お接待文化は無償の善意

これをもっとも象徴するのが「お接待」という習慣である。これは遍路に対して与えられる有形無形の好意であり、支援であり、ギフトである。そしてその裏にあるのは、遍路を思いやる無償の善意であり愛情なのだ。

「お接待」の形はいろいろある。ねぎらいの言葉から始まり、飲食物、旅行用小物、一夜の宿などの無料提供から、直接に現金を手渡すことまで、さまざまな形で、地元の人は遍路を大事にしてくれる。

特に金銭的御接待というのは、慣れない人は驚く。私たちも初めての時はちょっと動揺した。畑の中の道を歩いているとき、目の前で軽自動車が急に止まった。「なんだ、あれでは歩きにくいじゃないか」実は私は一瞬そう思った。その直後、クルマから女性が降り立ち、「お疲れさまです。これをどうぞ」と言って、私たち一人一人に500円玉を渡してくれたのだ。「あ、ありがとうございます」。動転した私は、あわててそうご返事するのが精一杯だった。その後、走り去るクルマに向かって、深く頭を下げた。

それ以降も何度も金銭的御接待に会った。ある街角では足が不自由なおばあさんから、きれいに10枚ずつまとめられた5円玉を頂いた。昔は漁業をしていたけれど、足を壊してから、こうやって歩き遍路を力づけているのだという。手押し車で歩いているおじいさんからもお金を頂いた。

ひどく冷たい雨が降る中、「お遍路さんどうぞ」という看板につられて入った今治市菊間で。ここは瓦作りで有名な町だが、その中でお爺じいさん二人が陶芸教室を開いて教えていた。手前に置かれたものは、お遍路に差し上げる小さな陶製のカエル。「無事にカエル」ように作っているという。暖かい火を前にいただいたコーヒーは本当に身も心も温めてくれた。
ひどく冷たい雨が降る中、「お遍路さんどうぞ」という看板につられて入った今治市菊間で。ここは瓦作りで有名な町だが、その中でお爺じいさん二人が陶芸教室を開いて教えていた。手前に置かれたものは、お遍路に差し上げる小さな陶製のカエル。「無事にカエル」ように作っているという。暖かい火を前にいただいたコーヒーは本当に身も心も温めてくれた。 拡大
歩き遍路のための休息所もあちこちにある。中でも近畿大学の歌一洋教授が提案して、四国各地に作られている「ヘンロ小屋プロジェクト」は大きな構想で、全体で88+1作るのが目標。それも場所の提供や工事、維持管理など、すべてボランティアベースでやっており、今は40カ所が生まれている。これはその第1号。徳島県美波町に作られたヘンロ小屋「香峰」。昔何度か歩き遍路をした女性が、遍路には休む場所が必要だと考えて土地も提供し、今でも驚くほどきれいに維持してくださっている。こういったウッドの建物が前方に見えると、本当に心がやすらぐ。
歩き遍路のための休息所もあちこちにある。中でも近畿大学の歌一洋教授が提案して、四国各地に作られている「ヘンロ小屋プロジェクト」は大きな構想で、全体で88+1作るのが目標。それも場所の提供や工事、維持管理など、すべてボランティアベースでやっており、今は40カ所が生まれている。これはその第1号。徳島県美波町に作られたヘンロ小屋「香峰」。昔何度か歩き遍路をした女性が、遍路には休む場所が必要だと考えて土地も提供し、今でも驚くほどきれいに維持してくださっている。こういったウッドの建物が前方に見えると、本当に心がやすらぐ。 拡大
ヘンロ小屋プロジェクトとは別に、個人で休息所を作っている人はたくさんある。これは高知県安芸市近辺。
ヘンロ小屋プロジェクトとは別に、個人で休息所を作っている人はたくさんある。これは高知県安芸市近辺。 拡大
自宅を改装するついでに、こんなに立派な遍路用設備を作った方さえいる。中は驚くほどきれいだった。高松市手前で。
自宅を改装するついでに、こんなに立派な遍路用設備を作った方さえいる。中は驚くほどきれいだった。高松市手前で。 拡大
大川 悠

大川 悠

1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。

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