スバル・インプレッサWRX STI 4ドア/WRX STI A-Line 4ドア【試乗記】
自由なセダン 2010.07.21 試乗記 スバル・インプレッサWRX STI 4ドア(4WD/6MT)/WRX STI A-Line 4ドア(4WD/5AT)……412万6500円/373万8000円
ハッチバックのハイパフォーマー「スバル・インプレッサWRX STI」に、トランク付きの4ドアセダン版が誕生。どんな走りを見せるのか?
似てるようで似てない双子
「スバル・インプレッサWRX STI」が3年目のマイナーチェンジを迎え、ラインナップに4ドア仕様が加えられた。水平対向4気筒エンジンやフルタイム4WDをはじめとする基本構成に変わりはないが、快適性や走る楽しさを追求して、細部には更なるファインチューンを施したという。
主な改良点を上げると、ロワアームやサスペンションメンバーに使われているピロボールブッシュは、操縦安定性に効く横方向の剛性が上げられるとともに、乗り心地を考慮して前後方向の動きには緩やかに対処するよう変更。スプリング/スタビライザー/ダンパーなども微妙にレートが見直され、車高は5mmローダウン、重心高も下げられた。また18インチのBBS製鍛造アルミホイール(オプション)は、ブラック仕上げとなった。タイヤサイズは前後同じで、245/40R18だ。
今回試乗したのは、4ドアの2リッターモデル(6段MT)と同2.5リッターモデル(5段AT)の「A-Line」。性格の異なる2車種である。
まずATの「A-Line」から。「WRX STI」はもちろんインプレッサのなかでも硬派中の硬派ではあるが、先に出たハッチバックモデルでは、実際に売れているのはAT仕様のほうなのだ。排気量も少し大きくしてあり、たっぷりしたトルクでもって、楽チンな2ペダルで流せる。
レッドゾーンは6800rpmからだが、実際加速していくと、6000rpmを少し超えるあたりで自動的にシフトアップしてしまう。また、マニュアル操作によるシフトダウンができるのは4000rpm以下、キックダウンは3000rpm以下に限られてしまうので、少し元気に走るにしても、現実には3000-5000rpmの範囲で間に合ってしまう。
それでも、速度計は結構な数字に達する。競技に出るわけでもないし、一般道でぎりぎりにコーナーを攻めるわけでもなかろうから、瞬時の追い越しなどで加速を楽しむぶんには、むしろ非常に具合がいい。
硬派な優等生
4WDの3つのデフは、AT車とMT車とでは構成が異なる。ATでは前はヘリカルLSDで、センターにはプラネタリーギア。トルク配分は前後45:55(MT車は41:59)の固定配分。リアにはビスカスLSD(MT車はトルセンLSD)が装着され、実にスムーズな走行感覚を実現している。
「WRX STI」の硬派たるゆえんは、ピッと切れるレスポンスのいい操舵感であったり、ごくわずかではあるがロールして外輪に荷重を加えたところにトラクションを与えて、タイヤと路面がちゃんとコンタクトしていることを実感できる接地感などにある。乗り心地もむやみに硬くはなく、ボディの姿勢は終始フラット。決してあおることはない。道路の目地を通過する際も、コツコツと突き上げを感じさせることなしに、軽い音程度で路面の状況を知らせてくれる。洗練された高級乗用車がもつ感覚だ。シートは、クッションのストロークこそ少ないがホールド性は良く、しっかり腰を固定されている安心感がある。
動力性能のほうはもう機械任せにして、ドライバーは、ステアリング操作だけに専念すればいい。ブカブカした余分な動きの多い、ごく一般的な鈍い乗用車に我慢したくない人にとって、これほどストレスの少ないクルマはないだろう。
とはいえ、MTのほうはさらに面白い。というか、運転に自由度を求める向きには、こたえられない魅力がある。
確かに、変速作業の煩わしさは機械任せにしたほうがよく、多段化して効率的になったギヤボックスをもってすれば、作動の点でも正確なのかもしれない。それでも、つながりが間接的なATに対して、スロットルペダルの動きとタイヤが直結しているかのような、MTの加減速感(これも最近は電気モーターが介在するので、本当の意味ではダイレクトではないが)。そして、5000から8000rpmに至る高回転域でのパンチ。最後まで回しきる感覚。クラッチ操作で、いつでもどこでもパワーを瞬時に断ち切れることもあり「ドライバーの意思でクルマが自由になる」という征服感は大きい。
乗り手にこびるべからず
そうした自分でコントロールする楽しみという点では、意思とは無関係のところでエンジン特性を変化させるデバイス――過給圧や電気でイタズラする「S」と「S#」の切り替えなど――は、個人的にはあまり必要性を感じない。パワーは“慣れてしまえば同じ”なのだから、切り替えできるようにするのではなく、絶対値を高くしてしまえばいい。エコロジーな走りというものは、アクセルペダルの踏み込み加減やギアの選択で応じればいい。
今や少数派となったMT仕様を公道で楽しみたい人にのためには、あまり余計なものは付けずに素のままにして、ドライバー自らコントロールする余地をたくさん残しておいてほしい。競技に出るためのベース仕様を求めるユーザーのためには、オプションを充実させればいいのだ。その上で、メーカー主導で「この本当のオモシロサを味わってみろ!」という挑戦的な主張を持たせたモデルであるべきだと思う。ユーザーにこびて商業的な目的で作るのは、AT車だけで十分だ。
最後に、新しい4ドアのボディについてもひとこと触れよう。ノッチバックセダンゆえの落ちついたたたずまいは、確かにハッチバックの軽さとは違った趣がある。太いクォーターピラーは強靱(きょうじん)なイメージをかきたて、実際にボディ剛性の高さの点でも有利である。モノコックボディならば開口部は小さい方がいいし、後輪荷重の点ではハッチバックより軽いだろう。重心高も低いように思う。
リアウィングの効果のほどは、今回の試乗で体感はできなかったが、メーカーが開発したパーツならば、そのメリットはデータで証明されているはず。大きくとも、絶妙な高さなので後方視界の妨げにはなっていない。「A-Line」には備わらないが、それでいいのだろうか? フェンダーの膨らみもまたスタイリング上の重要なポイントで、リアスタイルに、ドライバーのヤル気をかき立てるような迫力を加えている。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)
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