1969年に生まれ、後に世界を制したスピードタイマーとダットサン240Z。今回コラボレーションを組むにあたって、セイコーはこれを単なるデザインウオッチには仕立てなかった。同社が目指したのは、かつてのスピードタイマーがそうであったような、実際に使える腕時計だった。
今回、セイコーがコラボレーションとして発表したのは、機械式がクロノグラフと3針、そしてクオーツのソーラークロノグラフがふたつの計4モデルである。同社はダイヤルにブラックやレッドといった強いカラーを採用。加えて針とのコントラストを強めることで、視認性をいっそう高めた。

セイコー プロスペックス スピードタイマー ソーラークロノグラフ ダットサン240Z コラボレーション限定モデル SBDL121(右)/SBDL123(左) こちらはより軽快に使えるソーラークロノグラフ。ドライビングウオッチとしての視認性を高めるため、ダイヤルと針のコントラストはいっそう強調されている。SSケース、ケース径41.4mm、厚さ13mm、クオーツ、日常生活用強化防水(10気圧)。14万3000円(税込/2025年9月上旬発売予定)(右)世界限定4000本(うち国内:1200本)(左)国内限定300本 ※セイコーオンラインストア、和光、セイコードリームスクエア限定モデル。
注目したいのは針の仕立てだ。メカニカルクロノグラフでは60秒を示すクロノグラフ針と30分積算針、12時間積算針が、3針のメカニカルでは秒針に赤い差し色があしらわれた。時間を見やすくするため、計時に関わる針の色を変えるのは時計業界の定石だ。しかし、クロノグラフでさえもファッションアイテムとなった今、こういったお約束に従ったモデルは希(まれ)になった。また、メカニカルクロノグラフのクロノグラフ針は、この価格帯では珍しく、ダイヤル外周の見返しに重ねられている。針の取り付けは難しくなるが、針の先端が見返しに重なるため、斜めからでも時間は読み取りやすい。

今のセイコーらしく、ディテールも凝っている。クロノグラフ針でクルマのスピードを示すタキメーターは、240Zのメーターで使われていたフォントを忠実に再現、メーターに記載された最高速度である「240」が刻まれた。
取り回しの良さも本作の美点だ。これらの4モデルは、ベルトを取り付ける4つの脚(ラグという)が短く切られている。クルマにたとえるなら、これはオーバーハングを短くするようなもの。結果として、細腕の人に合うだけでなく、シャツの袖やドライビンググローブに引っかかりにくい。また、さらに使いやすくするため、りゅうずを含めた外装からは丁寧に角が落とされている。軽快な着け心地は、ドライビングウオッチにもふさわしい。

セイコーの思いを感じさせるのが、裏ぶたのデザインだ。あえてロゴをそろえないのは、240Zファンならニヤリとするはず。また、裏ぶたのフラットなソーラークロノグラフでは、装着感を邪魔しないよう、浅いエッチングで240Zのイラストが描かれた。
また、メカニカルの3針モデルの内転リングには、ラリーのサービスタイムに従って、15分ごとに色が分けられた。「DATSUN」のロゴも面白い。1969年当時、「DATSUN」のロゴは統一されておらず、車種ごとにデザインされていたため、240Zには複数の専用デザインロゴが装着されていたのだ。現代であれば、ロゴは統一されるのが普通であるが、セイコーはあえて、そのバラバラのロゴをそのまま転用したのである。あえて違いを盛り込んだのは、セイコーの240Zに対する敬意の表れだ。
240Zファン好みのディテールを盛り込んだ4つのコラボレーションモデル。しかしいっそう重要なのは、これが実際使えるドライビングウオッチ、ということだ。しかも信頼性の高い「エンジン」に、視認性の高いダイヤル、そして軽快な取り回しというキャラクターも、1969年の240Zに全く同じなのだ。つまりこれは、本当の意味でのコラボレーションモデル、なのである。
(文=広田雅将/写真=岡村昌宏<CROSSOVER>)