マツダRX-8 タイプS(FR/6MT)【試乗記】
グッドバイから始めよう 2012.01.17 試乗記 マツダRX-8 タイプS(FR/6MT)……327万750円
「RX-8」の生産を2012年6月で終了すると、マツダが発表したのは昨年秋のこと。ロータリースポーツの到達点を記憶するために、最後の「タイプS」で箱根を目指した。
あと5カ月で終止符
久しぶりに「RX-8」で箱根を飛ばした。最後に乗ったのはいつだろうか。筆者はかつて、仕事で「エイト」に2年半ほど乗ったことがあるのだが、その時の取材ノートをひっくり返してみたら2006年1月と記されていたから、もう6年が経過したことになる。ずいぶんとご無沙汰していたものである。
冬がそこまで来ている秋の箱根は、行楽客もまばら(取材は2011年10月に行った)。そこでスロットルペダルを深々と踏み込んでみれば、「RENESIS」と呼ばれる13B-MSP型2ローターユニットは、独特の乾いたエンジン音をとどろかせ、8500rpmまで軽々と直線的に吹け上がった。そして、回転リミットを知らせる電子音が「ピーッ」と鳴った。
もうすぐロータリーエンジンの歴史にもこの電子音が鳴るのか――。そう思うと、急に切なくなってしまった。
エイトの生産は2012年の6月に終了する。つまり、あと5カ月でロータリーエンジンの系譜にいったん、終止符が打たれる。マツダは「今後も研究と開発は継続していく」と言っているが、彼らが今、スカイアクティブに傾注していることを考えると、ロータリーエンジンが引き続きメインストリームにいられるとは思えない。ちょっと前にRENESISは次世代のロータリーエンジンとうたわれ、時代の追い風を受けたというのに……。サイドポートの排気の声、諸行無常の響きあり、である。
「トヨタ86」には負けない?
エイトの到達点をしっかり覚えておきたい、そう思って今回借りたグレードは「タイプS」(現在はラインナップが整理され、すでにカタログ落ちしてしまった)。13B-MSP型ロータリーエンジンには2種類のスペックが用意されており、6段MTが組み合わされるタイプSには、強力な235ps版が搭載されている。タイヤサイズは225/45R18。テスト車にはブリヂストンのポテンザRE050Aが装着されていた。
あらためて乗ってみる13B-MSP型ロータリーは、箱根のワインディングロードに対してパワーが手に余るわけでなく、かといって不足を感じるわけでもなく、ちょうどいい案配。一般道を流すうえで現実味のある、扱いやすいエンジンだった。3000rpmあたりはトルクが細く、思ったほどの“ツキ”が得られないので、おのずと高回転まで引っ張る運転になってしまう。そういや、あのエイト(タイプSだった)もそんなだったなと、当時のことを思い出した。
そういう言い方をすると、エイトは口ほどにもない動力性能の持ち主、と聞こえるかもしれない。しかし、上手に操れば今なお十分に生きのいい、現役のロータリーロケットである。ちなみに当時、テストコースでエイトのゼロヨンを試したところ、平均して15秒前後で走り切る実力を示していた。「トヨタ86」には負けないのではないだろうか?
天性のバランスの良さ
ロータリーエンジンの生産が終わる、というニュースに重みがあるせいか、1代限りで終わる(ことになるであろう)RX-8には不遇なイメージがあるかもしれないが、実はそんなこともない。発売は2003年だから、モデルライフは9年あまりに達することになる。長寿車と言っていいのではないだろうか。
基本設計がこれだけ前のクルマなら、ハンドリングにしろ、乗り心地にしろ、それなりに古さが漂うもの。しかしエイト、意外やまだまだイケる感じだ。コンパクトな2ローターユニットをキャビンに近づけたうえで、可能な限り低くマウントした優れたパッケージングのおかげで、そのフットワークには、サスペンションやタイヤのチューニングだけでは醸し出せない、天性のバランスの良さが感じられる。
しかも、ステアリングレスポンス重視の“旧世代のZoom-Zoom”に属するクルマながら、強引に進路を曲げるような不自然さがない。操舵(そうだ)によってロールが生じ、しかる後にノーズが内側を向く、その一連の動作が素直でなめらかで好ましい。初期型はロール剛性が低めで、それなりに攻め込んでいくと、S字コーナーの切り返しなどでリアの内輪がリフトするような頼りない挙動を見せることもあった。しかし最新のエイトではそれもない。
また、乗り心地もなかなかいい。ライフサイクル末期のスポーツカーというと、オーバーサイズのタイヤや固められたサスペンションのせいでボディーに負担がかかり、音をあげている場合が少なくない。しかし、エイトはそれを免れたようだ。
ロータリーエンジンこそがRX-8の命――その意見に異論はない。しかしRX-8の革新性は、ロータリーエンジンそのものと、それが生み出した類いまれなパッケージングに宿っていたのでは? スポーツカーパッケージングの追求。マツダがもしロータリーエンジンを卒業するなら、彼らのスポーツカーへの「旅」は、そこがスタートラインになる気がしてならない。
(文=竹下元太郎/写真=峰昌宏)
