サーブ9-3シリーズ【海外試乗記】
ニュー9-3の報告 2007.08.30 試乗記 サーブ9-3シリーズビッグマイナーチェンジによってフロントマスクが大きく変更され、新たに4WDモデルが加わった「サーブ9-3」。日本導入を前に本国スウェーデンで試乗した。
存在感増すサーブ
2007年6月、サーブは自動車メーカーとして歩みはじめて、60年を迎えた。その間に世に送り出したクルマの数は約400万台。2006年の販売台数は13万3167台で、過去最高を記録。そうはいっても、その規模は決して大きくはない。グループ全体で909万台のセールスを誇るGMのなかでは小さな存在である。
にもかかわらず、特定の分野では、グループの主導的役割を果たしているという。ひとつが、バイオエタノール燃料で走るFFV(フレキシブル・フュエル・ヴィークル)の開発だ。日本でもようやくバイオガソリンの販売がスタートしたが、ヨーロッパではE85と呼ばれるエタノール比率85%のバイオエタノール燃料が供給され、ターボと相性がいいこともあり、サーブはヨーロッパのFFV市場で4割近いシェアを握っている。
そして、新たにサーブは、GMにおけるXWD(クロス・ホイール・ドライブ)、すなわち、フルタイム4WDシステム開発の主導権を握ることになった。そんなサーブの立場をよく表しているのが、このほどモデルチェンジが実施された「9-3」なのだ。
フルモデルチェンジ!?
新型9-3といっても、実はフルモデルチェンジではなく、いわゆるビッグマイナーチェンジである。しかし、見た目はまるで別のクルマのよう。実際、エクステリアは、ルーフパネルを除いてほぼすべてがリニューアルされ、とくにフロントマスクは、2006年のジュネーブショーで披露された「エアロXコンセプト」のイメージを受け継いで、押しの強いデザインになった。
サーブ伝統の“スリーホールグリル”に、切れ長の眼がスポーティ。最新の「9-5」ほどやりすぎた(!?)感じがしないのもいい。
サイドまで回り込むボンネットは、これまたサーブ伝統のクラムシェルタイプで、新しさと懐かしさを融合したスタイルは、なかなかうまくまとまっているように思えた。
一方、インテリアのほうは、2007年モデルでひとあし先にデザインが変更されたため、カーナビまわり以外はほぼそれを受け継いでいる。
エンジンは、ガソリンが5種類、ディーゼルが3種類、さらに、E85対応の“バイオパワー”が2種類ラインアップされ、このうち日本には、175psと210psの2リッター直4ガソリンターボと255psの2.8リッターV6ガソリンターボが導入される予定。エンジンそのものはマイナーチェンジの前後で基本的には変わっていないという。日本のエントリーモデルに搭載される2リッターターボが、150ps版から175ps版に変更されるのは、購入を考えている人にとってうれしい知らせだろう。
中身も進化
パワートレーンに関して、このマイナーチェンジで変わるのが、サーブとしてはじめて4WDモデルが用意されることだ。XWDと呼ばれるフルタイム4WDは、FFをベースにハルデックスLSC(リミテッド・スリップ・カップリング)を用いて、通常は5〜10%、状況に応じては100%、後輪が駆動を受け持つというオンデマンドシステム。ハルデックスとしては第4世代にあたり、従来以上にレスポンスが早められたという。
スウェーデン第2の都市、イェテボリ近郊で開催されたプレス試乗会では、短時間だがさっそくXWDを試すチャンスがあった。テストコース内のグラベルで急発進を試みると、フロントタイヤがホイールスピンをする間もなく、後ろから押されるように加速。たしかにレスポンスがいい。コーナーリング中にアクセルペダルを踏み込めば、FFなら前輪がトラクションを失ってESPが効き始めるところを、即座に後輪がトラクションを発揮することで、ESPの世話にならずに素早くコーナーを駆け抜けることができた。
ニューモデルの日本上陸はこの秋
その後は一般道でFFモデルを試乗する。はじめに乗ったのが、「9-3スポーツエステート」の2リッター直列4気筒バイオパワーターボ。175ps版のガソリンエンジンをベースにしているが、過給圧を高めることで25psアップの200psを稼ぎ出している。E85はハイオクガソリンよりもオクタン価が高いために、過給圧を上げることができるのだ。いまどきのターボとしてはターボラグは大きいが、力強い加速はとても魅力的。環境に優しいクルマでも、走りに我慢を強いられないのは意外だった。スポーツエステートの走りっぷりは、あまり舗装状態がよくないテストルートでも、マイルドでフラットな乗り心地を示し、マイナーチェンジ前よりもしっかりとしたボディも手伝って、とても快適である。
途中乗り換えたスポーツセダンは、ガソリンのV6ターボを搭載する“エアロ”仕様。明らかにハードなサスペンションが組み込まれているため、場合によっては路面からのショックを伝えることもあったが、乗り心地は十分合格レベル。一方、高速での落ち着いた印象はロングドライブには好適。エンジンも低回転から余裕あるトルクを発揮し、過給圧がさほど高くないこともあってレスポンスも自然。扱いやすいエンジンである。
残念ながら、日本でメインとなるはずの、ふつうの2リッターガソリン車は試乗できなかったが、新しい9-3の進化は十分体感することができた。日本への導入は、FFのスポーツセダン、スポーツエステート、カブリオレがこの2007年秋に、XWDのスポーツセダン、スポーツエステートが来春という予定で、日本上陸がいまから待ち遠しい。
(文=生方聡/写真=ゼネラルモーターズ・アジアパシフィック・ジャパン)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。