カバンの中にスイス鉄道!?

しかし、その後イタリアに来て、Bicボールペンは家庭内専用となった。イタリアでの仕事は、記者、フォトグラフファー、取材相手を飽きさせないためのフォロー……と1人何役もこなさなければならない。慌てて何かをするたび、ボクはBicのキャップをしないままポケットにしまおうとして、シャツや上着をたびたび汚してしまったからである。ボールペンのインクというのは、ちょっとやそっとでは取れない。

というわけで、ノック式のボールペンを持ち歩くことにした。具体的に言うと、「芯の出し入れがいずれも頭のワンプッシュでできる」「無くしても半日程度泣けば済む値段」、かつ「書き味のよいもの」を条件に選ぶことにした。
幸いモーターショーなどでは、メーカーやブランド名の入ったノック式ボールペンが売られている。しかし喜び勇んで買っても、職業柄「イベントの記念品ですか?」と言われて悲しい思いをたびたびした。

そこで上述の条件で、市中で商品を選ぶことにしたのだが、選択肢はそれほど多くなかった。
近年ボクが愛用しているのは、スイスの「カランダッシュ」である。同ブランドには立派な装飾が施された数万円級のものが多々あるが、ボクが使っているのは「849」で、本国価格で日本円にして1300円程度の超廉価タイプだ。日本でも販売されているので、ご存じの方も多いだろう。六角形のスチール軸は、鉛筆のごとく持ちやすく、かつ頑丈である。ボクが使っている赤い軸は、カバンの中で見つけやすいうえ、スイス鉄道の車体色をほうふつとさせるのがうれしい。なお、日本の筆記具メーカーから、カランダッシュのデザインに似せたものが出ているが、なぜ一流の工業国でそういうことをやるのか嘆かわしい。

カランダッシュの唯一の難点は、日本なら有名文具店で簡単に手に入るインクが、皮肉なことにイタリアではほとんど入手困難であることだ。大事なインタビュー、クルマの購入、家の賃貸契約書といったときに限ってインクがなくなる。そのたび、昔の刑事物ドラマでピストルの弾丸がなくなり、「ち、ち、ちくしょー」と焦る敵役の気持ちになるボクとしては、次のスイス出張までインクが手に入らないのはかなり悲しい。

もう1本はドイツ「ファーバーカステル」の「グリップ」というシリーズのボールペンである。軸はプラスチック製だが、表面にラバーのエンボス加工が施されているので滑りにくく、かつデザイン的にも良いアクセントになっている。こちらの値段は現地価格1500円くらいだ。日本でも鉛筆をはじめ「グリップ」シリーズのいくつかが手に入るが、ボールペンはボディー色が限られている。

クルマのブランド名入りボールペンの数々。好きなんですけど……。
クルマのブランド名入りボールペンの数々。好きなんですけど……。 拡大
右から「カランダッシュ849」「ファーバー・カステル グリップ」「ペリカン」の3色ボール+シャープペンシル。
右から「カランダッシュ849」「ファーバー・カステル グリップ」「ペリカン」の3色ボール+シャープペンシル。 拡大
筆記具ついでの小ネタ(その1)。
「パーカー」の万年筆でもホールペンでもない、新世代筆記具「インジェニュイティ」。書き味はかなり慣れを要するが、万年筆のように飛行機内で気圧によりインクが吹き出したりしないのは助かる。
筆記具ついでの小ネタ(その1)。
「パーカー」の万年筆でもホールペンでもない、新世代筆記具「インジェニュイティ」。書き味はかなり慣れを要するが、万年筆のように飛行機内で気圧によりインクが吹き出したりしないのは助かる。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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