クルミは特許に守られていた

でも、そんなにいい素材だったら、どうして他のメーカーはまねをしないのか? この疑問に、東洋ゴム工業の鎌田晋作さんはこう答えてくれた。「20年前にトーヨーが発売したときに特許を出願していましたからね。ただし、そろそろ特許が切れる頃でしょうが、やはり他社さんもプライドがあるせいか、クルミは出してきません」

なーるほど、クルミは特許に守られていたのか。でも、年間何万本、いや何十万本も生産されるスタッドレスタイヤに入れるクルミの粉は、どこからどうやって手に入れるのだろうか? まさか、東洋ゴム工業の社員食堂で“クルミごはん”や“クルミあえ”が毎日毎日出てくるわけではあるまい。

「クルミの粉末はメガネやゴルフヘッドなどの研磨剤としても使われているので、工業用素材として流通経路が確立されているのです」。 これまた、大いに納得である。

ただし、トーヨータイヤはただ漫然とスタッドレスタイヤにクルミの粉を混ぜ合わせているだけではない。もともとクルミの粒径は120ミクロンだったが、より強力なひっかき力を求めて大径な300ミクロンのものも投入されるようになった。ただし、大粒な粉を混ぜるとタイヤ自体の摩耗特性が低下するが、これはコンパウンドなどに改良を加えることで乗り越えた。

最新作の「ウィンタートランパスMK4α」ではクルミの量を従来の6倍に増やした。これもコンパウンドなどの改良なしには実現できなかったこと。そのほかにも、全方向にわたるグリップ特性を改善するために360°サイプを開発したり、低温域でもゴムが硬化しにくい“ナノゲル”と呼ばれる高分子素材を「ガリットG5」に配合したりして、スタッドレスタイヤとしての性能を高めている。そもそも「ミニバン専用スタッドレスタイヤ」なんてものを発売しているのもトーヨータイヤだけだ。

「ウチは会社の規模が比較的小さいので、小回りが利きます。それに、技術者が自分の意見を自由に言える社風も備わっています。そういったものが、個性的な製品が誕生する背景になっているのかもしれません」(タイヤ技術第一部 商品開発グループ 坂本早智雄さん)

これも「なーるほど」の話である。

異なるタイヤを履く2台の「セレナ」を乗り比べる。「ウィンタートランパスMK4α」のコーナリング時の安定感が印象に残った。
異なるタイヤを履く2台の「セレナ」を乗り比べる。「ウィンタートランパスMK4α」のコーナリング時の安定感が印象に残った。 拡大
ミニバン専用スタッドレス「ウィンタートランパスMK4α」のトレッドパターン。左がIN側で、右がOUT側。
ミニバン専用スタッドレス「ウィンタートランパスMK4α」のトレッドパターン。左がIN側で、右がOUT側。 拡大
「ガリットG5」のトレッドパターン。
「ガリットG5」のトレッドパターン。 拡大
第137回:キーワードは“クルミ” トーヨータイヤの最新スタッドレスを体験の画像 拡大
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