どんな場面でもドライバーを高揚させる
ならば、ものすごく速いクルマなのかといえば、170psに250Nmという数値からも想像できるとおり“ものすごい!”というほどではなく、「街やワインディングロードで持て余して困る」ということはない。けれど、望んだスピードがすぐに得られる程度の、じれったさを少しも感じさせない程度の速さはある。サーキットでは「(エンジンが)もう少し上まで回ってくれたら、もっといいのに……」と感じる場面もあったが、それでもあらゆる回転域で有効なパワーとトルクを得られる柔軟性とたくましさがあるから、パフォーマンスを引き出しやすかった。何より、どこをどんな風に走っていても気分が高揚する楽しさがある。それこそが最も重要だ。
足まわりはちょっとばかり路面の凹凸を拾う引き締まった感触だが、高速道路に入って速度域が高まるとフラット気味な乗り味へと移行していき、シートの出来栄えもいいからロングドライブも全く苦にならない。GTカーとしてもなかなか優秀なのだ。
積極的にコーナリングを楽しめる
とはいえ、124スパイダーはやっぱり曲がることの方が楽しいクルマなのだ。ベースになったロードスターも、しなやかにロールして素直に旋回し、爽快にコーナーを抜けることができる、曲がるのが楽しいクルマである。アバルト124スパイダーはもう一段足まわりが引き締まっていて、ロールもその分少ないのだが、素直に曲がっていけるのは一緒。しかも締まっている分だけ操作に素早く反応し、コーナリングスピードそのものも高くなっている印象だ。
ロードスターには、車体が前後左右に動く感覚と、サスペンションが伸び縮みする感覚から、クルマを操るダイナミズムを味わうようなところがあるけれど、124スパイダーは、むしろコーナリング中にパワーを積極的に後輪に与え、リアをわずかに滑らせつつカウンターステアを当てながらアウト側に抜けていこうとするみたいな、クルマ全体の動きを自分自身の手で積極的にコントロールしていくダイナミズムを楽しみたくなるようなところがある。
ドライブモードセレクターの操作スイッチ。「SPORT」モードを選ぶと、スロットルやパワーステアリングに加え、横滑り防止装置の制御も切り替わり、より豪快なドライビングを楽しめるようになる。
シャシーの設定は後輪のトラクションを最大限に引き出すことを追求したもの。サスペンションにはビルシュタイン製のダンパーや径の太いアンチロールバーなどが装備される。
タイヤサイズは前後ともに205/45R17。ダークカラーのホイールのすき間には、標準装備となるブレンボ製ブレーキシステムの赤いアルミニウム製4ピストン対向キャリパーがのぞく。