マツダRX-8 Type RS(FR/6MT)/Type S(FR/6MT)【試乗速報】
マツダの親心が伝わる 2008.03.28 試乗記 マツダRX-8 Type RS(FR/6MT)/Type S(FR/6MT)……354万4800円/327万750円
デビューから5年、初のマイナーチェンジをしたマツダの4シータースポーツカー「RX-8」。スタイリングからエンジンに至るまで大幅に手が加えられた新型はどんな走りをみせるのか。
長寿街道まっしぐら
モデルライフは4年、実際の賞味期限は1年そこそこというクルマが少なくない日本で、デビューから5年ののちにようやく初のマイナーチェンジを迎えるなんて滅多にあるわけじゃない。そんな珍しいクルマが、4ドア/4シーターのスポーツカー「RX-8」。
ロータリーエンジンを搭載し、スポーツカーのフォルムとフル4シーターの実用性を両立するために観音開きの4ドアを採用するなど、存在そのものが稀少ということもあるのだろう、大切に育てていきたいと願うマツダの親心がひしひしと伝わってくる。
それだけに、今回のマイナーチェンジは見た目の目新しさよりも、中身の進化に重点を置いたという色合いが濃い。
たとえば、ロータリーの肝といえるエンジンオイルの供給を、これまでの機械式から電磁式にするとともに、給油も2か所から霧状で供給する方法から、3か所で液状のまま供給することで潤滑性を改善した。開発主査によればこれは「モデルチェンジにも近いほどの大幅な変更」だそうだ。ボディでは、フロントに台形のタワーバーを配したり(MTモデルのみ)、フロントドア開口部を強化するなどして地道にボディ剛性のアップを図っている。ほかにも前:ダブルウイッシュボーン、後:マルチリンクサスペンションも設定を見直すなど、変更点を挙げればキリがない。
もちろん初のマイナーチェンジとあって、独特のフォルムを維持しながら、デザインのバージョンアップも実施された。
フロントのセンターのエアインテークがヘッドライト下まで幅を広げたのをはじめ、フロントフェンダー後ろに帯状にあったエアアウトレットがウインカー一体型のコンパクトなデザインに改められたこと、そして、リアコンビネーションランプがLED式に変更されたことなどが、新型の特徴だ。
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スムーズさ増したロータリーエンジン
ラインナップは、215psのロータリーエンジン「RENESIS」を積むのがベースモデルと「Type E」、235ps版にグレードアップされるのが「Type S」「Type RS」。Type RSは今回のマイナーチェンジで追加された、走りを重視したモデルという位置づけである。そのなかから、まずはType Sを選び、進化の度合いをチェックした。
Type SとType RSは6段MTのみの設定で、おむすび型のシフトレバーの頭を見ると、リバースが6速の手前から1速の奥、すなわち右下から左上に移されている。
実は6段MTは今回からマツダ内製に変えられていて、ファイナルが低められるなどギア比の見直しも実施された。以前よりもカチッとしたタッチのシフトレバーを1速に送り、クラッチをつなぐと、旧型よりもボトムエンドのトルクが増したように思われたのは、そのおかげかもしれない。
走り始めると、3000rpm以下の常用域でもモーターのように気持ちよく回り、踏めば即座に加速するレスポンスの良さは相変わらず。絞り出すトルクにも余裕がある。これは、ふだん街乗りで使うときにはうれしい性能だ。もちろん、9000rpmのリブリミットは伊達じゃなく、高回転を得意とするのはこのエンジンならでは。新型はこの領域でスムーズさが一層増し、ついつい5000rpm以上をキープしてしまうのだが、スムーズなわりにいまひとつパンチに欠けるのが玉にキズか。
ワインディングロードが楽しい「Type RS」
新型の走りっぷりにも進化が見て取れる。ふつうのセダンに比べると、サスペンションは硬めに躾けられているものの、高いボディ剛性としなやかなサスペンションのおかげで、路面からのショックを上手に遮断。スポーツカーといっても乗り心地でガマンする必要はない。
一方、ワインディングロードにステージを移せば、ノーズの軽いRX-8はステアリング操作から遅れることなくサッと向きをかえる軽快さが自慢。旧型に比べるとリアの安定感が増したおかげで、安心してステアリングを握れるのもうれしい点だ。ただ、路面によってはコーナリング中の姿勢が安定しないこともあった。
その点、ビルシュタイン製ダンパーを奢られたType RSなら安定感は抜群で、自ずとコーナリングスピードが上がってくる。低速でゴツゴツする乗り心地は、ファミリーにはお勧めできないが、同乗者の顔色をうかがわずに済む人なら、購入の最有力候補となるに違いない。
反対に、家族思いの人には6ATのType Eがお勧めである。Type Sよりもさらに乗り心地がマイルドであること、多用する低中回転のフィーリングはハイパワー版に比べても遜色がないことなどがその理由だ。レブリミットが7500rpmに抑えられるのは不満かもしれないが、それでもロータリーエンジンの楽しさは十分に満喫できるはずだ。
このように、マイナーチェンジで確実に進化を遂げた新型は、さらに幅広いファンの要望に応えてくれるだろう。これでもう少し色気があると、申し分はないのだが……。まあそれは今後の課題として、数少ない日本のスポーツカーであるRX-8だけに、開発陣に対しては、これからも進化の手を緩めないでほしいと願うばかりである。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。