フォルクスワーゲン・シロッコ【海外試乗記】
痛快な風 2008.07.10 試乗記 フォルクスワーゲン・シロッコ16年ぶりにその名を復活させた「フォルクスワーゲン・シロッコ」。ゴルフベースの派生モデルではあるが、その走りは別物という。2009年に予定される日本発売を前に、ポルトガルで試乗した。
実用性を重視
16年ぶりに甦った「シロッコ」の第一印象は鮮烈だ。ジウジアーロが手掛けて旋風を巻き起こした初代、そして2世代目とは一転、そのフォルムは迫力に満ち満ちている。
かつてそうだったように、「ゴルフ」と基本骨格を共有する新型「シロッコ」のスリーサイズは、全長4256mm×全幅1810mm×全高1404mmと、ゴルフより短く、広く、そして低い。正面から見ると、ワッペングリルを廃し、目をつり上げた顔に加えて、ルーフの低さとトレッドの広さによって、平べったさが一層強調されている。
サイドビューも、低い全高とロングホイールベース、そして最大19インチのタイヤ&ホイールが、ほかにない存在感を演出。さらには、フロント以上にワイドなスタンスで踏ん張るタイヤとコンパクトなキャビンのコントラストが、リアビューに鮮烈な印象を与えているのだ。
感心させられるのは、2人掛けの後席が、身長177cmの筆者にも十分なほど広く、またラゲッジスペースも最大755リッターを確保するなど、使い勝手を犠牲にしている部分がほとんどないということ。これまたシロッコの伝統どおり、毎日使える実用性、日常性が、なにより重視されているのである。
ゴルフとは別物に
けれど走りっぷりは、ゴルフとは明らかに別物。ゴルフとの大きな違いである、アルミ製とされたリアサスペンションのロアアームと、そのトレッドの広さが活きているようだ。
普通に走らせていても、どことなく安心感が高く、高速域では良い意味でスピード感が鈍る。そしてワインディングロードでは、フロントがしっかり路面を捉えて、かなりの深い舵角まで気持ち良く反応してグイグイ切り込んでいける。つまりスタビリティも敏捷性も、ともにワンランク上の領域に達しているのだ。
それでいて乗り心地も悪くない。試乗車は標準の17インチではなく、すべて18インチタイヤを履いていたのだが、ゴルフGTIの18インチ仕様と比べると、あらゆる入力のカドが丸められている。しかも望めば、DCCと呼ばれる減衰力可変式ダンパーも選択できる。これはオプションの19インチを履きたいとなれば、おそらくマストの装備となるだろう。いずれにせよ、乗り心地のスムーズさは、非常に高いレベルにある。
パワートレインは今回、最高出力200psの2.0TSI+6段DSGと、同160psの1.4ツインチャージャーTSI+6段MTの2種類を試すことができた。
実はこの2リッターエンジン、スペックはほぼ同等ながら、現行ゴルフGTIとは別物の新型なのだ。バランスシャフトの採用で吹け上がりの滑らかさが増している。一方の160psユニットは、特に低中速域のフラットなトルクカーブが印象的だった。
日本向けは、2.0TSI+6段DSGと、160psユニットに7段DSGの組み合わせの2本立てとなりそうだが、本音を言えば差別化が今ひとつ難しい160psユニットよりも、今回は用意されていなかったが、いっそゴルフTSIトレンドラインにも搭載されている1.4シングルチャージャー122ps+7段DSGあたりのほうが、その軽快なレスポンスから言っても、シロッコにはより相応しいのではないだろうか。
楽しく気持ちよくつきあえる
それにしても、この新しいシロッコは痛快だった。ボディが違うのは当然として、一部のエンジンなどを除けば、内装などを見ても基本的には有りモノの組み合わせである。けれど、調理も味わわせ方も実にツボを突いていて、楽しく気持ち良くつきあえそうな1台に仕上がっていたのだから。
しかも有りモノをベースにしただけあって、ヨーロッパでは価格も抑えられる。1.4シングルチャージャーTSI+6段MTのベースグレードは2万1750ユーロ。また2.0TSI+6段DSGも2万5550ユーロと、ゴルフGTIのDSGに比べてわずか100ユーロだが安価なのだ。もちろん、それはフォルクスワーゲンの、ヨーロッパですら沈滞化しているクルマを楽しむ機運を盛り上げたいという意図が明確に反映された、戦略的な設定である。
日本での発売は2009年前半あたりと、もう少し待たなければならない。ユーロ高の続く昨今ではあるが、ここ日本でもそれに乗じて高付加価値でなんて言わず、是非ともシロッコの名にふさわしい手頃な価格でのデビューを望みたいところだ。
(文=島下泰久/写真=フォルクスワーゲン)
