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TOYOTA
“GT”を極めた男が魅せられたクロスオーバーSUV “GT”を極めた男が魅せられたクロスオーバーSUV

全日本GT選手権やSUPER GTでの活躍により、「ミスターGT」の異名を持つレーシングドライバー脇阪寿一が、「トヨタC-HR」をドライブ。かっこいいクルマに乗るうれしさ、そしてクルマとの強固な信頼関係が可能にするスポーティーな走りについて話を聞いた。

語り=脇阪寿一/まとめ=鈴木真人/写真=荒川正幸

かっこいいのに扱いやすい

「天気がよくて、ドライブしていて気持ちがいいですね。富士山がきれいに見えて、爽快な気分です」

箱根の山道を走っていて、脇阪寿一さんはむやみにスピードを出したりタイヤをきしませながらコーナーを攻めたりはしない。無駄な加減速をしないで、スムーズにC-HRを走らせる。

「こういうワインディングロードを走る楽しみは、最近になってわかってきたんですよ。若い頃は勝ち負けだけを考えていて、クルマは道具でしたから」

1990年代からフォーミュラ・ニッポンや全日本GT選手権、SUPER GTといったトップカテゴリーのレースで活躍してきた脇阪さんは、サーキットでは何よりも速さを求めてきた。しかし、今は楽しいからクルマに乗っていると話す。

「クルマを走らせるというのは、自分を表現することだと思うんです。運転の基本はどこを走るときでも同じ。クルマがどういうふうに動きたがっているのかを感じて上手に走らせることが大切です」

速さだけでなく、運転のフィールやデザインも重要な要素だ。脇阪さんは、C-HRが発売された当初から「これは売れる!」と確信を持っていた。

「見てくれはとんがっていて、ぶっ飛んだ形ですよね。でも、運転しやすいし走りは落ち着いている。走りまでぶっ飛んでいたら乗りたくないでしょう。街にSUVが増えているから、その中でカッコいいものに乗りたい。そういう欲求をかなえつつ、扱いやすくて乗りこなすのに特別なスキルがいらないクルマだから売れるんだと思います」

C-HRは現行の「プリウス」に続いてTNGA(Toyota New Global Architecture)に基づいたGA-Cプラットフォームを採用。スポーティーなSUVを求めるヨーロッパにプロトタイプを持ち込み、公道で徹底的にテストした。ドイツ・ニュルブルクリンクも走ったという。

  • 脇阪寿一(わきさか じゅいち)

    フォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)での優勝回数5回、全日本GT選手権(現SUPER GT)での優勝回数11回などの実績を誇る、レーシングドライバー。特にSUPER GTではシリーズチャンピオンを3度獲得しており、その実績と人気から“ミスターGT”と称される。現在はLEXUS TEAM LeMans WAKO’Sのチーム監督としてSUPER GT GT500クラスに参戦するほか、TOYOTA GAZOO Racingのアンバサダーも務める。1972年、奈良県生まれ。

  • トヨタC-HR G-T(オプション装着車)

    ボディーカラー:ラディアントグリーンメタリック
    ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1795×1565mm
    エンジン:1.2リッター直4直噴ターボ
    駆動方式:4WD 乗車定員:5人

  • 今回、脇阪さんがドライブしたのは、1.2リッター直4直噴エンジンを搭載した「トヨタC-HR G-T」。駆動方式は4WDとなる。

スタイルに力強さがある

C-HRのエクステリアは、「セクシーダイヤモンド」をキーワードにしてデザインされている。幾何学立体とシャープでフラットな立体とを組み合わせることで、オリジナリティーのある造形を実現した。

「ゴツゴツしたフォルムがちょっとガンダムっぽいですよね。エアロパーツを付けると映えると思いますよ。スタイルに力強さがあるから、こういう派手な色も似合います。ソリッドなイエローも僕は好きですね。白やシルバーでも地味にはならないでしょう」

C-HRで初採用された「ラディアントグリーンメタリック」のボディーカラーが、試乗車に深い陰影を作り出して立体のコントラストを強調している。鮮やかな色彩が陽光に映え、富士山を背景に走る姿が美しい。

休憩している時に、脇阪さんの運転するクルマを、別のクルマで追走してきたスタッフが声をかけた。前のクルマと一定の間隔を保って走っていてもブレーキランプがめったにともらないのは、シフト操作でスピードをコントロールしているのかと質問したのだ。脇阪さんの答えは予想外のもの。ブレーキを多用しないだけでなく、シフト操作による減速もあまりしないという。

「まわりの状況をよく見極めて走れば、急加速も急減速もしなくていいんです。自分の前を走るクルマだけでなく、何台も先のクルマの動きを見ていることが大切ですね。そうすれば、次の瞬間にどういう状況が生まれるかを予測することができる。自分が減速することを後ろのクルマに知らせたい時はあえてブレーキを踏みますよ。運転の仕方でまわりのクルマをコントロールすることができるという感覚です。レースでも、それが僕の武器でしたね」

