競技生活にSUVは欠かせない
真っ青に晴れた空の下、シルバーの鮮やかなSUVが伊豆スカイラインのつづら折りを行く。クロカン特有の重ったるさとは無縁で、その足取りは軽快そのものだ。車内から周囲を見回せば、ウィンドウやスライダーの隙間、そしてルーフのアルパインウィンドウから、後ろへと流れる木々の緑葉と、空の群青が目に飛び込んでくる。

「『ディフェンダー』は、2週間ほど5ドアの『110』に乗っていたことがあるのですが、ボディーが短いからか、このクルマは動きが軽やかですね」


落ち着いた様子でそう語るのは、日本におけるエンデューロ競技の第一人者であり、ランドローバーのブランドエンドーサーを務める永田隼也選手だ。そして今、彼が運転しているのは、先日日本に上陸したばかりの「ディフェンダー90」である。2019年に登場したディフェンダーの3ドア・ショートボディー仕様にして、正真正銘のランドローバーの最新モデルだ。

永田選手は慣れた手つきでクルマを操る。3ドアボディーとはいえ、堂々とした体格のSUVで急峻(きゅうしゅん)なワインディングロードを走っているというのに、リラックスしたそのハンドルさばきからは、自転車だけでなくクルマの運転にも精通した様子がうかがえる。

それもそのはず。早くから自転車競技に親しんできた彼は、18歳になると早々に運転免許を取得。以来、今日に至るまで、普段使いではもちろん競技や合宿などで遠征する際にも、自らハンドルを握っているのだ。しかも、マイカーは長らくSUVを乗り継いできたとのこと。“大柄なクルマ”の運転に慣れているのも、さもありなんといったところだ。

「遠征が多いので、年に2~3万kmは走ってます。家のある茅ヶ崎から広島まで走ったり。もちろん、トレイルを走りに山にも登ります。遠征では荷物が多くなりますし、冬には雪山に行くこともありますので、SUVは手放せないですね」
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2021年春に日本上陸を果たした「ディフェンダー90」。ディフェンダーシリーズの3ドア仕様で、5ドアの「110」より435mmも短いボディーが特徴だ。
“クロカン”らしい道具感と先進性を併せ持つインストゥルメントパネルまわり。豊富な収納スペースに加え、各所に電源やUSBポートを備えており、利便性は上々だ。
試乗車のルーフには大開口のルーフスライダーが備わっており、「ディフェンダー」伝統のアルパインウィンドウともども、車内に開放感を与えていた。
ステアリングホイールに備わるアダプティブクルーズコントロールのスイッチ。今話題の予防安全・運転支援システムについても、最新のものが用意されている。
最初に感じたのは
“サスペンションのよさ”
クルマを競技生活の供としてきた永田選手がランドローバーに乗り換えたとき、まず驚かされたのはその“快適さ”だったという。

「競技でマウンテンバイクに乗るときも、いつもすごく気を使ってサスペンションのセッティングを出すんです。それもあってか、ランドローバーに乗って最初に感動したのがサスペンションでした。路面に対する追従性のよさや、カドのなさというか、アタリの柔らかさにです。以前は、長距離遠征するとだいたいモモの裏側が張ったりして、現地に着いた翌日とかは体の調子が悪かったんですけど、ランドローバーはシートもすごくよくて、“遠征疲れ”のなさにとにかくびっくりしました」

もちろん、こうしたサスペンションのつくり込みは運転のしやすさにも寄与している。

「運転していて特に感じるのは、“ヨンク”なのに不安感がないというか、ステアリングの安心感が高いということですね。高速道路でもフラフラする感じは全然ないし、ディフェンダー90も、こうして峠道を走っていてもコーナーの外に飛び出してしまいそうな怖さがありません。昔乗っていたワンボックスなんかは、カーブで『ウワア!』ってふくらんでいくのが怖くて、山に登るたびに『峠道かあ、めんどくさいなあ』って思っていたんですけど、ランドローバーになってからはそこも楽しいというか、まったく苦じゃなくなりました」

