日産キューブ15G(FF/CVT)【試乗記】
これは「ZENカー」だ! 2009.01.26 試乗記 日産キューブ15G(FF/CVT)……237万8250円
日本にはダメな部分もたくさんあるけれど、世界に誇れるものもあるのではないか。新型「日産キューブ」は、そんな大げさなことを考えさせてくれたのだった。
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ヨーロッパ車とは違う柔らかい雰囲気
恥ずかしながらつい最近知りましたが、フランスでは「ZEN」という言葉を普通に使っているらしい。そうです、エッチなことを考えると和尚さんに後ろから棒で叩かれる「禅」の「ZEN」。
TGV(高速鉄道)には子どもの乗車や携帯電話の使用を制限して静けさを保つ「ZEN車両」というのがあるというし、「Soyez zen!」(落ち着いて!)という言い回しも一般的とのこと。「ZEN」は、「落ち着きがある」「知的」「クール」「おだやか」というポジティブな意味で使われているようだ。
で、日産キューブは「ZEN CAR」という評価を受けるのではないか、と思うわけです。いや、フランスだったら「ZEN AUTOMOBILE」か。そのへん、英語もフランス語も不得手なもんであまり突っ込まんでください。
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とにかく、 先代まで日本専用モデルだったキューブ、3代目となる新型より北米とヨーロッパへの輸出が始まるのだ。ヨーロッパではこのクラスのコンパクトカーであっても強くて速くて小生意気なコンセプトが主流であるから、穏やかで柔らかなキューブの“和テイスト”はかなりのインパクトを与えるはず。現に、先代の2代目キューブは正規輸出していなかったのにもかかわらず、ヨーロッパでカルト的な人気を得ていたという。
海外輸出をニラんでひと回り以上大きくなったボディのデザインは、先代のコンセプトを引き継いだもの。サングラスをしたブルドッグをモチーフにしたというユーモラスなフロントマスク、ボリューム感を増したリアの造形、凝った窓枠のデザイン処理などが目新しいけれど、のほほんとした全体のムードは変わらない。
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見た目はふんわり、中身はカッチリ
個人的には、外観に関してはよりミニマルな印象の先代のほうが好みだ。でも、インテリアに関しては新型のほうがステキだ。“波紋”のモチーフが20箇所で反復して使われていて、それがクドい感じにならず統一感を生んでいる。デザインが楽しいから安物感はない。細部まで気合いを入れてデザインしているのにもかかわらず肩の力が抜けた印象を与えるあたり、かなりレベルが高い。
「キューブ」に接したいま、もう「インテリアまで予算が回らなくて……」という言い訳は通用しないと思った。今回試乗したのは「ラウンジブラウン」という内装色だったけれど、カタログをじっくり眺めた結果、「フェザーグレー」という明るい色が一番だという結論に達した。ええ、カタログを熟読して色を選ぶぐらい気に入りました。
シックないい色だけど、人前で声に出すとほっぺが赤くなりそうな「ビターショコラ」というボディカラーの「キューブ」に乗り込んで、スタートボタンをプッシュしてエンジン始動。いざ走りだすと、「キューブ」の走りは見た目の印象とはちょっと違っていた。
新型「キューブ」に用意されるエンジンは、1.5リッターの直列4気筒ユニットのみ。組み合わされるトランスミッションもCVT(無段変速機)だけだ。この組み合わせは、「キューブ」のボディを活発に走らせるのに充分。信号待ちからの発進時に不用意にアクセルを踏みすぎると、えっと思うくらいの勢いでダッシュする。しかも排気音が意外と(?)スポーティでいい音。パッと見、すーっと温和に走りそうだけど、走らせてみての印象は結構やんちゃだ。
自動車界の『キャプテン翼』
乗り心地やハンドリングも、見た目に反してかなり男の子っぽい。あんな外観だから、ホワンホワンと走ると思うじゃないですか。でも、そうではなかった。路面からの情報をかつんかつんとダイレクトに伝えてくるタイプなのだ。ただし、ボディの揺れはしっかりと収まるから、乗り心地が悪いという感じはしない。
ステアリングホイールの手応えもしっかりとしていて、コーナーでも小気味よく曲がる。「キューブ」には失礼ながら「へー、こんなにしっかり走るのか」と感心する。思い出すのは、エビちゃんがあのふんわりとしたルックスでありながら実は運動神経抜群で、高校時代はバスケ部のキャプテンだったというエピソードだ。
運転を代わってもらって、後ろの席にも座ってみる。先代からホイールベースを100mm延ばしたおかげで、後席は広い。頭上空間もたっぷりしているから、居心地もよろし。4名乗車状態だと荷室には大した荷物が積めないけれど、片ヒンジで横開きするラゲッジスペースのリアドアは、狭い場所でも使い勝手がよかった。
そのほか、静かだとかブレーキのタッチがいいとか小物入れがたくさんあって便利だとか、カッコだけでなく実用車としてしっかり作り込まれていることもよ〜くわかりました。でも、そうは言っても「キューブ」ならではの魅力はやっぱりカッコだ。
先日、テレビで村上龍とカルロス・ゴーンが日産のEVのテスト車両に乗っている番組を見た。そのEVテスト車両は先代「キューブ」をベースにしたもの。「キューブ」が選ばれたのは、バッテリーを積みやすいなどの物理的な理由なのかもしれない。けれど、自分としては新しい価値観には新しいデザインを与えよう、という意志だと受け取った。「キューブ」のデザインとEVの静かさという組み合わせは実にしっくりきていて、クルマにはまだまだ未来があると思わせてくれた。
新型「キューブ」が、ヨーロッパの道を走る図を想像すると楽しいキモチになる。サッカーのイタリア代表の何人かが『キャプテン翼』を見てサッカーが好きになったように、「キューブ」がヨーロッパの人をクルマ好きにさせる可能性も大いにあると思う。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。