MENU
スポーツカー「F-TYPE」のイメージをまとうコンパクトSUV「E-PACE」。
充実したラインナップの中からガソリンと
ディーゼルの2モデルを連れ出し、
その走りを堪能した。
文=生方 聡/写真=荒川正幸
いま最も熱いマーケットとして注目が集まるコンパクトSUV市場に、ジャガーが投入したのが、ニューモデルのE-PACEだ。古くからスポーツカーとラグジュアリーサルーンを手がけてきたイギリスのジャガーが、パフォーマンスSUVの「F-PACE」を世に送り出したのが2015年のこと。その成功を受け、“PACE”シリーズの第2弾として発売されたコンパクトパフォーマンスSUVがこのE-PACEだ。
ジャガーの現ラインナップでも最も全長が短く、誕生から間もないことから、ジャガーではこのE-PACEを“ベイビージャガー”と呼んでいる。しかし、その愛称から受けるイメージとは対照的に、E-PACEは強い存在感を示すクルマに仕上げられている。
全長×全高×全幅=4410×1900×1650mmと、F-PACEよりも330mm短い全長のボディーに、同ブランドのピュアスポーツカーであるF-TYPEのイメージを重ね合わせるとともに、スポーツカーに迫るパフォーマンスとSUVならではのユーティリティーを兼ね備えたE-PACEは、新たなファン獲得の切り札となるに違いない。
そんな話題のニューモデルの中から、今回は2リッター直4「インジニウム」ガソリンターボエンジンを搭載する「E-PACE R-DYNAMIC HSE P300」と、同じくインジニウムと名付けられた2リッター直4ディーゼルターボを積む「E-PACE R-DYNAMIC HSE D180」の2台をチョイス。東京のベイエリアに2018年10月1日にオープンしたばかりの日本最大規模を誇るショールーム「ジャガー東京ベイ有明」を起点とするテストドライブに出掛けることにした。
今回の2台はともに、よりスポーティーなR-DYNAMIC HSEで、ブラックのパーツをあしらうドレスアップオプション「ブラックパック」を装着。白系のボディーカラーとの組み合わせがE-PACEの精悍(せいかん)さを際立たせている。
グロスブラックのグリルと「J」字型に輝くデイタイムランニングライトにより特徴づけられたフロントマスクは、1900mmのワイドボディーとあいまって“ベイビー”という言葉が似合わないほど堂々としている。さらにサイドにまわりこんでいくと、F-PACEよりも明らかに短い全長と、クーペスタイルの流れるようなルーフラインによって、キュッと引き締まったボディーに仕立てられていることがわかる。なかなか大胆な印象だ。
一方、少し高めの位置にあるシートに身を委ねると、スポーティーなだけでなく、ハッとさせられるほどに繊細で美しいコックピットに目を奪われる。高い質感のダッシュボードやドアトリム、各所に施されるコントラストカラーのステッチなどが、ジャガーのイメージにふさわしい上質な雰囲気と、すばらしい眺めをもたらしているのだ。
それでいて、センタークラスターの小物入れにヒョウ柄の意匠をあしらったり、フロントガラスの縁にジャガーの親子をかたどったシルエットを描き込んだり……きわめつけは、ドアを開けたときにドアミラーからのライティングでジャガー親子を照らし出すなど、遊び心を忘れないあたりが、“新しい毛並み”のベイビージャガーらしいところだ。
ひととおりデザインをチェックしたところで、まずはE-PACE R-DYNAMIC HSE P300を試す。E-PACEには2リッター直列4気筒ガソリンターボエンジンの「P250」と「P300」、2リッター直列4気筒ディーゼルターボの「D180」が用意されるが、このP300はラインナップの中で最もハイパフォーマンスのパワーユニットだ。その名のとおり300psの最高出力を誇り、そのパワーは9段オートマチックとAWD(4WD)からなるパワートレインを介して路面に伝えられる。
早速走りだすと、すぐにP300ユニットのスポーティーさに頬がゆるむ。どの回転からでも軽くアクセルペダルを踏むだけで、即座に力強い加速をもたらすのだ。1930kgの車両重量がにわかに信じられないほどで、さらにアクセルペダルを踏み込むと、勇ましいサウンドとともに6000rpm超までまさに胸のすく吹け上がりを見せてくれる。
このパワーを受け止める高いシャシー性能も、走りの楽しさを加速する。前:マクファーソンストラット式、後ろ:マルチリンク式のサスペンションに、電子制御ダンパーの「アクティブダイナミクス」を搭載したこのクルマは、フラットな乗り心地を示す一方、コーナーではロールを抑えながらしなやかな動きで路面を捉える。
しかも、P300では、走行中のグリップに応じて後輪の左右トルク配分も制御する「アクティブドライブライン」タイプの4WDシステムを搭載しているために、SUVであることを忘れさせるほど軽快なハンドリングが味わえるのだ。この走りの快感は、まさにスポーツカーの領域のものである。
そんなエキサイティングなP300が私は好きだが、ややゆったり乗りたいという人には、ディーゼルのD180がおすすめである。といっても、D180が絶対的に遅いという意味ではない。なにせ、D180の最大トルクはP300を30Nm上回る430Nmという値である。
実際、1000rpmを超えたあたりからすでに十分なトルクを生み出し、低回転から力強い特性を生かして余裕を持ったクルージングが楽しめるのだ。ディーゼルエンジンとはいえ加速時のノイズや振動もとりたてて大きいものではなく、ディーゼル車特有のカラカラ音もよく抑えられている。
P300に対してD180の車両重量は10kg重いだけだが、クルマ全体の動きはP300に比べてマイルドな味付けだ。長距離ドライブが多いという人なら、ディーゼルエンジンならではの燃費のメリットもあるから、これを選ばない手はないだろう。
今回は東京都内と、高速道路を介して房総半島の道でその走りを試したが、全長4410mm、ホイールベースが2680mmと比較的コンパクトなサイズのE-PACEは思いのほか扱いやすく、どんな場所でも取り回しに困ることはなかった。背が高く、アイポイントが高めであることから、渋滞の多い街中や都市高速でも先が見通せるぶん、運転に余裕が生まれるのもうれしいところだ。
そのうえ街に似合うデザインのE-PACE。スタイリッシュなコンパクトSUVが欲しい人や、スポーツカーの走りをSUVで楽しみたいという人、そして、ジャガーの世界を知りたいという人は、ぜひご自身でその魅力を確かめてほしいと思う。