ここまでのインプレッションは足まわりについての話だが、このディフェンダー90のドライバビリティーについては、あるいはエンジンも寄与しているのかもしれない。今、永田選手が試乗している90には、軽量な2リッター直4ガソリンターボエンジンが搭載されているのだ。その点について水を向けたところ、

「確かに、大柄なガワ(外観)に対してクルマの動きが軽い、というのは感じますね。それに、2リッターターボと聞いたときはもっとスカスカなイメージを持っていたんですが、そんなことも全然ありません。(同じエンジンを積んだ)110でも1000kmちょっと走ったのですが、非常に快適でしたね」
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出来のよいシートは自然で快適な運転姿勢にも寄与する。アイポントの高さは本格SUVならではで、広いガラスエリアとも相まって、ストレスのない視界が確保されている。
後席にも十分なスペースを確保。3ドアなのでアクセスは大変だが、乗り込んでしまえばゆったりくつろげる。ドリンクホルダーやエアコン吹き出し口も完備されている。
前席のショルダー部には、背もたれを倒すレバーとスライド機構のスイッチを配置。前席を前へ押しやり、ドアハンドルへ手を伸ばせば、後席からも人の手を借りずに降りられる。
2リッターという排気量から、300PSの最高出力と400N・mの最大トルクを発生する「インジニウム」4気筒ガソリンターボエンジン。「ディンフェンダー90」を快活に走らせる。
厳しい環境で実感する
本格四駆のありがたみ
こうしたオンロードでの振る舞いに加え、永田選手が重視しているのが悪路での走破性能だ。「トレイルを走りにいくときも、コースまで自分で登っていかなければならない場所がある。四駆というのはマストというか、外せないアイテム」と語る彼にとって、オフロード性能は飾りではなく、必須のものなのだ。

「場所や天候によっては、朝起きたらもう、前の日には通れた道が通れなくなっていたりしますからね。SUVでもスタックするクルマを結構見かけるんですが、ランドローバーならその横をすり抜けて行けたりするんです。一般の方がマウンテンバイクを楽しむぶんには、そんな場所には踏み入れないと思うのですが、僕らが山に乗りにいく場合は、クルマによって安心感が全然違います。雪山で駐車場に雪が積もってしまったときも、エアサスペンションが付いたランドローバーなら、車高を上げて2回くらい前後して雪を踏み固めたら、もう出られたりしますからね」

このように、プロのマウンテンバイクの競技者であり、本格的にスキーも楽しむ永田選手にとって、オフロードはアトラクションではないのだ。そんな彼が、最近気に入っている機能があるという。ボンネットの死角となる、車両前方下部の路面状態をモニターに映し出す「クリアサイトグラウンドビュー」だ。

「山に行くと、この先どうなってんだろう? ということがあると思うのですが、そういう場所で本当に重宝します。最初はそんなカメラ、本当に要るのかな? って思っていたんですが、実際にそういうシーンに出くわすと、もうこれのありがたみたるや(笑)」

