

進化し続けるパイオニア
日産エルグランドに見る
高級車の本質
この風格漂う日産の最上級ミニバンが、さらなる進化を遂げた。
デザインや先進装備など、多方面で磨きのかかった最新モデルの実力は?
「プレミアムミニバン」というジャンルを切り開いた、パイオニアの矜持に触れた。
文=サトータケシ/写真=荒川正幸


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歩みを止めない
高級ミニバンの先駆者
日産エルグランドといえば、プレミアムなミニバンの市場を開拓した先駆者だ。同時に現行モデルに関しては、重心の低いプラットフォームを採用したことで、クルマ好きが満足できる操縦性を実現したツアラーでもある。ドライバーが“運転手さん”にならずに済む、貴重な存在だ。
このエルグランドがマイナーチェンジを受けた。ポイントは、内外装のデザインを刷新するとともに、先進安全技術を充実させたことだ。早速、試乗してどのように進化したのかを確かめてみた。
エクステリアに見るデザインの変更点は、フロントグリルが一新され、より凛々(りり)しい表情になって存在感を増したことだ。繊細なデザイン処理が施されたフロントグリルには2色が用意される。精悍(せいかん)な印象のブラッククロームはエルグランドの“走る”イメージを強調、華やかさを感じさせるサテンクロームも、エルグランドの“高級感”を際立たせる。
他のモデルとは趣を異にする、「アーバンクロム」という仕様の設定もトピックだ。先ほど述べたブラッククロームのフロントグリルに加え、その下に光沢のあるバーを水平方向に走らせることで、エルグランドの“ロー&ワイドなフォルム”という個性をさらに明確に表現する。これによって、エルグランドは「ハイウェイスター」と「ハイウェイスター アーバンクロム」という、ふたつの顔を持つことになった。
今回試乗したのは、「エルグランド250ハイウェイスター プレミアム アーバンクロム」。初対面の“アーバンクロム顔”は、路面に吸い付くように走る姿を連想させ、走りがウリのエルグランドにふさわしいデザインだと納得した。
試乗を始める前に新生エルグランドのラインナップを整理しておくと、エンジンは今回試乗した2.5リッター直列4気筒のほかに、3.5リッターV型6気筒が用意される。どちらのパワートレインも、2WD(前輪駆動)または4WDの駆動方式を選ぶことができる。
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静かで滑らかな
走りに感じる
高級車の趣
可能な限りエンジン搭載位置を低くし、また燃料タンクを極限まで薄くし、床下に配置することで重心を低くしたエルグランドは、乗り降りが楽なミニバンでもある。「よっこらしょ」とならずに、腰を水平移動するだけですっと運転席に腰掛けることができる。
乗り込んだ瞬間、インテリアがモダンに生まれ変わっていることに気づく。ポイントは、インストルメントパネルに鎮座する10インチワイドの大型ナビゲーションシステムだ。視認性と操作性が向上しているほか、液晶パネルの周囲をつやのあるピアノブラックで囲むことで、ラグジュアリーさも増した。シートにキルティングのパターン処理が施されていることも、ラグジュアリーな雰囲気がさらに強まった要因だ。
エンジンを始動しても車内は無音に近いほど静か。6段マニュアルモード付きのCVT(無段変速機)をDレンジにシフトしてブレーキをリリースすると、エルグランドは粛々と発進した。
2.5リッター直4エンジンは、アイドル付近の回転域から豊かなトルクを発生する頼りがいのあるタイプで、変速ショックのないCVTの特性もあって、ストップ&ゴーが連続する市街地を走っていてもストレスがない。トルクがあるだけでなくレスポンスがいいこともこのパワートレインの美点で、微妙に速度をコントロールできることもストレスを感じない理由のひとつだ。
静かで滑らかなエルグランドは、市街地を走っているとミニバンというより高級車の趣だ。ただしこのクルマが本領を発揮するのは、やはり家族や仲間を連れて遠出するシーンだろう。首都高速に上がり、富士五湖方面を目指す。
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質の高い走りと
充実した先進装備
