ポルシェ・パナメーラS(FR/7AT)【試乗記】
姿ちがえど……! 2010.01.20 試乗記 ポルシェ・パナメーラS(FR/7AT)……1496万9000円
「出るぞ出るぞ」でついに出た、ポルシェ初の4ドアセダン「パナメーラ」。実際の走りや乗り心地はいかほど? 最廉価の「S」で試した。
必然のプロダクト
「パナメーラ」は、ポルシェとしては初のセダン。創業以来ずっとスポーツカーに専念してきたポルシェだが、SUV の「カイエン」で多角化に成功したのを受けて、いよいよ本格的な高級高性能セダン界にも殴り込みというわけだ。でも、これでビジネスも一気に成長と行けるかどうか、楽観は禁物。主な輸出先アメリカの景気も不透明なら、最近はアラブも揺れている。だとすると、高度成長にわく中国の富裕層が頼みの綱になるのだろうか。
それはともかく、もともとスポーツカーにも高い実用性を求めてきたのがポルシェ。だから「911」にも狭いながらリアシートがあるし、「ケイマン」はミドエンジンなのにハッチバックから大量の荷物を積み込める。かつては「924」、「944」、「928」などFRの実用的なハッチバッククーペもあったし、なんとRRの911を4ドア化した試作車もあった。そんな経験を踏まえれば、4ドア+ハッチバックのパナメーラが生まれたのも当然かもしれない。
簡単に復習しておくと、いかにもポルシェらしいスタイルのボディは全長5m級、全幅1.9m以上とかなり大きめ。フロントに積むエンジンは4.8リッターのV8で、ノンターボが400ps 、ターボ(ツイン)が500ps。変速機は自慢のツインクラッチ7段PDK 。グレードはノンターボの「S」(日本では1374.0万円)、それを4WD化した「4S」(1436.0万円)、「ターボ」(2061.0万円)の3つがある。
デカいけどポルシェ
そんなパナメーラ、まず乗ってみての第一印象は、とにかくデカい。だって、せっかくポルシェなんだからと、どうしても着座位置を低くしたいじゃないですか。そうすると、ボディが丸っこいためもあって、自分と反対側(右ハンドルなら左側。ちなみも3グレードとも、ハンドル位置は左右どちらも選べる)がどこまでなのか、簡単には把握できない。ノーズの先もどこにあるのかわかりにくい。おまけに斜め後ろも死角が大きい。
こういう一種の不自由さは、ジャガーのクーペやアストン・マーティンにも通ずるものがあって、そこが高級感につながるのかもしれない。車庫も庭も広く、サイズを気にせず方向転換できる人だけ買ってください的な雰囲気だ。
でも走りだしてみると、やっぱりパナメーラもポルシェ一族だけのことはある。911が発散するDNAが、ここにも濃厚に漂うのだ。特に印象深いのが、こんな巨体で重量も1.9〜2トン以上あるのに、コーナーに向けてステアリングを切り込むと同時にスパッと鋭く鼻先が入ること。次の瞬間アクセルを踏み込むと、太いリアタイヤにしっかり荷重がかかり、有無を言わさず強烈なトラクションをかけて猛然と立ち上がる。
ただし細かく観察すると、ターボのほうはNAなら7リッターエンジン級のトルクを叩き出すだけあり蹴りが強すぎて、ちょっとした凹凸を踏むだけでクルマが跳ね、乗り手の頭がグラグラすることもある。これは目の色を変えて全開で攻めまくるより、あえてアクセルを踏まず、余裕で流す“だんな仕様”だろう。
どの席に座ってもドライバー
そんな目でみると、せっかく採用してくれたPDKより、むしろ普通のトルコン式ATのほうが良かったかもしれない。市街地など頻繁な発進停止が多い状態では、軽く踏んでクラッチがミートする瞬間、なんとなくガツッと軽いショックを感じるからだ。これにはアイドリングストップ機能(オフにもできる)も関係している。信号が青になって、ブレーキを放してすぐアクセルを踏むと、再始動でブンと来るのとクラッチの動きが合ってしまい、余計ガツッとなりやすいからだ。
これをトルコンにすると燃費には不利かもしれないが、な〜に、もともと大食いなんだから、今さらデザートまで食ったって、差というほどの差でもないだろう。ちなみに、計器盤には燃費も表示されるが、市街地やワインディングロードではずっと4.0km/リッターのまま。それ以下の数字が出ないようになっているのだ。
その点、ノンターボ版のほうは、はるかにクルマ全体が“手に付いて”いるようで嬉しい。雪や氷の路面でなければ、ここは「S」も「4S」も変わらない。シャシーの性能がエンジンに対して余裕を持っていて、道幅が許すかぎり、どんなドライビングも楽しめる。コンソールのボタン操作でダンパーの減衰力を加減するPASMは、最もハードな“スポーツプラス”モードにした場合、ちょっとだけ乗り心地が硬くなる感じだが、その差がわずかなので、しばらく乗ると慣れて、ずっと前からそうだったように思ってしまう。どんな走行状態でも快適で安全という結果を得るための装置なのだから、変わらないというのが完成度の証明でもある。
おっと、肝心の室内の報告を忘れていた。大柄な4ドアといっても、贅沢なセパレートシートを前後に配した本格4シーターで、なんだかリアもフロントみたいな着座感だから、乗客というより全員ドライバー気分。リアにもダミーのステアリングホイールを付けたい雰囲気がある。
そこで結論。これ、いくら豪勢でもセダンではありません。どこまで行っても4ドア“クーペ”そのもの。そのあたり、「さすがポルシェ」ってか……。
(文=熊倉重春/写真=小林俊樹)
