仲間は南に行ってしまった

しかしながら残念なのは、主要メーカーが入るパビリオン以外は、2年前に増して空きスペースが目立つことだ。実際、2012年の出展者数約270ブランドは、2008年の362ブランドと比べ、90ブランド以上の減少である。

会場の隅にいくつも作られた「休憩所」は、フランス社会の高齢化が進む昨今、一概に悪い施設とは言えないが、やる気のない学園祭のようでもある。それより、来場者に配布している会場見取り図に書かれたメーカー名の字が小さすぎて、ボクでも判読しづらいとはいかがなものか……などと、ぶつぶつ言いながら歩いていて、ふと思い出したのは、2号パビリオン2階の「警察コーナー」である。
そこには毎回いくつかの警察組織および関連団体がスタンドを構えているのだが、ボクが向かったのは、そのなかのひとつ、「ジャンダルムリ」と言われる軍警察である。

なぜボクが訪ねたかというと、2010年のパリモーターショーでスピード違反取り締まり機の実演をしてもらったからだ。スタンドにたどり着くと、2年前にいた軍警察官のひとりが番をしていた。今年のお題は、安全運転シミュレーターである。

しばし再会を喜んだあと、彼は腕についたワッペンを誇らしげに見せてくれた。「大統領護衛」と書いてある。出世である。「世が世なら、『ベルサイユのばら』でマリー・アントワネットの近衛(このえ)隊長をしていたオスカルですねえ」という冗談を言おうと思ったが、ルックスからしてベルばらを読んでいない確率が高いのでやめておいた。
代わりに、2年前の記事をボクのスマートフォン画面に呼び出して見せてあげた。すると彼は写真の中のリュックという名の同僚を指して、こうつぶやいた。
「リュックは南に行っちまったよ」
その言葉には、たとえみずからが大統領護衛の名誉に浴しながらも、暖かくのんびりした南フランスで働いている仲間への羨望(せんぼう)もあることが見え隠れした。

世界や時代に刻々と連動する空気が興味深く、また人との出会いが楽しい。そしてそれらは、華やかなコンセプトカーやハイテクデバイス満載の新型車以上に心に刻まれていたりする。最近のモーターショーは、ボクにとってちょっと複雑なのだ。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

ホンダ、ヒュンダイなどが入る3号パビリオンの片隅には“SUSHI SHOP”ができていた。
ホンダ、ヒュンダイなどが入る3号パビリオンの片隅には“SUSHI SHOP”ができていた。 拡大
出展者に恵まれなかった空きスペースは、ミュージカルができるくらい広い……と喜んでいる場合ではないか。
出展者に恵まれなかった空きスペースは、ミュージカルができるくらい広い……と喜んでいる場合ではないか。 拡大
フランス国家警察の記念撮影コーナー。フランス人の平均身長をもってしても高すぎるだろう。
フランス国家警察の記念撮影コーナー。フランス人の平均身長をもってしても高すぎるだろう。 拡大
2年ぶりに再会した軍警察官。
2年ぶりに再会した軍警察官。 拡大
彼は大統領護衛班のメンバーになっていた。
彼は大統領護衛班のメンバーになっていた。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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