普通に走っているように見えて、脇阪さんはまわりの交通状況を把握するために頭をフル回転させていたのだ。

  • 大きく張り出した前後フェンダーと、ボディーの絞り込まれた部分との対比が印象的だ。

  • TNGAの第2号車として発売された「C-HR」。プラットフォームは現行「プリウス」と共有しながらも、ヨーロッパの一般道などで徹底的にテストすることで、その走りにはC-HRならではの味付けが施されている。

  • 今回の「C-HR」のボディーカラーは「ラディアントグリーンメタリック」。「スタイルに力強さがあるから、こういう派手な色も似合うね」と脇阪さんもご満悦。

運転に必要なのは確率論と分析

撮影の合間に、脇阪さんにC-HRの助手席に乗ってもらい、運転のレッスンをしていただくことに。1つ目のコーナーで、早速問題点を指摘されてしまった。

「コーナーの曲率を見誤りましたね。だからオーバースピードになってしまう。アウト側を見ながらコーナーに進入したほうがいい。そうすれば、より遠くを見通せます。だから一発でステアリングを切り込む角度が決まり、無駄な動きがなくなります。イン側を見ているとステアリングを切り込みすぎて、修正が必要になってしまいます」

言葉はていねいだが、指摘は的確で手厳しい。1回の動作でスムーズにクルマをコントロールすることが大切だと、何度も注意された。

「クルマの挙動は手のひらと足の裏、そして腰から背中で感じます。それで状況を判断し、あとはスピードを落とすところと加速するところのタイミングを合わせればいい」

ワインディングロードだけでなく、市街地を走る時も心構えは同じだという。常にまわりに神経を行き渡らせ、次にどんな状況になるのか予測することが肝要なのだ。

「運転というのは、確率論と分析なんです。走っていく先のほうを見ていれば、前のクルマの動きが見えるでしょう。地形を観察していれば、道が右に曲がるのか左に曲がるのかも事前にわかります。前のほうのクルマが見えなくても、例えばガードレールに映る赤い色で判断できることも。うっすら赤くなっているのはテールランプで、それが濃くなったら前にいるクルマがブレーキを踏んだということなんです」

フロントウィンドウから見える光景から、脇阪さんは驚くほど多くの兆候を感じ取っているのだ。

  • 急きょ始まった“脇阪ドライビングスクール”で指導を受けることに。言葉はていねいな脇阪さんだが、そのアドバイスは的確かつ手厳しい。

  • 都内を出発したドライブは、箱根から伊豆スカイラインを経由して静岡県伊東市にまで。特徴的な造形がランドマークになっている伊東市役所にて。

  • インテリアのいたるところにダイヤモンドパターンが配されている。脇阪さんもシートに施された立体的なダイヤモンドステッチを触って確認。

運転していて疲れない

脇阪さんはクルマのイベントなどで、訪れた人に運転のコツをアドバイスしている。交通事故を減らしたいという切実な思いがあるからだ。

「事故を起こせば自分だけの問題では済みません。他人の人生にも影響を与えてしまうことになります。運転の上手な人が増えれば、確実に世の中はよくなる。僕にはレースをやってきたことで培った、クルマを安全かつスピーディーに走らせる能力があります。それを伝えるために、モータースポーツをもっとメジャーにすることが大切だと思っているんです」

テレビのバラエティー番組に出演するのも、モータースポーツを盛り上げることが目的なのだ。知名度が上がれば安全な運転の方法を伝授する機会も増える。

「運転が下手な人を見ていると、どう走りたいのかが見えません。運転はクルマとのコミュニケーションなんですよ。対人関係と同じことで、自己本位ではダメなんです」

ドライバーが心地よく安全に運転できるのは、クルマの作りがいいことが前提になる。脇阪さんは、C-HRに太鼓判を押した。

「ハンドル、ブレーキ、アクセルに安定感があって、すべてにわたって一貫した思想が貫かれている。だから疲れないし、運転していて気持ちがいいんですね。スポーティーなんですが、ドライバーに優しい作りになっています。レースでも、やたらにピーキーなものよりも、乗りやすく仕立てたマシンのほうがいい成績を残せますから」

C-HRのボンネットを開けてエンジンルームを見ると、脇阪さんは驚いた顔を見せた。

「結構スカスカで隙間がある……。これって1.2リッターターボなんですか! こんな小さいエンジンでも、動力性能は十分ですね」

百戦錬磨の脇阪さんが感嘆の声を上げるほど、C-HRは目覚ましい走りを見せたのだ。

  • 交通事故を減らしたいという切実な思いを抱く脇阪さん。「C-HR」は、衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備されている。

  • リアコンビランプユニットは、点灯時に宙に浮いているように見えるデザインとなっている。

  • エンジンルームを開けるまで、パワーユニットが1.2リッターのダウンサイジングターボエンジンであることに気が付かなかったという脇阪さん。「動力性能は十分ですね」