今回の試乗ではオフロード走行はかなわなかったが、永田選手は実体験を交えてランドローバーの“安心感”を説明してくれた。そして撮影ポイントの見晴らし台でディフェンダー90を切り返すと、「機会があれば、がっつりオフロードも行ってみたいですね」とも述べた。オンロードでもオフロードでも、ランドローバーは走ること自体を楽しみに変えてくれるクルマのようだ。
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足まわりには、本格SUVらしく十分なホイールトラベルを確保。オプションで、車高調整機能付きの電子制御エアサスペンションも用意されている。
エアサスの車高調整や、副変速機、ヒルディセントコントロールなどの機能は、センターコンソールのコントローラーで操作。アイコンが分かりやすく、迷いなく使える。
ボンネットを透過したかのような映像を映し出す「クリアサイトグラウンドビュー」。石などを避けながら走るときや、急斜面の頂上などで前方の様子が分からないときに重宝する。
アクセサリーの中には、本格SUVならではの装備も。「エクスプローラーパック」に含まれるレイズドエアインテークは、飾りではなく本当に砂塵などをよけてクリーンな空気を取り込む。
“便利でおしゃれ”な
だけじゃなく
「さっきも話したと思うのですが、免許を取って最初のクルマは、国産のワンボックスでした。荷物が積めるほうがいいので。でも運転するとバスみたいだし、板バネのサスペンションで乗り心地は固かったし、なによりレース会場に向かう道を登れなくて、四駆の必要性を痛感しました。そのときから、一番の憧れのクルマはランドローバーです。『絶対的な本物』というイメージがあったので、いつかは乗りたいとずっと思っていました。今は『ディスカバリー』に乗っているのですが、車内がすごく広いので助かっています。車中泊でも、後ろのシートをたためば僕が足をまっすぐ伸ばして寝られる広さがありますし、床がフルフラットになるところもいいですね」

永田選手は今の相方であるディスカバリーをとても気に入っているようだ。では、今回試乗したディフェンダー90についてはどうなのだろうか? 彼は、キャンプ場に戻る道へとクルマの鼻先を向けながら、「こういうチョコマカしたところ、乗りやすいですね」とショートボディーならではの取り回しのしやすさに言及。次いで「ディフェンダーは、内装がすごくいいと思います。遊び心があるというか」と述べた。

「マウンテンバイクの会場にはどろどろの場所もあるんですけど、このクルマは、泥のまま乗れて、すぐに拭けるよう、内装に気が使われています。車内の汚れを気にせずに使えるのは、僕としては最高だなと思います。後は、収納の多さもいいなあと。ダッシュボードのトレーとかセンターコンソールとか、なんでも置けそうな気がしますからね」

ただ、永田選手がディフェンダーの車内に感じた魅力は、実用性の高さだけではないようだ。こうした機能性がかなえる“旅グルマ”としての資質や趣も、競技者として遠征を続ける彼の琴線に触れたようだった。

「ディフェンダーは、この視点の高さや内装の感じもあって、ドライバーを旅に誘ってきますよね、不思議と。荷物も積めるし、ちょっと汚しても拭いちゃえばいいさと思える。アクティブに使うには最高のクルマだと思います」

ロングツーリングをものともしない快適性と、より奥地へと踏み込んでいける走破性。加えて、本物のヘビーユーザーが寄せる期待にも応えうる、懐の深さも併せ持つ。永田選手の言う通り、ランドローバー・ディフェンダーはアクティブな旅の相方として、最高の一台と言えるだろう。
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ショートボディーの恩恵で、最小回転半径は5.3mを実現(5ドアは6.1m)。この取り回しのしやすさが、「ちょっと奥まで行ってみようかな」という冒険心をかき立てる。
インテリアパネルには、あえて見えるような箇所にボルトを採用。ラギッドな雰囲気の演出に、一役買っている。
荷室容量は5人乗車時で297リッター、後席をたたんだ状態で1263リッター。ルーフラックやサイドマウントギアキャリアなど、積載性を高めるアクセサリーも充実している。
高い悪路走破性に加え、内装についてもアクティブに使われることを想定してつくり込まれた「ディフェンダー90/110」。アドベンチャーな旅のお供に、好適な一台といえるだろう。
プロフィール
Interviewee
永田隼也さん
ダウンヒルとエンデューロを中心に活躍する、日本を代表するマウンテンバイク選手。幼いころより自転車に親しみ、16歳でダウンヒル国内シリーズ戦の最高峰クラスに昇格。2015年に全日本選手権で、2016年にはRed Bull Holy Rideで初タイトルを獲得した。Enduro World Seriesの出場権を持つ唯一の日本人として、今日も世界への挑戦を続けている。