これこそがオープンカーの醍醐味
富士北麓のとある小道を、幌(ほろ)だけでなくサイドウィンドウも下げ、木漏れ日を浴び風と戯れながら走る。車内に流れているのはダイアナ・クラールの最新アルバム『ターン・アップ・ザ・クワイエット』。心地よいエキゾーストノートはバリトンの歌声のようで、右足のつま先の力加減により、低く高く生き物のような鼓動を繰り返し、まるでミュージシャンの一員として演奏に参加するかのように朗々とうたいつづける。
山中湖を過ぎて道志みちのワインディングロードに入ると、風や日差しに秋の気配が一段と濃厚になるが、山々の緑はまだ色づき始めていない。「オープンカーって、いいなぁ!」と独りごちながら、初秋の一日、「アバルト124スパイダー」との逢瀬(おうせ)を存分に楽しんだ。
その美しさにため息がもれる
この日、わがものとなった124スパイダーは、ただの124スパイダーではない。60年代から70年代にかけて、チューニングフリーク憧れのパーツだった、マルミッタアバルト(=アバルトマフラー)の現代版たるスペシャルエキゾーストシステム「レコルドモンツァ」を装着したクルマだ(輸入元は「レコードモンツァ」と表記するが、わたしは慣れ親しんだレコルドモンツァと書くことにする)。
昨年8月、124スパイダーが日本で初めてお披露目されたとき、発表会会場でクルマの傍らに置かれていたレコルドモンツァの美しさにはため息がでた。フィアット車用のチューニングパーツ開発を設立当初から手がけてきたアバルト社の伝統にのっとり、動力性能の向上はもとより、官能性にも意を尽くしていることが外観からも伝わってきて、フィアットのこのクルマにかける「本気」に感銘を受けたものだ。
富士北麓の林の中を行く124スパイダー。著者いわく、木々に囲まれたこうした道こそが、クルマのエキゾーストノートを最も心地よく楽しめるシチュエーションなのだとか。
試乗車に装備されていたオプションのレザーシート。標準仕様はアルカンターラとレザーのコンビタイプとなる。いずれも形状はスポーティーなヘッドレスト一体型で、適度なホールド性と快適な乗り心地を両立している。
フィアットグループにとって久々のFRスポーツモデルとなったアバルト124スパイダー。日本では2016年8月に、自動車イベント「オートモビル カウンシル」において発表された。