三菱ギャラン・フォルティス ラリーアート(4WD/6AT)【試乗速報】
エボとは似て非なる存在 2008.07.24 試乗記 三菱ギャラン・フォルティス ラリーアート(4WD/6AT)……343万3500円
ギャラン・フォルティスの最上級グレードとして、ランエボ譲りのメカを一部採用し誕生した「ラリーアート」。それはランエボともまた違うクルマに仕上がっていた。
ランエボと何が違う?
「ランエボで〜す!」と紹介したら8割以上の人が信じるんじゃないかと思えるくらい姿形がそっくりなこのクルマ。このモデルこそ、以前から登場が噂され、このたびギャラン・フォルティスの最上級グレードとしてラインアップに加わった「ギャラン・フォルティス ラリーアート」だ。
ギャラン・フォルティスのアイデンティティといえば、伝統の逆スラントノーズと台形のラジエターグリル。三菱はこのグリルを“ジェットファイターグリル”と呼んでいるが、その外周をメッキで囲んだら、まんまとランエボ風に仕上がった。さらに、風通しが良さそうなアルミ製ボンネットとともに、2リッターの直列4気筒ターボやACD(アクティブ・センター・ディファレンシャル)によるフルタイム4WD、ツインクラッチSSTなど、ランエボを特徴づけるアイテムをちゃっかり手にしている。 こうなると、「ランエボはほしいけど、あの硬い乗り心地はちょっと」とか「ギャラン・フォルティスがもう少しスポーティだったら……」と、これまで購入に二の足を踏んでいた人は気が気でないはず。ツインクラッチSST搭載のランエボGSRの375万600円と比べ、約77万円安い価格も魅力的だ。
ではいったい、ギャラン・フォルティス ラリーアートとランエボは何が違うのだろうか?
あくまでギャラン・フォルティス
見た目も技術的ハイライトもランエボに迫るギャラン・フォルティス ラリーアートだが、そのポジションは、あくまでギャラン・フォルティスのいちバリエーションであって、ランエボの廉価版ではない。それはボディサイズひとつを見ても明らかだ。ラリーアートを含め、ギャラン・フォルティスの全長、全幅、ホイールベースはそれぞれ4570mm、1760mm、2635mm。これに対してランエボのサイズは4495mm、1810mm、2650mmと、ランエボのほうがショートかつワイド、ホイールベースも長いのがわかるだろう。
この違いは、両者の足まわりの違いを意味している。ランエボは専用のサスペンションを採用するため、ホイールベースが長く、トレッドも広いのだ。対してギャラン・フォルティス ラリーアートは専用のスポーツサスペンションが装着されるものの、ギャラン・フォルティスの強化タイプにすぎない。
一方、ギャラン・フォルティス ラリーアートのエンジンは、ランエボに搭載される4B11型MIVECのデチューン版で、両者ともエンジン本体は基本的に同じ。おもな違いはターボとインタークーラーといった部分で、たとえばターボは、ランエボのツインスクロールに対して、ギャラン・フォルティス ラリーアートではシングルスクロールタイプに変更されている(どちらもターボは1基)。さらにチューンなどに差をつけることで、40ps、8kgmずつ控えめな240ps/6000rpm、35.0kgm/3000rpmのスペックを手に入れているのだ。
そして、4WDの部分では、ランエボの走りを特徴づけるAYC(アクティブ・ヨー・コントロール、RSには非装着)が、ギャラン・フォルティス ラリーアートには搭載されていない。こういった違いが実際の走りにどう影響しているのか、興味津々、試乗車に乗り込んだ。
程よくスポーティ
コクピットを覗くと、基本的にはギャラン・フォルティスSPORTと同じデザインだ。シートはスウェード調の生地こそランエボから受け継ぐが、形状はSPORTと同じということで、サイドサポートの張り出しも普通な感じだ。 さっそく走り出すと、スポーツサスペンションに215/45R18タイヤの組み合わせとは思えないくらいマイルドな乗り心地にひと安心。これなら、ふだん使ううえでもガマンを強いられることはない。
240psの2リッターターボエンジンは、低回転からレスポンスよく、最大トルクを絞り出すポイントが3000rpmと低いことから、常用する回転域でも余裕があって、実に頼りになるのがうれしい点だ。ツインクラッチSSTのシフトのマナーもよく、シフトそのものが素早いのにも感心する。ただ、ヒルスタート機構がないのは残念。早急な対応を期待したい。
ワインディングロードに辿り着いたところで、遠慮なくアクセルを踏み込むと、2000rpm台後半からトルクが一層太くなり、自然吸気エンジンのギャラン・フォルティスとは段違いの速さを見せつける。さすがにランエボほどのパンチはないが、勢いは5000rpmを超えたあたりまで途切れない。この、日常重視の程よくスポーティな性格が、ギャラン・フォルティス ラリーアートの魅力といえそうだ。
キレのある走りはランエボの十八番
そんな好バランスのギャラン・フォルティス ラリーアートを駆って、唯一物足りなく思えたのがコーナーでの振る舞い。ランエボのようなキレのある走り、つまり、コーナーでノーズがクッと入っていく感じとはほど遠いのだ。それは、アクセルのオン、オフにかかわらないから、AYCの有無ではなく、サスペンションにより決定づけられた持ち味の違いということになる。
このハンドリングの違いをどう見るかで、ギャラン・フォルティス ラリーアートの評価は変わってくる。軽快なハンドリングに執着しなければ、速く、安く、快適なギャラン・フォルティス ラリーアートは、とてもお買い得なスポーティセダンということになる。一方、キレのある走りを求めるなら、妥協することなくランエボを手に入れておいたほうが、後悔にはつながらない。
要するに好みの問題なのだが、今の時代、限界性能にまでこだわらないという人が支配的だとすると、クラストップレベルを競い合うランエボより、ラリーアートぐらいの運動性能を持ち、価格が手頃なほうが受け入れられやすいのかもしれない。というわけで、この新たな選択肢がギャラン・フォルティスのファン拡大に貢献するのは確実といえそうだ。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。