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第191回:「iQ」のアストン版、「シグネット」を発見! 世界一売れそう(?)な国で聞いてみた

2011.04.30 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第191回:「iQ」のアストン版、「シグネット」を発見!世界一売れそう(?)な国で聞いてみた

ついに遭遇! その価格は?

「アストン・マーティン シグネット」といえば、「トヨタiQ」をベースにした高級シティコミューターとして、2010年のジュネーブショーで公開されて話題になった。

その後各地のモーターショーでたびたび参考出品されているのは確認した。だが、いったい、これからどうなるのだろうか。一瞬ボクの脳裏には、長く話題にされながら、結局発売されず消えてしまった「日産MID-4」がよぎった。

そんななか先日、モナコのモンテカルロに赴く機会があった。クルマで国境を越えた途端、いきなりロールス・ロイスやフェラーリ級が平然と路上駐車しているようになる。直前までいたフランスのマントンには、陽光で退色し、捨ててあるのか現役なのかわからないような「ルノー4」がいたのに、である。
通行人はみんな上品で話し声も静かだ。ボクのデカ声とイタリア語なまりのフランス語が妙に小っ恥ずかしく映る。

そのモンテカルロのあるイベント会場でのことだ。「シグネット」が他のアストンとともに展示されているではないか! もはや一般の人もドア開け放題、お触りし放題である。脇には価格表もあって、「3万8250ユーロ(約459万円)から」と記されている。
参考までに「iQ」の1.3リッター6段マニュアルは1万5400ユーロ(約186万円/フランス価格)だから、ベース車両の2.5台分近い値段ということになる。シグネットのエンジンは1.3リッターのみだ。iQのカタログにある1リッターは設定されていない。

2010年3月、ジュネーブモーターショーで公開されたときの「アストン・マーティン シグネット」。
2010年3月、ジュネーブモーターショーで公開されたときの「アストン・マーティン シグネット」。 拡大

「シグネット」が最適な街

展示車はオプション付きで、4万2440ユーロ(約510万円)の仕様だった。ドアを開けた途端、レザーのよい香りが漂った。脇にいた人が渡してくれた名刺を見ると、「ブリティッシュ・モータース」というアストンのモナコ代理店の名前が。彼はセールススタッフで、展示も彼らによるものだったのだ。
モーターショーでアストン・マーティン本社の人に話を聞く機会は何度かあったが、考えてみるとアストンのセールスと話すのは世界で初めてである。こちらは冷やかしのお客だけに、妙に緊張する。そんな情けないボクにも、ニコラさんというその販売員は、丁寧に対応してくれた。

「シグネットは、いよいよ(2011年)5月から納車開始です」
ボクは「どのようなユーザーが、どのような用途で注文していますか?」と聞いてみた。すると、

「モンテカルロの街は、ご覧のとおり駐車スペースが限られています。ファーストカーとして4×4やスポーツカーを所有しているご家庭でも、お子さんの学校の送り迎えなどには、こうした小さなクルマが最適なのです」という答えが返ってきた。

そして彼はこう続けた。
「ですからモンテカルロの街には、意外に『スマート・フォーツー』が多いですね」
実際、シグネットをオーダーした人たちが下取りに出すのは、「スマート」や「MINI」といったクルマらしい。

ところでシグネットもiQ同様、欧州で人気のディーゼル仕様がないが、心配はないようだ。「燃費を気にする人なんぞ、アストンオーナーやモナコ在住者にはいない」という声も聞こえてくるが、もっと説得力ある理由を後日、同じモナコのスマート販売店で聞いた。

彼らによると、モナコを走るスマート・フォーツーはもっぱら「街の足」で、ディーゼルの本領が発揮される遠出に使われることはない。したがって新車価格が高く、静粛性でも劣るディーゼル仕様をわざわざ買うメリットは見出せないというのだ。実際モナコで売れるスマートのほとんどは、ガソリン仕様という。こうしたスマートユーザーのディーゼル不要志向は、そのままシグネットにも当てはまるだろう。

ついでいうと、これもスマートディーラーで聞いた話だが、モナコで販売される自動車の95%は、オートマチック(AT)なのだそうだ。背景には高級車が多いことがあろうが、それにしても、ようやくAT普及率が10パーセントに届くかどうかという国が多い欧州諸国(例:イタリアの2009年新車登録におけるAT率は9.33%)のなかでは、異例のパーセンテージである。したがって、シグネットも今回の展示車こそ6段マニュアルだが、ATが中心になるだろう

市販型「シグネット」。2011年4月「トップマーク・モナコ」展で。
市販型「シグネット」。2011年4月「トップマーク・モナコ」展で。 拡大
展示車は6段マニュアル仕様だったが、CVT仕様もオプション設定されている。
展示車は6段マニュアル仕様だったが、CVT仕様もオプション設定されている。 拡大
展示車のシートはトゥスカン(トスカーナ色)レザーとアルカンターラの組み合わせだった。
展示車のシートはトゥスカン(トスカーナ色)レザーとアルカンターラの組み合わせだった。 拡大

「iQ」よりも有名になるか!?

ニコラさんの話から察するに、彼らのディーラーでシグネットはすでに十数台規模のオーダーを抱えているようだ。そのお国柄からしてモナコは、人口および面積あたりでシグネットが世界一売れる国になるのも夢ではないだろう。

いっぽうで、“ひと皮むけばトヨタiQ”に過ぎないクルマゆえ、話題は瞬間風速的に終わってしまうのではないか? という心配もある。だがボクはそれほど悲観的ではない。なぜならシグネットを求める人の多くは、社会的成功者やその家族と思われるからだ。
ヨーロッパの実業界ではその昔、海の物とも山の物ともつかない海外製品の代理権を取得して成功した人たちが多い。なかには日本製品を早くから扱って財を成した人もいる。そうした人たちは今でも新しいジャンルのモノを試すチャレンジ精神を持っている。彼らのツボを刺激すれば、長期的成功も、あながち夢ではないだろう。

参考までにトヨタiQの2010年欧州セールスは2万3340台。前年比でマイナス47%である。トヨタの欧州販売のなかでは、モデル末期だったモデルを除いて最大の下落だ。
そうしたなか、1960年代に「オースチンADO16」を基本にしながら、後年にはそれより人気が出てしまった「バンデン・プラ プリンセス1100」のごとく、iQよりシグネットのほうが有名になる逆転劇が後に起きたら、これまた痛快かもしれない。

さて、そろそろスタンドからおいとましようかと思ったら、ニコラさんが、もうひとつ情報を教えてくれた。
「奥様へのプレゼントとして、シグネットを予約なさった方もおられます」
今後も、そうしたクライアントは増えると見込んでいるらしい。

ちょっと待てよ。その場合プレゼントする男は“普通”のアストンか、それ以上の他ブランド車を持っていないとカッコ悪いではないか。シグネットを買うということは、その価格以上に難しい要素が絡んできそうだ。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

そうそうたるスーパースポーツカーが並ぶイベント会場だったが、「シグネット」はひときわ熱い視線を集めていた。
そうそうたるスーパースポーツカーが並ぶイベント会場だったが、「シグネット」はひときわ熱い視線を集めていた。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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