甘くない現実
だがしばらくたつと、デザインが今風にいう「カッケー!」だけでは、シアワセになれないことも判明してきた。
最初にそれを思い知らされたのは、携帯電話がまだ円換算で10万円近くしてビンボー留学生のボクなど買えなかった時代、よくお世話になった「公衆電話ブース」だ。モダンなデザインの電話機がずらっと並んでいても、いざ使おうとすると、テレホンカードを挿入口に入れても飲み込んでくれなかったり、受話器をとった時点で音がザーザー聞こえたり、よく見ると、受話器のコードがちぎれる寸前だったりで、使える電話機が限られていた。
左にある写真は、バス発着所が入ったわが街シエナのビル内に設置されたエレベーター操作パネルである。ドイツ・シンドラー社製で、従来のような操作ボタンではなく面一のタッチパネルになっている。最近はメンテナンスが行き届かず、だんだん反応が鈍くなり、“ぶったたく”くらいの衝撃を与えないと作動しなくなってしまった。
乗り物もしかりである。
2011年のことだ。ある日、わが家の窓から下を見ると、見慣れない形のしゃれた小型バスが走っていた。そのとき住んでいたのが観光都市ゆえ「どこかの国から来たバスかな?」と思ったが、後日わかったのは、新しく導入された「ミニブス(ミニバス)」であった。
2年前の本欄で記したが(第132回:イタリアの「ミニブス」を何とかしたい!)、「ミニブス」(または「ポリチーノ」)とは、狭い路地が多いイタリアの旧市街地用に造られた、全長約7m、定員20人程度のバスである。
多くはフィアット系商用車ブランド「イヴェコ」のトラックシャシーをベースに、中小のカロッツェリアがボディーを架装している。観光客は大抵「かわいい」と言うが、実際乗ってみると、元がトラックゆえ乗り心地は硬く、床が高いため乗降性も良くない。
いっぽう新型のミニブスは、低床ノンステップだった。ベースはイヴェコではなく、ルノーの商用車「マスター」である。内装のセンスもそこそこよく、エアコン付きだ。運転席の背後には薄型モニターが付いていて、各種お知らせが映し出されている。ついでに言うと、ラジオも付いているらしく、運転手はFMをかけながら楽しげに運転している。
それを見てボクは「ようやく、ミニブスも文明開化か」と感動したのだが、それもつかの間だった。しばらくたつとエアコンは壊れて効かなくなり、自慢のモニターは何も映らなくなってしまった。そして、まあこれは他のバスも同じだが、タイヤの溝もかなり浅い。いずれも経費節減の折、補修になかなか手がまわらないのだ。

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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