首都高速の路面のつなぎ目を通過する際は、人間のヒザ関節がショックを吸収するように、エルグランドのサスペンションもきれいに伸び縮みして衝撃を緩和してくれる。この乗り心地のよさも、低重心な設計のたまものだろう。重心が低ければ、足まわりを無理に固めなくてもロール(横傾き)を抑えられるからだ。付け加えれば、横風を受けてもふらふらせずにビシッと直進する走りも、その恩恵のひとつといえる。この日はかなり風の強い日だったので、なおのこと強くそれを実感した。
もうひとつ、富士五湖までの移動で恩恵を感じたのが、充実した予防安全・運転支援機能だ。従来のモデルも、前を走る車両と適切な車間距離を保ちながら追従走行する「インテリジェントクルーズコントロール」を備えるなど、装備は充実していたが、最新のモデルではそれがさらに強化された。
例えば、道路標識を読み取ってメーターパネル内に表示する標識検知機能は、進入禁止に加えて、最高車速や一時停止の標識にも対応するようになった。制限速度がディスプレイに表示されるようになったことで速度オーバーの心配も減るし、初めて行く土地でも、一方通行の道に迷い込んで立ち往生……などという事態の回避に貢献してくれる。
エルグランドに搭載されるようになった機能はほかにもある。2台前を走る車両の動きを検知して、危険を察知すると警報で注意をうながす「インテリジェントFCW(前方衝突予測警報)」や、隣車線の後方を走る車両との接触を避けるようにハンドル操作をアシストする「インテリジェント BSI(後側方衝突防止支援システム)+BSW(後側方車両検知警報)」などだ。
クルーズコントロール自体も進化しているようで、設定した車間距離をキープしたまま滑らかに加減速する。日産のシステムのいいところはインターフェイスがわかりやすいことで、ハンドルを握る右手親指でスイッチを押すシンプルな操作で追従の態勢になる。ハンドルから手を放したり、視線を大きく移動させたりする必要がないのもありがたい。
いずれも、快適に楽しく走るエルグランドというモデルの特徴に安全と安心を加えるもので、これで長距離ドライブがさらに充実したものになるはずだ。
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よりこだわる向きには
「AUTECH」という
選択肢も
運転を交代して、2列目シートを試す。スペース的に広いのは当然ながら、掛け心地のよい余裕あるサイズのシートや大型のオットマンでリラックスすることができた。前述したように先進安全技術が充実しているから、誰がハンドルを握っていても安心だ。例えば家族で自動車旅行に出かけた場合、お父さんが後席でくつろぐ機会が増えるかもしれない。運転席で感じた安定感は後席でも変わらず、走りのよさは後席の居心地のよさにもつながるという新たな発見もあった。
といった具合に、ハンドルを握っても後席に座っても、新しいエルグランドはこのクルマでしか味わえない満足感を提供してくれる。それでもなお、「もう一歩こだわりたい」という方には「エルグランドAUTECH」も用意されている。
これは、過去にさまざまなタイプのカスタムカーを手がけてきたオーテックジャパンが、そのノウハウを生かしてエルグランドの高級感をさらに高めたモデルだ。AUTECHならではのスポーティネスとプレミアム感が融合した、新しいエルグランドのラインナップのなかでも特別な一台となる。
パッと見た瞬間、昼夜を問わずAUTECHだとわかるのは、フロントバンパーでブルーに輝くシグネチャーLEDがその出自を主張するから。ブルーは、オーテックジャパン創業の地である湘南・茅ヶ崎の海と空をイメージしたものだという。シグネチャーLEDに加えて、ダーククロームのフロントグリルや光沢のある専用パーツが、風格のあるエルグランドのたたずまいをさらに堂々としたものにしている。
インテリアに目を移せば、滑らかな手触りと色艶を持つ本革と、厚みのあるキルティングを組み合わせたシートが目を引く。ハンドルやドアトリム、シフトノブなどに施されるブルーのステッチも同様だ。細部にまでおもてなしの趣向が凝らされているあたり、車内というよりラウンジという表現を使いたくなる。
ミニバンとしての高いポテンシャルに加え、ぜいたくな気分に浸ることができるエルグランドAUTECHは、所有することでオーナーのプライドをも満たしてくれるモデルだ。高級ミニバンにさらなる特別感を求める方は、ぜひ一度、実車をチェックしてほしい。
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