丁寧な対応に感激

フィレンツェ1泊作戦の悲惨な結果に敗北したボクは、先日東京から戻るとき、新しい作戦を実行に移すことにした。乗り継ぎ地のミュンヘンで1泊する方法である。
東京から出発前にネット検索したところ、空港直結のホテルはボクには高価すぎたので、シャトルバスで行く数キロ離れたホテルを予約した。

イタリアでは考えられない展開は、ホテルに着く前から次々と訪れた。ミュンヘン国際空港でスーツケースを受け取ると、ファスナーの引き手、つまり“つまみ”がちぎれて消えてしまっていた。ダメもとでバゲッジクレームのカウンターに行き、その旨伝える。すると小さなパーツにもかかわらず、その女性スタッフは丁寧に対応してくれた。
「シエナにお住まいですか? 去年バカンスで行きましたよ。また行きたいですね」などという、マニュアルどおりの日本の従業員では考えられないアドリブを交えながら、必要事項をコンピューターに入力してゆく。
そして最後に彼女は、「到着ロビーのカバン店で直してもらってください。もちろん無料です」とボクに告げた。
そのあと指定されたカバン店に行くと、小さな引き出しの中からまったく同じ引き手を取り出し、即座に取り付けてくれた。
「あ〜あ、オリジナルと全然違う、間に合わせのヘンな引き手が付けられておしまいなんだろうな」と想像していたボクは、えらく感激した。

次に例のエアポートホテルに電話。そこそこ部屋数があるホテルにもかかわらず、ボクが今夜宿泊することは、電話対応するスタッフにもちゃんと伝わっていた。
指定されたバス停はわかりやすく、メルセデス・ベンツのマイクロバス「スプリンター」を使ったシャトルバスは、それほどボクを待たせることなくやってきた。車内も清掃がいきとどいている。
着いたホテルのフロントは、お客を手際よく受け付ける。もちろんエレベーター完備。部屋もよく暖まっていてきれいであった。

このミュンヘンにおける一連の流れは、疲れて東京から来た身には、すべてが順調で本当に助かった。これがイタリアだったら、ファスナー消失を訴えた時点で、「へえー、そんなささいなことに……」と無視されていたかもしれない。もちろん、ドイツ在留邦人の方々もそれなりの苦労をされているのだろうから、安易に決めつけるべきではないとわかっていても「ああドイツに住んでいたら、日々の生活がどんなに楽だろう。“ジャーマン”になりたい」と、椅子にもたれかかってため息をついてしまった。

実際、ドイツ語圏の街は概していつどこを訪れても清潔だ。バスはレールの上に乗っているかのごとく時刻どおりに来る。携帯電話や訪れた友達に気をとられ、目も合わさず客を帰してしまうイタリアの商店と違い、「Danke(ありがとう)」のあいさつを忘れない。日本人としては、それだけで気持ちいいではないか。

「フォルクスワーゲン・フェートン」のキャッチフレーズは“Handmade in Germany”。
「フォルクスワーゲン・フェートン」のキャッチフレーズは“Handmade in Germany”。 拡大
大矢アキオのデザイン賞その1。ホテルのトイレットペーパーホルダー。
大矢アキオのデザイン賞その1。ホテルのトイレットペーパーホルダー。 拡大
大矢アキオのデザイン賞その2。ミュンヘン空港ターミナル内のマッサージチェア。
大矢アキオのデザイン賞その2。ミュンヘン空港ターミナル内のマッサージチェア。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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