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日本の「スバルWRX」にはなぜMTがないのか? 北米のMTモデルに乗って思うこと

2023.10.02 デイリーコラム 工藤 貴宏
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海の向こうには存在する

つい先ごろまで「MT(マニュアルトランスミッション)好きのための最後の砦(とりで)」なんて言われていたのがマツダとスバル。でも気がつけば両メーカーともにその設定がごっそり落ちた今、ますます「絶滅危惧種にまっしぐら」というのがMTを取り巻く環境だ。

もちろん事情はわかりますよ。今や日本でMTの新車を選ぶ好事家なんて1%くらいしかいないわけで、そんな人たちのためにわざわざ用意していたらコストがかかりすぎる。そのうえ地球温暖化対策としての二酸化炭素排出量削減という観点から企業の平均燃費向上が強く強く求められる今、ATやCVTよりも燃費の悪いMTなんてできれば売りたくないっていうのがメーカーの気持ちだろう(そういう視点で見るとスポーツモデルだけでなく普通の「ヤリス」にもMTを設定するトヨタは何気にスゴい!)。

何が言いたいかというと、日本仕様の「スバルWRX」にはMTがないけれど、海外向けにはあるので、アメリカ・ロサンゼルスまではるばる乗りに出かけたってこと。そして、それについての考察というのが、今回のコラムの趣旨である。

現地仕様WRXのMTモデルに搭載されるエンジンは2.4リッターターボの「FA24」型で最高出力271HP(約275PS)。鋭い読者諸兄は察しがついたことだろう。実は北米のMTモデルは「WRX STI」ではなく日本で言うところの「WRX S4」である。従来型ではSTIにしかMTのなかった日本向けとは違い、海外仕様はS4にMTを搭載しているというわけなのだ。

気になる4WDシステムは、日本のMTモデルには欠かせなかった「DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)方式AWD」ではない。日本向けのCVTモデルと同じ「VTD-AWD」でもなくて、「ビスカスLSD付きセンターデフ方式AWD」という、電子制御を持たないコンベンショナルでシンプルな構造。先代「フォレスター」のMTモデルなどに採用されていた仕掛けである。口の悪い人は「凝っていない」というかもしれないが、こういうシンプルな構造でこそ気持ちよく走れることもある。

今回、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスで筆者が試乗した、北米仕様の「スバルWRX」。国内では「WRX S4」の名で販売されている車種だ。
今回、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスで筆者が試乗した、北米仕様の「スバルWRX」。国内では「WRX S4」の名で販売されている車種だ。拡大
ハンドル位置はもちろん左。センターコンソールには、日本の「WRX S4」にはないMTのシフトレバーが生えている。
ハンドル位置はもちろん左。センターコンソールには、日本の「WRX S4」にはないMTのシフトレバーが生えている。拡大
6段MTは、レバー下方のノブを引き上げてリバースに入れるタイプ。レバー式のパーキングブレーキが備わる。
6段MTは、レバー下方のノブを引き上げてリバースに入れるタイプ。レバー式のパーキングブレーキが備わる。拡大
ペダルの配置はご覧のとおり。ブレーキペダルやクラッチペダルにはゴムで滑り止め加工が施されていた。
ペダルの配置はご覧のとおり。ブレーキペダルやクラッチペダルにはゴムで滑り止め加工が施されていた。拡大
北米仕様車の車名はシンプルに「WRX」。リアにはそのエンブレムが装着されている。
北米仕様車の車名はシンプルに「WRX」。リアにはそのエンブレムが装着されている。拡大
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こういうのでいいんだよ!

