ。「+2というよりも、“+ライフスタイル”なのです。スーパースポーツに乗りながらアウトドアやスポーツなど、他の趣味を諦める必要がない。日常のスーパースポーツです」(ボルケルト)。この日、リアにはランボ特製のサーフボードとスケートボードが収まっていた。
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エンジン車を超える体験を提供したい
開発責任者のルーベン・モール氏も、いささか突っ込んだ話をしてくれた。
「このプロジェクトは約1年前に始まって、数カ月前に市販に向けたロードマップも動き始めました。このショーカーも、コンセプトカーっぽく仕立てたディテールは散見されますが、その実、プロポーションなどは市販車に近いものと思っていただいていい。外観だけじゃありません、ベースとなる電動アーキテクチャーもすでに確定しています。それはもちろんフォルクスワーゲングループの次世代を担う新型アーキテクチャーですが、(ウルスの時とは違って)今回はわれわれがそれを活用する最初のブランドになりそうです。つまり、開発の段階でこちらの必要とする新しい技術や装備をすべて盛り込むことができた。後から使うブランドは、それらから必要なものを取捨選択するわけです。もちろんアプリケーションは完全に専用設計なので、ベースが同じだといっても全く違うクルマになります。エンジン車のプラットフォーム概念よりも、さらに個性が出せる」
「われわれは他の電動モデルにはない、これまで誰も経験したことのないドライブ経験を実現すべく、先行開発で温めてきた新たなアイデアを惜しみなく注ぎ込みました。完全電動化によって4輪へのトルクの配分が自由になった。これを最大限に活用し、メガワット級のパワーを誰もが安全に、そして自分がヒーローになったかのように操れるようになる。エンジン車を上回るエクストリームさが備わることになるでしょう。それこそが電動ランボルギーニの目指すところなのです」
確かに、お披露目されたランザドールは単なるハリボテではなかった。ゆっくりであったとはいえ、こうしてステアリングを託され、運転することもできたのだ。なにより細部のつくり込み、インテリアのみならずエクステリア、例えば進化した空力デバイス「ALAシステム」なども、十分に煮詰められたあとがうかがえた。エクステリアが常識的に見えたことも市販に近いことの証しだろう。
2028年には、ほぼこの姿で登場するというブランド初のBEV、ランザドール。細かなスペックを予想することに今はさほどの意味はない。わかっている事実だけ伝えておこう。出力はメガワット級。全長5m以下、高さは1.5m以下、ホイールベース2.95m。はたで見ると意外に大きくは感じない。渋滞のなかを何時間もかけて移動する際でも飽きない、最新のインフォテインメントシステムが搭載されるという。
ヴィンケルマンCEOによれば、今のところ価格はウラカン後継モデルより下で、ウルスより上。生産台数は「レヴエルト」とウラカン後継の間になるという。ウルトラGTという新たな地平をまたしても切り開きそうな、アッと驚く走りにも期待大である。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ/編集=堀田剛資)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。