いまここにある未来 いよいよ日本の道を走りだした「ジャガーI-PACE」。伝統のブランドが開発した“エレクトリック・パフォーマンスSUV”の乗り味とはどのようなものなのか。

いよいよ日本の道を走りだした「ジャガーI-PACE」。伝統のブランドが開発した“エレクトリック・パフォーマンスSUV”の乗り味とはどのようなものなのか。

新感覚のジャガー

ボディーと面一になっているドアノブの小さなスイッチに手を触れると、4枚全部のドアノブが音もなく外に飛び出てきた。同時に、閉じていたドアミラーが音もなく開いた。すべて電気仕掛けのジャガーが目を覚ました。ドアを開けると、サイドシルのJAGUARの文字がLEDライトの薄いブルーの光で輝いている。

1935年創業の、およそ80年の歴史を持つコベントリーの名門スポーツカーブランド初のフルバッテリーEVは、「E-TYPE」のようなスポーツカーでもなければ、「XJ」のような4ドアサルーンでもない、過去、私たちが市販車としては見たことのないSUVのコンセプトカーとして2016年のロサンゼルスオートショーでその姿を現した。私たちは、これが未来のジャガーか、と思ったものだけれど、その未来が早くもいま、ここにある。

全長4695mmに対してホイールベースは2990mmある。前後オーバーハングの短い、まるでミドシップのようにも見える特異なプロポーションである。例えば、エンジンを縦置きする「F-PACE」は全長4740mmでホイールベースは2875mm。前後タイヤの距離が長いほど居住空間は広くなる。実際、I-PACEの後席はショーファードリブンもかくやのレッグルームを持っている。

ギアボックスをおさめるセンタートンネルが不要のため、前席の横空間はゆったりしている。でありながら、ドライバーズシートは、視点こそやや高めだけれど、ドライビングポジションはまぎれもなくスポーツカーのそれだ。シートの座面がフロアに対して低めの位置にあるから、足をやや投げ出し気味に座る。おかげでヘッドルームに余裕があるし、フロントガラスは寝ているけれど、圧迫感はない。眼前のメーターを映し出す12.3インチと中央の2つのコントロールパネル、10インチと5インチの液晶ディスプレイによるものか、いやそれだけでなく、どことなく精密機器を扱うクリーンルームにでもいるような心持ちになるのは、このクルマが電気自動車であるという先入観によるものだけではあるまい。

最新のエレクトリックテクノロジーを用いて開発された「I-PACE」。そのデザインにはジャガーのDNAが継承されている。

上質なレザーで仕立てられた室内。多くの液晶画面が配されたコックピット周辺からは、先進感がただよう。

ジャガー初のピュアEV「I-PACE」は、欧州カー・オブ・ザ・イヤーをはじめとするさまざまな賞を獲得している。

静寂に包まれて走る

センターコンソールのスタートボタンを押す。電子音はするけれど、それ以外の音は発しない。電気自動車だから、当然といえば当然だ。アクセルペダルを踏み込むと、モーター、あるいはギア、もしくは両方の音をごくわずかに発しながらスルスルと走り始める。

ステアリングは重めで、乗り心地は迷いがなく硬い。そこは最近のジャガーのセダン系にもSUV系にも共通するスポーツカーテイストである。大いに異なるのは、動力機関が前輪と後輪、それぞれを駆動する2つのモーターであることだ。

品川にある瀟洒(しょうしゃ)なビルの地下駐車場を抜け出し、首都高速2号目黒線の荏原入口から上がり、環状線を経て3号線を用賀方面へと走る。ガラスとスチール製のIT時代のシンボルである六本木ヒルズを左手に、やがて再開発中の渋谷のガラスウオールに覆われた高層ビルを眺める。21世紀、平成最後の春を未来のジャガーで走っている。

SUVながら風切り音が控えめなのは、エアロダイナミクスを大いに意識したエクステリアデザインのなせるわざだろう。ロードノイズも低めで、音楽ファンであれば、最上のリスニングルームとなるに違いない。そのとき、フロントスクリーンはまさに映画のスクリーンになる。

10インチのタッチスクリーンで「アクティブ・サウンド・デザイン」によるモーターサウンドを楽しむのも一興だ。アクセルペダルの踏み込み量によって室内に低音の疑似エンジン音が控えめに響きわたる。12気筒とか直6とかの内燃機関を模したものではない。モーターとかギアのうなりを思わせる。しかしそれは湿り気を帯びておらず、乾いている。そしてドライバーに高揚感をもたらす。

