アルファ・ロメオ ジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデ(FF/6MT)【試乗記】
ハードな切り札 2012.01.26 試乗記 アルファ・ロメオ ジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデ(FF/6MT)……388万円
「クアドリフォリオ ヴェルデ」は、リッター135psの「1750ユニット」を搭載する新型「ジュリエッタ」の最強グレードだ。“緑のクラブ”はジュリエッタの切り札となるか?
「VWゴルフ」の隙を狙う
「アルファ・ロメオ ジュリエッタ」のカタログをじっくり見てみると、価格、パワースペックにおいて、最大のライバルである「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を実によく研究したグレード設定であることがわかる。
ゴルフが6つのグレードを設定し、価格が264万〜505万円、最高出力は105ps〜256psの幅をもつのに対して、ジュリエッタはゴルフのグレードの隙間を埋めるように「スプリント」、「コンペティツィオーネ」、「クアドリフォリオ ヴェルデ」の3グレードをラインナップし、価格は318万、358万、388万円の3種類、最高出力は170ps、235psの2種類を設定する。具体的には、スプリントはゴルフの「コンフォートライン プレミアムエディション」と「ハイライン」の間を、コンペティツィオーネはハイラインと「GTI」の間を埋める価格となっている。
もちろん、本国では両者ともディーゼルを含めもっと多くのラインナップを設定するが、ここ数年、日本で年に2万台以上売れているゴルフに対して、先代「147」の最盛期でも年5000台弱だったアルファが、ゴルフと同じだけきめ細かくグレード展開するのは難しい。だからこそ、日本で最も売れている輸入車であるゴルフの客を効率よく奪えるようなグレード設定としたのに違いない。ま、このクルマが登場して間もなく2年もたつわけで、ゆっくり研究する時間があったのだろう。
ここで書くクアドリフォリオ ヴェルデは、ジュリエッタのなかで唯一異なるエンジンを積むトップグレードだ。ゴルフGTIとほぼ同じパワースペックをもち、価格はGTIより20万円高い388万円。これを、輝かしいヒストリーをもつアルファ・ロメオのトップグレードが“国民車特別版”の20万円高で買えると考えるか、それともただ単に割高と考えるかは人それぞれだが、動力性能も実用性も伯仲しているから、実際にディーラーが出した条件と好みを考慮して好きな方を選べばいいと思う。どっちを買っても、まず「損した」とは思わないはずだ。
トルクに満ちた1750ユニット
まずはエンジンの話から。クアドリフォリオ ヴェルデに搭載される1750(厳密には1742cc)の直噴ターボエンジンのスペックは、最高出力235ps/5500rpm、最大トルク30.6kgm/4500rpm(ダイナミックモード選択時のみ34.7kgm/1900rpm)。リッターあたり135psだから相当なハイスペックで、最大トルクもリッターあたり19.9kgmと、三菱のランエボに迫るハイチューンエンジンといえる。あっちは4WDだが、こっちはFFで受け止めようというのだから乱暴な話だが、近頃は電子制御が発達しているから破綻はしない。
そんなハイチューンエンジンではあるが、エンジンをかけた瞬間は静かで、特別なグレードであることは気づかせない。ギアを入れて街中を走り回ってもマナーのよいFF車のままだ。エンジン音も、物足りないくらい静か。けれども、エンジン、トランスミッション、ステアリングの操舵(そうだ)力などの特性を変えるアルファ自慢のD.N.A.をダイナミックモードにし、アクセルペダルを深く踏み込むと、直噴ならではの乾いたエンジン音が響き、クルマは結構な勢いでカッ飛んでいく。
物理的な速さは文句なし。だが、かつて「156」や147に設定された「GTA」モデルのように、「あ、俺、初めてクルマの運転で、気をやってしまうかも……」と思わせるような甘美な感じはない。6000rpmの少し手前でエンジンの回転は止まり、気をやる前にシフトアップせざるを得ないからだ。そう思う一方で、下からモリモリとトルクが湧き出てくる楽しさを味わっている自分もいる。つまりはないものねだりで、昔と異なる種類ではあるが、ちゃんと魅力を備えている。
クアドリフォリオ ヴェルデは6MTのみ。ノブが大き過ぎるのは好みではなかったが、操作性は良好でギア比も適切。ただ、MTを味わってしまうと、絶対的に速くなくていいから高い回転域にドラマが待っているエンジンが恋しくなるのは確かだ。
ちなみに、専用ボディーカラー、専用アルミホイールとともに左ハンドルMT仕様となる特別仕様車「アルフィスティ」(10万円高)も限定50台で発売されたので、運転が上手な人はこっちを選んでもいいと思う。
アルファだって「最新が最良」
クアドリフォリオ ヴェルデの足まわりは専用のスポーツサスペンションが組み込まれ、タイヤも3グレード中最も立派な225/40R18サイズが装着されている。柔らかいスプリングと205/55R16サイズのタイヤを組み合わせたスプリントよりもハードな乗り心地であることは間違いないが、決して不快ではなくキャラクターに合っているから、見た目のためだけにこのグレードを選ぶのもアリだと思う。僕も、コンペティツィオーネに比べて30万円高なら、頑張ってこのグレードを買いたい。
アルファ・ロメオは由緒あるメーカーだからファンも多い。ただし、ファン同士が心を通わせているとは限らないのがアルファの特徴で、戦前のアルファを知る人は戦後のアルファを「けっ、大衆車!」と呼ぶし、戦後、モータースポーツで輝かしい成績を収めた頃のファンはFFになってからのアルファを認めない。最近になると比べる部分も細かくなってくるが、ツインスパーク時代のアルファオーナーは、最近の直噴エンジン搭載車を「うーん、いいんだけどスイートじゃない」と強がる。僕がそう。
ただ、そうした感情のもつれやジェネレーションギャップは脇に置いて冷静に見れば、やっぱりポルシェだけじゃなくアルファだって、“最新のアルファが最良のアルファ”だと思う。そして最新のアルファがこのジュリエッタだ。過去にもっとカッコいいアルファもあったし、もっとパワフルなアルファもあった。もっと乗って楽しいアルファも何台もあった。それは確かだが、カッコよく、パワフルで、楽しく、アフォーダブルで、そして当たり前だが、なおかつ現代の厳しいエミッション規制と燃費基準を満たしたアルファはない。
思うに、アルファ・ロメオの新車というのは、郷ひろみの新曲みたいなものである。久しぶりに出てきたと思って見てみたら、「なんだかんだ言っても、魅力的だよね」となっちゃうのだ。インポーターさん、もし本社にこのリポートを送るなら、郷ひろみのとこうまく訳してね!
(文=塩見智/写真=菊池貴之)