北米仕様のWRX MTモデルの走りは、なかなか爽快だ。

かつてのWRX STIのような、暴力的なほどにキレッキレのやんちゃな感じとは違うけれど、気持ちよく峠道を走れるから「これでいいじゃん!」という気持ちになってくる。高回転でパワーさく裂……というよりは低回転からしっかりと太いトルクを出すFA24エンジンだけど、CVTと違ってエンジン回転を自分の手でコントロールするのはやっぱり気持ちいいものだ。メカニズムとして特に何かすごいものがあるわけではないけれど、某グルメドラマ流に言えば「ほー、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ、こういうので」といったところ。とっても心地いいドライブができる。

日本向けのCVTモデルでも速さと運転する楽しさはしっかりあるけれど、MTがあればやっぱりそのほうがクルマとの一体感が楽しめることをあらためて実感。WRX STIとさえ名乗らなければ、頂上を求める必要なんてなくて、こういうのでいいんじゃないだろうか。

そんな、海外には展開しているMTモデルを、スバルはどうして国内で販売しないのか? 誰もが感じるそんな疑問の背景には、2つの理由がありそうだ。

ひとつは衝突被害軽減ブレーキへの対応。MTは衝突被害軽減ブレーキとの相性が悪く、(トヨタやホンダなど組み合わせているメーカーもあるが)スバルが理想とするようなMTとアイサイトの組み合わせは難しいのだという(ACC機能も含めて)。その詳細は長くなるのでここでは割愛するが、ひとつだけ言えるのは「BRZ」のMTモデルにも、これまで非搭載だったアイサイトが最新型では装着されたという事実。だからWRXとの組み合わせに関しても時間が解決してくれるだろう。

もうひとつは、従来とのキャラ違いという問題。これまで日本で“WRXのMT”といえば「ハイパワーかつ高回転型のエンジンで、AWDシステムは凝りに凝ったDCCD式で、そのまま競技に使えるほどのメカニズムをおごったWRX STI」を指す。しかし現在のモデルはそれよりもソフトなWRX S4であり、従来のWRX STIから乗り換えると「速さと刺激が足りない」と感じる人が出ることは想像に難くない。そんな受け手側のギャップをスバルも気にしているように感じる。

それは確かにわからなくもない。でも、峠道をとっても気持ちよく流せる北米版WRX のMTモデルを運転していると「とはいえやっぱり、ないよりはあるほうがうれしいよなあ」と思うのも偽らざる気持ちなのだが、スバリストのみなさんはいかがでしょうかね? STIじゃないとダメですか?

(文と写真=工藤貴宏/編集=関 顕也)

試乗中のワンシーン。シフトレバーを介してエンジン回転を自分の手でコントロールできるというのは、やはり気持ちのいいものだ。
試乗中のワンシーン。シフトレバーを介してエンジン回転を自分の手でコントロールできるというのは、やはり気持ちのいいものだ。拡大
「スバルWRX」北米仕様車の2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジンは、最高出力275PSを発生。最大トルクは350N・mで、日本の「WRX S4」(同375N・m)よりは低い値となっている。
「スバルWRX」北米仕様車の2.4リッター水平対向4気筒ターボエンジンは、最高出力275PSを発生。最大トルクは350N・mで、日本の「WRX S4」(同375N・m)よりは低い値となっている。拡大
タイヤサイズは日本仕様と同じ245/40R18。銘柄も、国内のモデルに採用されている「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600A」だった。
タイヤサイズは日本仕様と同じ245/40R18。銘柄も、国内のモデルに採用されている「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600A」だった。拡大
スピードメーターの目盛りは、290km/hまで刻まれている。
スピードメーターの目盛りは、290km/hまで刻まれている。拡大
運転支援システム「アイサイト」との組み合わせがひとつの障壁になるといわれる「スバルWRX」のMTモデル。しかし「BRZ」のMTモデルにアイサイトが設定された今、MT仕様の「WRX S4」実現に期待したい。
運転支援システム「アイサイト」との組み合わせがひとつの障壁になるといわれる「スバルWRX」のMTモデル。しかし「BRZ」のMTモデルにアイサイトが設定された今、MT仕様の「WRX S4」実現に期待したい。拡大
工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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