イタリアン・スポーツカーABARTH 124 spiderしみ

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ABARTH

REPORT 1 奇跡みたいなクルマ

文=嶋田智之/写真=郡大二郎

アバルトの“やりすぎない美学”が生んだ奇跡
クルマを構成するすべての要素が
絶妙なさじ加減でバランスしたとき
スポーツカーはどんな存在となるのか?

絶妙なまでに“ちょうどいい”存在

「アバルト124スパイダー」が日本に上陸してからおよそ1年。僕のこのクルマへの好感度の高さは、少しも目減りしていない。日々をスポーツカーと一緒に暮らすということを考えたとき、このクルマ以上にいろいろな意味で“ちょうどいい”と感じられるクルマが、今もって他に思い浮かばないからだ。

ちょうどいい? そう、ちょうどいいのだ。それも絶妙に。

アバルトは、もともとは1949年の設立から1960年代にかけて7500ほどの勝ち星を記録した、強力なレーシング・ファクトリーだった。小さな大衆車に徹底的なチューンナップを加え、2クラスも3クラスも格上のマシンを追い回せる速さを与えることで、その名を世界にとどろかせたのだ。

長年にわたるそうした史実から、「アバルト=過激」というイメージを抱いている人が少なからずいるようだけど、それはレーシングカーや特殊な車両に限っての話。市販乗用車ベースのロードカーに関しては、実は昔から、ツボはしっかり押さえているけどちょうどいいところで加減を抑えたクルマ作りをするのが特徴だった。「ストリートで乗りづらかったり持て余したりすると、楽しさ半減」ということをよく知っているのである。ちゃんと速くはなっているけど、決して過剰ではない。その“寸止めの美学”とでもいうべきバランス感覚でクルマ作りを行う伝統は、今も生きているのである。

だから124スパイダーも、「595」シリーズがそうであるように、楽しさや速さはあるけど持て余さないクルマに仕上げられている。“ちょうどいい”とは、そういうことだ。

流していても、飛ばしていても心地いい

むしろエンジンのパワーとトルクに余裕がある分だけ、兄弟分である「マツダ・ロードスター」よりも走らせやすいといえるかもしれない。アイドリング付近から不足を感じることのないトルクは、2500rpmで最大値の250Nmを発生し、そのままスロットルペダルを踏み続けていくと、今度はいつの間にか立ち上がってきていたパワーがバトンを受け取るように盛り上がりを見せ、170psに達する5500rpmまで勢いよく吹け上がっていく。1.4リッターと排気量は小さいものの、ターボ特有の反応の遅れもほとんど感じさせない。ゆっくり流して走っているときも、ちょっと気合を入れて走っているときも、全く乗りづらさというものがないのだ。

アバルトの象徴であるサソリのエンブレムは、創業者カルロ・アバルトの星座にあやかったもの。1949年にカルロが興したアバルト&C.は、たちまちのうちにレースの世界で頭角を現していった。

1.4リッター直4ターボエンジンの最高出力は170ps、最大トルクは25.5kgm。いずれも車重1.1t台のコンパクトスポーツとしては十分なもので、0-100km/h加速6.8秒という124スパイダーの動力性能を支えている。

テスト車には「ヘリテージルック」と呼ばれるオプションが採用されていた。マットブラックのボンネットやトランクフードなどにより、往年の「アバルト124スパイダーラリー」を思わせるスタイリングを実現できる。