CHAPTER 1.

インジニウムディーゼルを搭載するF-PACEの実力を知る

これはジャガーだと思う

文=高平高輝/写真=小林俊樹

「ビューティフル・ファスト・カー」

車のデザインについてデザイナーに質問してもたまにまったく話が盛り上がらない時がある。そんな場合はだいたいデザイナーが本音を語ってくれず、建前論に終始する時か、あるいは説明してくれる言葉の意味がこちらに正しく伝わらないような時だ。たとえば、「エレガント」という言葉ひとつ取っても、受け取る人によってその理解は同じではない。何がエレガントで何をもってスポーティーとするのか。言葉の持つ意味を突き詰めることができなければ、たとえ作り手側にいる人間同士でも共通認識を持つことは難しい。ダイナミックだとかスポーティーだとか、今や当たり前の言葉を通り一遍に説明してくれても、他人の胸に刻まれるような話にはなりにくい。
「F-PACE」のデザインは、シンプルさと力強さ、躍動感、エレガントさを兼ね備える。

車のデザインなんて結局はそれぞれの好き嫌いだ、と半ば達観したように言う人もいるが、私はそれにはくみしたくない。もちろん、人それぞれの趣味はあるだろうし、万人に気に入られるデザインもありえないとは思うが、好みの問題と片づけてしまっては、日々苦心している作り手たちの立つ瀬がない。デザインは、とりわけパッケージングを含めた本当の意味でのデザインとは作り手の思想や哲学の表明であり、自分たちの信じるものを形にする地道な作業である。トレンドを取り入れて、その場その場で売れる商品となることだけを考えたり、奇抜なヘッドライトやグリルで人目を引く手法とは次元が違うものだと思う。
スポーティーとエレガントが同居する室内。

もちろん、決まり切った単語ではなく、自分の言葉で伝えようとしてくれるデザイナーも当然いる。その代表格がもう長いことジャガーのデザインディレクターを務めているイアン・カラムだ。彼の話はいつも大変興味深く、長く心に残るものだ。ずいぶん前のことだが、ジャガーらしさについて尋ねた時に「走り過ぎる時に振り返って見てもらえる車」を目指していると語ってくれたことをよく覚えている。迷った時にチームの皆が立ち返るジャガーの家訓、スローガンは「ビューティフル・ファスト・カー」、できるだけ簡潔な言葉の意味を皆で深く考察することが重要だという。
8段ATは、滑らかで効率的、かつ鋭いレスポンスを誇るのが自慢。

そんな彼らが作り上げたSUVが「F-PACE」である。これまでセダンとスポーツカーだけを生み出してきた名門ブランドが手がけた初のSUVだが、どう見てもいかつく、力強いだけのSUVではない。奇をてらわない簡潔なボディーのラインは一見地味にさえ感じるほどだが、見ているうちに難しい仕事を巧みに成し遂げたことが伝わってくる。“てらう”とは見せびらかす、誇示するということだが、人目を引くため、斬新さを演出するための奇策を用いることなく、正攻法でジャガーにふさわしいエレガンスとスポーティーさを与えることに成功しているのではないかと思う。
エクステリアデザインは、スポーツカーの「F-TYPE」にインスパイアされている。

「F-PACE」のデザインは、シンプルさと力強さ、躍動感、エレガントさを兼ね備える。
スポーティーとエレガントが同居する室内。
8段ATは、滑らかで効率的、かつ鋭いレスポンスを誇るのが自慢。
エクステリアデザインは、スポーツカーの「F-TYPE」にインスパイアされている。