
そのようなキャデラックの歴史をバックボーンとし、さらに99年から始まったキャデラック・ルネッサンスの流れをくんで、その上に現代のキャデラック各モデルは成り立っている。「SRX クロスオーバー」も「CTS クーペ」も「エスカレード」も、過去の資産を根底に育みつつ、未来に向けた大胆な挑戦姿勢を積極的に打ち出し、他のクルマでは絶対に見いだせない独自の魅力と価値を顧客に贈ろうとしている。
エボーク以降、さまざまなショーカーで試みられたデザイン感覚、つまりステルス戦闘機や最新の建築とも共通する21世紀アートというべき先端的で個性あふれる造形は、今や各市販モデルの中で見事に生かされ、それが世界中のファンを魅了する。一方で、戦前からV16エンジンを市販し、数々の最新技術を先駆けて実用化していきたブランドの神話を守るべく、この市販モデルも最先端のテクノロジーを満載する。中でも最新のキャデラックが重視しているのは優れた運動性能で、旧世代のアメリカ車とはまったく異質な、ヨーロッパの高性能車をも凌駕(りょうが)するような優れたハンドリングやダイナミック性能を誇る。まさに「アート&サイエンス」の実現である。
「CTS」シリーズにはこの「CTS クーペ」のほか、「CTS スポーツセダン」と「CTS スポーツワゴン」が設定される。また564psの6.2リッターV8を搭載する高性能モデル「CTS-V」が用意される。
それでいて大きなエスカレードも、SRX クロスオーバーも、そしてハイテクスポーツ・イメージのCTS クーペも、昔ながらのキャデラックが大切にしてきた豊穣(ほうじょう)で落ち着いた雰囲気、おおらかで人を心からリラックスさせるような乗り味を、決して忘れてはいない。そこもキャデラックの個性的な魅力だろう。
そういえば世界有数の富豪にして、賢人と呼ばれるアメリカの実業家、ウォーレン・バフェットもキャデラックの愛好家だと聞いた。天才的な投資感覚で莫大(ばくだい)な富を得ながら、その大半を慈善事業に寄付し、自らは敬虔(けいけん)で質素な生活を貫き通しているバフェットは、一体何が一番価値あるクルマなのかを、ちゃんと分かっていると思った。
2012年5月、フルサイズSUV「エスカレード」のGMジャパンによる正式輸入・販売が始まった。標準型のほか、装備が充実した上級グレード「プラチナム」が設定される。