「I-PACE」の駆動方式は4WD。フロントとリアに搭載されるパワフルなモーターが、力強い走りを実現する。

12.3インチの液晶メーター。表示される情報の種類やグラフィックデザインは、ドライバーの好みに合わせて変更できる。

走行時の静粛性の高さはEV「I-PACE」の特長のひとつ。モードを選択すれば、バーチャルな走行音を積極的に楽しむことも可能だ。

常識を覆す力強さ

加速は問答無用だ。とりわけ、ドライビングモードをコンフォートからチェッカードフラッグがついたスイッチを押して、ダイナミックに切り替えると、いきなりカタパルトから発射される。ドン。という音がするわけではない。単に加速する。背中がシートに押し付けられる。前後輪を駆動する車軸それぞれと一体化したそれぞれの前後モーターは、2つで最高出力400psと最大トルク696Nmを発生する。とりわけトルクはジャガーのピュアスポーツカー「F-TYPE R COUPÉ」の5リッターV8スーパーチャージドの680Nmを上回る。ご存じのように、電気モーターは最大トルクをいきなり生み出すことができる。助走区間を経てジャンプする、という内燃機関の常識は通用しない。

前後重量配分はハンドリングの理想とされる50:50を実現している。おまけにフロアにリチウムイオンバッテリーのセルが432個、敷き詰めてある。SUVでありながら、低重心にして、F-TYPE譲りのフロントのダブルウイッシュボーン式サスペンションと、F-PACEのリア用を改良したインテグラルリンク式サスペンションが大地をつかむ。

首都高速程度のRならスパイダーマンがビルに張り付くがごとくコーナリングする。その際、ロールはほとんどしない。I-PACEはこれまで低い着座位置でしかできなかった体験を、見晴らしのよい高めのスポーツカーポジションで味わわせてくれる。

オプションのアクティブエアサスペンションを装備する試乗車の場合、高速巡航時には自動的に車高が10mm低くなって、空力性能と航続距離を向上させる。エアサスといっても、サルーン系のそれのユルさとは無縁で、乗り心地はあくまでピシッとしている。タイヤ&ホイールは20インチと巨大だけれど、ボディー剛性は異例に高い。フロアにバッテリーを敷き詰めていることが剛性面にも効いている。

最大トルク400Nmを発生する「ジャガーI-PACE」。0-100km/hの加速タイムは高性能スポーツカー並みの4.8秒を記録する。

足まわりやステアリングの設定は個別に調節可能。アクセルオフ時に利く、回生ブレーキの強さも変更できる。

車体の前後重量配分は、俊敏かつ正確なドライビングを可能とするのに理想的な50:50となっている。

生まれ変わった気持ちになれる

I-PACEはジャガーにとってE-TYPE以来の革新的スポーツカーである。単にジャガーにとって革新的だったわけではないことは、ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー2018-2019をはじめとする数々の賞に輝いたことからもうかがえる。EVであることを積極的に利して、ミドシッププロポーションのロー&ワイドな新しいパッケージングをSUVで実現したこともそのひとつである。大人5人と荷物が積める収納能力を持ちながら、ジャガーの名前にふさわしい第1級のパフォーマンスでドライバーを時に興奮させ、そのうえ全輪駆動だから道路環境に対して高い適応力を備えている。静かで、EVと相性のよい最新鋭の運転支援システムが与えられてもいる。

EVだから、走行中に排ガスを一切出さないこともまた大いなる美点だ。

用賀から第三京浜を経て横浜ベイブリッジに至った私は、92.7km走行して、まだ267km走れることを知った。出発時、満充電で450kmの航続距離を車載コンピューターは示していた。航続距離は当然、走り方によって変わる。それでも残り267kmも走行可能なエネルギーがある。

I-PACEは新しい体験である。現代のスポーツカー乗りにとってすばらしいことに、いくら加速しても罪悪感がない。運転するほどに、その新鮮なドライビング感覚に洗われ、自分が生まれ変わったような心持ちがする。

もうちょっと走ろう。そう思った私は東京湾アクアラインを渡り、木更津側の金田海岸に行った。東京湾の空は青く晴れわたり、未来もいいものじゃん、と私は思った。

(文=今尾直樹/写真=郡大二郎)

専用アーキテクチャーにより、ジャガー史上最高のボディー剛性を実現した「I-PACE」。上質な走りを約束する。

個性的なデザインのセンターコンソールにはシフトセレクターや走行モードの選択ボタン、空調のスイッチなどが並ぶ。

アンダーボディーを完全にフラット化するなど、「I-PACE」ではエアロダイナミクスも徹底追求されている。