2013年の東京モーターショーは萌える?

いっぽう先日、現代美術作家・会田誠氏の展覧会「天才でごめんなさい」が東京・六本木ヒルズ52階にある森美術館で開幕した。日本画技法を駆使しながらグロテスクまたはエロチックな作品を数多く展開し、その傍らで自殺、戦争、政治といった現代の事象に鋭い視点を向ける彼は、今日まさに日本モダンアートの旗手というにふさわしい。しかし、同時にボクが気になったのは、彼の作品における自動車の扱いである。実に登場頻度が低いのだ。

ようやく見つけた一台目は、教科書でおなじみの東山魁夷作「道」に対する強烈なアンチテーゼと思われる「あぜ道」という作品の中だ。画面の片隅に、あたかも脱輪したように傾いて止まっている軽トラックが、ようやく発見できる。
そしてもう一台は「津田沼」と題された作品の中だ。一般家庭のブロック塀の向こうに鼻先だけをのぞかせているホンダ製セダンだ。それもナンバーがない廃車状態である。

最前線を走るアーティストが、かくもクルマに対して冷淡な態度を見せていることは、クルマや機械文明を真っ正面から否定している作家の作品以上に、「もはやクルマは社会を代弁しなくなったのではないか?」という不安な気持ちにさせる。ちなみに、会田氏が代わりにコラージュとして用いているのはディスカウントストア「ドン・キホーテ」のマスコットであるペンギンだったりする。

そんな感傷的ムードあふれる日本で、ボクが妙にときめいたものがある。路線バスの中に貼られていた、なかば退色したポスターだ。具体的には「バスで使うICカード(Suica、PASMOなど)のホルダーに、他の非接触式ICカードを入れないで」と訴えるものである。例として掲示されている運転免許証の写真は明らかに1990年代に撮影されたものだ。「埼玉花子さん」と称するその女性を見た途端、学生時代の同級生に突然再会したような感動があった。

そのことを知人のコピーライター氏に話したら、「近頃は、あの頃のような真っ赤な口紅がはやり始めてるんですよ」と教えてくれた。もしや2013年の東京モーターショーは、1990年代風メイクのコンパニオンであふれるのか? 今からひそかに楽しみにしているボクである。

(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)

【その7】六本木ヒルズで「会田誠展」を告知するポスター。
【その7】六本木ヒルズで「会田誠展」を告知するポスター。 拡大
【その8】運転免許証「埼玉花子」さんのモデルは、今どうしているのだろうか。
【その8】運転免許証「埼玉花子」さんのモデルは、今どうしているのだろうか。 拡大
【その9】小学生以来ごぶさただった鯨のどんぶりを食す筆者近影。築地で。
【その9】小学生以来ごぶさただった鯨のどんぶりを食す筆者近影。築地で。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

あなたにおすすめの記事
新着記事