落ちぶれた女優のような
要は「優れたデザインを生かすも殺すもメンテナンス次第」ということなのである。特にしゃれたデザインのモノは手入れが行き届かないと、凡庸なデザインのモノよりも物悲しくなる。それを見たときの心境は、落ちぶれてしまった美人女優を週刊誌で見てしまったときに近い。
とはいえ、あか抜けないデザインだがメンテナンスが行き届いている日本のモノや公共交通機関を比べて、どちらが良いかと言われれば、悩むところである。
ところで整備の行き届かないミニブスといえば、先日こんなことがあった。ボクの乗ったミニブスがバス停で客を降ろしたあと、ドアが閉まらなくなってしまった。仕方ないので運転手は次の停留所までドアを開けたまま走った。もちろん、規則上は違反だろうが、夏は客が少ないとそうやって走るバスがあるので、お客も大して驚かなかった。しかし、もはや秋である。やがて客の間から「寒い」と文句が出た。運転手は次の停留所でバスを降りて、一番前に立っていたおばさんに運転席のドア開閉スイッチを操作してもらいながら、ドアを押したり引いたりし始めた。するとあろうことか、運転手を外に取り残したまま、今度はドアが開かなくなってしまった。ようやく運転手がドアをこじ開けて運転台に戻ると、乗っていたおじさんのひとりが「運転手さん、もう帰っちゃったかと思ったよ」と言い、客の間から笑いが起こった。
良いデザインと、行き届かないメンテナンスのなかで生きるには、このくらいココロの余裕が必要なのである。
(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)
★お知らせ★
2012年11月12日(月)渋谷・日伊学院にて、大矢アキオの新著『イタリア発 シアワセの秘密』刊行を記念し、著者講演会が開催されます。詳しくはこちらをご覧ください。

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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