



福岡→有田150km
ものづくりの「伝統と革新」を
人間国宝・井上萬二氏に訊く
“用”と“美”を満たす一台
文=今尾直樹/写真=郡大二郎
Text by Naoki Imao /
Photographs by Daijiro Kori
「その時代の名品」であれ
「クルマは見ても、俺わからないよ。好きではある。クルマはよう変えたもんですよ。妻は変えるわけにはいかないけど、クルマは変えても罪にならないし(笑)」
翌朝、有田郊外にある井上萬二窯に「人間国宝」井上萬二さんを訪ねると、井上氏はチャーミングな笑顔でこうおっしゃった。御年87歳のいまも、朝8時から夕方5時まで仕事をしている。庭先に出てXEを眺めると、「あ、これは小さいほうですね、ジャガーでも。これはいくらぐらいするんですか」。車両価格549万円と答えると、「そんなに安いんですか」と驚いた。筆者もあらためて思う。これまでの伝統からすれば、ジャガーは新しいマーケットにチャレンジしているのだ。

井上萬二(いのうえ まんじ)
昭和4年(1929年)佐賀県有田町生まれ。12代酒井田柿右衛門、奥川忠右衛門への師事、佐賀県窯業試験場勤務を通じて、白磁の制作技法を極める。日本伝統工芸展文部大臣賞ほか受賞多数。平成7年、重要無形文化財(人間国宝)に指定。平成9年には紫綬褒章を受章した。現在、日本工芸会参与も務める。
「もうわれわれは常に挑戦、チャレンジです」と語る平成の人間国宝は、「焼き物とは『用の美』」であると断言する。「模倣は意味がない」「創作の原動力は技術、テクニックである」と、おそらくどこの世界にも通じる、歯ぎれのいい名言が次々と出てくる。お話を聞いていて、誠に楽しい。
米寿を前にかくしゃくとしておられるのは「常にクリエイトする心を持っているから」と自己分析する。
「模倣じゃあ進歩性がない。先人たちの技を受け継いで、正しく平成の伝統をつくっていくのがわれわれの仕事です。それがあと50年、100年のちに、あ、これが平成の伝統だ、これが明治だ、これが江戸初期、中期だという、その時代時代の名品と言われるようなものを残すようじゃなきゃだめなんです」

「工芸もクルマと同じ。用と美を兼ね備えてこそ」 人間国宝・井上萬二氏が熱く語る。
「ジャガーも、ずっと同じ形じゃないでしょ。その時代時代の美というものがある。ジャガーはスタイルがいい。でも、スタイルばっかりで、乗り心地が悪かったら、よくない。われわれの焼き物、工芸というのは、用と美を足したものが工芸なんです。クルマと同じなんです」

1616年の創業から400年の節目を迎える焼き物の里・有田を、“伝統と革新”のセダン「ジャガーXE」が駆け抜ける。
福岡までの帰路、山道を求めて寄り道をした。福岡空港でXEのキーを返却する時、いささか惜別の情がわいた。ジャガーXEは単なる工業製品ではなかった。分析的な言説だけではとらえきれない。“ジャガロス”に陥るような何かを持っている。そして、私はようやく井上氏の言葉にハタと思い至った。ジャガーこそ「工芸品」であることに。そうあることこそ、ジャギュアのよき伝統である……モダンなデザインになっても、そこは変わっていない。

井上萬二(いのうえ まんじ)
昭和4年(1929年)佐賀県有田町生まれ。12代酒井田柿右衛門、奥川忠右衛門への師事、佐賀県窯業試験場勤務を通じて、白磁の制作技法を極める。日本伝統工芸展文部大臣賞ほか受賞多数。平成7年、重要無形文化財(人間国宝)に指定。平成9年には紫綬褒章を受章した。現在、日本工芸会参与も務める。

「工芸もクルマと同じ。用と美を兼ね備えてこそ」 人間国宝・井上萬二氏が熱く語る。

1616年の創業から400年の節目を迎える焼き物の里・有田を、“伝統と革新”のセダン「ジャガーXE」が駆け抜ける。