「下取り保証」に「サブスクリプション」……多様化するクルマの所有について考える
2023.09.18 デイリーコラム負担と不安をどう減らす?
クルマの買い方が変化している。従来は店頭に足を運び、営業スタッフと話をしながら、時に試乗をしたりし、購入するかどうかを検討して、最終的には現金一括か、分割払い(ローン)で購入した。最近は、スマホでお目当てのクルマの情報を収集し、どんな仕様でどんな色にするかなど細かなことまでほとんど事前に決めておき、店頭へは注文に行くだけという買い方が増えているという。
支払い方法にも変化が生じている。新しいのは残価設定型クレジット(残クレ)だ。従来のローンは単純に、車両価格を均等に支払い回数で分割するか、ボーナス払いを設定したうえで分割するかだった。
残クレはあらかじめ3年後(36カ月後)なり5年後(60カ月後)なりの下取り価格を設定し、下取り価格を引いた金額に対してローンを組んで支払う方式だ。例えば、車両価格300万円のクルマに3年後55%、5年後35%の残価率が設定されているとすると、3年の残クレを組んだ場合は車両価格の45%、135万円を支払うことで3年間乗り続けることができる。5年の場合は車両価格の65%、195万円をローンとして返済することになる。
電気自動車(EV)は従来のエンジン車に比べて価値の下落が激しいとされている。それが普及を妨げている一因と判断した販売側は、EVにもエンジン車と同じ残価率を設定することで、購入に二の足を踏むユーザーの不安を解消しようと努めている。「下取り価格は保証するので、安心して買ってください」というわけだ。
クルマを「買う」から「利用する」へ
残クレの魅力は、従来型のローンに比べて月々の支払額が少なくて済むことだ。ただし、支払期間終了時に大きな選択を迫られる。選択肢は3つ。1つは車両を返却し、新しい車両に対して再び残クレ契約を結ぶこと。スマホでも似たようなプランがある。48回払いで契約するのだが、24回払ったところで新しい機種に変更して同様のプランを契約すると、残りの24回は支払わずに済む内容だ。
これなら実質的に(48回分の)24回支払うだけで、高額なスマホを使い続けることができる。クルマの残クレも似たようなものだ。スマホの買い方と同じだからと、抵抗なく残クレを選択するユーザーが多いとも聞く。かくいう筆者も、「多くのお客さまにお選びいただいています」の言葉に、深く考えることなく乗った口だ(スマホも同様)。
残クレ支払期間終了時の選択肢その2は、販売店に返却すること。その3は残価を支払って乗り続けることである。残価に対してローンを組むことも可能だ。支払期間の終了が迫ったときに、どの選択肢を選ぶかは結構悩ましい。それに、定期点検などのメンテナンスや自動車保険は別で、これらについては別途考えなければならない。
残クレに次ぐ新しいクルマの利用方法が、サブスクリプションサービス(サブスク)である。クルマを「買う」のではなく、「利用する」仕組みだ。実質的に個人向けのカーリースである。
“コミコミ定額”は高くもなる
ボルボ・カー・ジャパンは2023年8月24日にEVのコンパクトSUV「EX30」を初披露し、同時にEX30へのサブスク導入を発表した。申込金や頭金は不要で、車両保険を含む任意保険、通常のメンテナンスプログラムに加え、登録時の諸費用や利用期間中の諸税も含まれている。利用期間は24カ月で、月額料金は9万5000円(税込)だ。
自動車保険に自動車税に定期メンテナンス料金など、クルマを所有すると、クルマ本体にまつわる支払いのほかにさまざまな費用がかかる。これらの手続きをしたり、手続きについて考えたりする面倒がないのがサブスクの魅力だろう。
あらゆるプランをきちんと検証したわけではないのだが、ウェブサイトで見積もりのシミュレーションをしてみると、思っていたよりも高い金額になるのが、サブスクの選択に二の足を踏む心理的なハードルだろうか。
例えば「月額1万6610円(税込)~」とデカデカと書いてはあるものの、自分の使い方に合わせてプランを選択していくと最終的には4万4440円になったりして、ため息が漏れたりする。クルマに乗るうえで必要なものがすべて含まれているとわかっていても、数字のインパクトは大きい。分割払いや残クレで支払っている月額の1~2万円プラスになって当然と構えて数字を見たほうがよさそうだ。
クルマは所有するのではなく、使いたいときにカーシェアで使うものという付き合い方が増えているように(筆者の長男は実際このパターン)、「買う」のではなく「利用する」サブスクのユーザーは増えていく気がする。トヨタのKINTOではないが、「コミコミ定額」のシンプルな料金体系が最大の魅力。二の足を踏んでいる人はただ、従来の価値観に縛られているだけなのかもしれない。
(文=世良耕太/写真=トヨタ自動車、マツダ、webCG/編集=関 顕也)
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