THE NEW RANGE ROVER EVOQUE
Chapter 1-1
自動車好きのイデア
レンジローバー イヴォークは、史上最もスタイリッシュなSUVとして記録に残るだろう。市場を意識した自動車のデザインは、時を経るにつれて陳腐なものになることがある。しかしイヴォークは輝きを失っていない。
デザインとよく言うけれど、その本質ってなんだろう。答えるのはかなりむずかしい。ひとことで言うと、ビックリだろうか。なにしろスタイリッシュなイヴォークが2010年に発表されたとき、私(たち)はビックリした。

初代レンジローバー イヴォークは2010年7月1日、レンジローバーブランドの誕生40年を祝う英国のイベントで世界初公開された。
ビックリしたのは、「いままで見たことない」から「SUVなのにこんなデザインのアプローチってありうるんだ」にいたるまで、さまざまな理由があった。
アウディTT(1998年)やクーペ・フィアット(93年)やBMW Z8(2000年)と同じか、それ以上のインパクトがあるよね」。自動車ジャーナリストの仲間と、近年の自動車デザイン史に残りそうなモデル名を挙げつつ、そう評したのをおぼえている。

前傾したショルダーラインや薄いガラスエリアなど、SUVでありながらもクーペを思わせるデザインは、世界中に衝撃を与えた。
美術史家ではないので間違っていたら謝りますが、デザインの概念はプラトン(紀元前427年~紀元前347年)にさかのぼるといわれている。そこまでさかのぼって評してもいいぐらい、イヴォークのデザインには感動的なものがあったのだ。
♪ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか、とコマーシャルにも出てきたギリシアの哲人プラトンは、永遠不変のイデアという理想的な範型が(世界のどこかに)存在すると説いていた。ルネサンス期のミケランジェロをはじめ、西欧の芸術家の仕事はイデアを具体的なかたちにすることともいわれる。

シンプルでありながらも洗練されたデザインのインストゥルメントパネルまわり。そのデザインの完成度は今も色あせていない。
イヴォークは美しい。自動車好きのイデアをかたちにしたもののようにも思えるほどだ。イヴォークは、しかし、絵画でも彫刻でもない。イヴォークをして「車輪の上のアート」としたのは、ランドローバーのデザインを統括する英国人ジェリー・マクガバン氏だ。まさにそのとおりだと思う。速く泳ぐ魚類には“頭”が大きく、後ろにいくにしたがってすっとすぼまった美を持つものがある。イヴォークはそれを連想させるのだ。
後方にいくにしたがって下がっているルーフラインと、対照的に上に上がっていくキャラクターラインを持ち、逆ウエッジシェイプを強調したプロファイル(サイドビュー)が他に類のないデザインである。流体力学と生物形態学を応用したようなスタイルは機能美の極地ではないか。

テールゲートに装着された「EVOQUE」のバッジ。
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初代レンジローバー イヴォークは2010年7月1日、レンジローバーブランドの誕生40年を祝う英国のイベントで世界初公開された。
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前傾したショルダーラインや薄いガラスエリアなど、SUVでありながらもクーペを思わせるデザインは、世界中に衝撃を与えた。
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シンプルでありながらも洗練されたデザインのインストゥルメントパネルまわり。そのデザインの完成度は今も色あせていない。
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テールゲートに装着された「EVOQUE」のバッジ。