スバル・インプレッサR205(4WD/6MT)【試乗記】
R40! 2010.07.15 試乗記 スバル・インプレッサR205(4WD/6MT)……497万7000円
400台限定で発売された「スバル・インプレッサR205」。特別な名前に込められた、パフォーマンスの内容をリポートする。
スタートするなり肩すかし
STI(スバルテクニカインターナショナル)が400台の限定で特別に仕立てた「インプレッサ」ということで、「ヨシ!」と気合いを入れる。でっかいルーフスポイラーが、ただ者ではない雰囲気を醸している。イメージするのは、本2010年5月のニュルブルクリンク24時間レースでクラス4位に入賞した、「インプレッサWRX STI」だ。「R205」専用のアルミ製サイドシルプレートをまたいで乗り込み、オプションのレカロに収まってもう一度、心の中で「ヨシ!」とかけ声をかける。
重いは重いけれど作動自体は滑らかなクラッチを踏んで、320psにパワーアップした2リッター水平対向4気筒ターボを始動。ちなみに、ノーマルの「インプレッサWRX STI」は308ps。6MTを1速に入れ、割と奥のほうでつながるタイプのクラッチをミートする。「あれれ!?」。スタートして数十メートルで肩すかしを食らう。バッキンバッキンの武闘派を想像していたのに、乗り心地に荒っぽさが一切ないのだ。サスペンションがきれいにストロークするから、路面の不整とケンカにならない。むしろ、凸凹に合わせてダンスをする感覚だ。
エンジンだって扱いやすい。パワーが上がっているからといって、高回転域しか使えないピーキーな性格にはなっていない。2000rpmちょいも回せば、有効なトルクが湧いてくる。エンジンスペックでは最大トルクを4000rpmで発生することになっているけれど、トルク曲線を見ると2500rpm付近から最大トルクの80〜90%を発生していることがわかる。納得。ここまでの印象は高性能車というよりも、いいクルマというものだ。実際、「R205」の“R”は「RACE」や「RALLY」ではなく「ROAD」を意味するのだという。
駅前ロータリーでも楽しめる
乗り心地のよさもエンジンの扱いやすさも印象的だったけれど、滑らかなステアリングフィールと、その入力に対する反応にも感じ入った。
この美点は、目を三角にして飛ばすような場面だけでなく、日常の領域でも味わえる。タバコ屋の角で、駅前のロータリーで、首都高速の合流で。適度な重みのステアリングホイールをスッと切り込むと、ステアリング操作に込めた意思がタイムラグなしにタイヤに伝わる。そして、いまタイヤがどんな状況に置かれているかという情報が、間髪入れずにステアリングフィールとしてフィードバックされる。ステアリングホイール⇔タイヤ⇔路面でスムーズに情報が行き交うあたり、ポルシェを思わせる。
このステアリングフィールを実現するカギとなるのが、フロントに入れられた「フレキシブルロードスティフナー」というSTI独自の機構だ。簡単に言えば、あらかじめ小さなスプリングでテンションをかけておくことで、ステアリングを切ったらすぐに反応するようにした仕組みだ。このステアリングホイールの手応えのよさやレスポンスのよさからも、ハイパフォーマンスカーというより出来のいいクルマだという印象を受ける。
もちろん目を三角にして飛ばせば、目ん球が飛び出すような速さでカタルシスを得ることもできる。6000、7000、8000と、ある種の重みを感じさせながら回転を上げるフラット4エンジンには、直列4気筒の切れ味とは別種の迫力と力感がある。少し窓を開けながら走ると、ヌケのいい中低音主体の排気音が入ってきてさらに気分がアガる。そして曲がりくねった道でスピードが上がってくると、このクルマのもうひとつの(あるいは最大の)見せ場が訪れる。
「ホウレンソウ」を実践
それは、減速というよりも「スピードを殺す」と表現したくなる強力なブレーキだ。フロント6ポッド、リアが4ポッドのブレンボ製ブレーキは、その効き、踏み応えともに信頼感抜群。そりゃアクセルペダルを踏むほうが楽しいけれど、このクルマに関してはブレーキペダルを踏むのも悪くない。フルブレーキングで止まるというだけでなく、微妙なコントロールを受け付けるからブレーキ操作が楽しいのだ。
舗装の荒れた山道を飛ばすような場面でも乗り心地はしっとりしなやか、専用開発されたブリヂストンの「ポテンザRE070」が路面をつかんで離さない。路面からの情報を漏らさず伝えるステアリングホイールは、「報告・連絡・相談」の“ホウレンソウ”を実践している。使い勝手がいいうえに回すと楽しいエンジンと、人生を任せたくなる信頼のブレーキ。快適な乗り心地と俊敏で安定したコーナリング。ハラハラドキドキするのとはちょっと違う、大人っぽいファン・トゥ・ドライブがある。「R205」という名前だけど、いろんなクルマ遊びを経験した“R40”向けだ。
「インプレッサR205」に乗りながら、もちろんスポーティということも感じるけれど、不思議とそれ以上に心に残ったのは、「いいクルマ」だということだ。このよさは、スポーツドライビングやサーキット走行とは無縁の人でも、はっきりとわかるはず。ま、スポーツカーであれミニバンであれ、いいクルマの条件は同じなのかもしれない。乗り心地がよくて、思い通りに動いて、安心できることが大切なのは、どんなクルマでも一緒なのだ。
美点がたくさんあったので最後になってしまったけれど、この価格のクルマにしてはシフトフィールに不満が残った。特に2速→3速、3速→2速という、最も多用する部分の引っかかりがドライビングのリズムを悪くする。個体差であればいいのだけれど。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
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