INTERVIEW
秋田道夫が語るレンジローバー イヴォークの魅力
楽しみがひろがる


デザイナーの顔が見えてくる
「いま、2度という角度を取り上げましたが、もうひとつ、“6”という数字もポイントです」
そう言いながら秋田さんはフロントグリルを指さした。

「このグリルの中の形が象徴的ですが、全体に六角形のモチーフを反復しています。だからこのクルマは余計なことをしていない。“2度の角度”と“六角形のテーマ”というふたつの言葉で語っているから、デザイナーも設計の人も製造部署も販売の人も、みんな同じ言葉で仕事ができる。そこにブレがないんですよ。僕は、ひとつ、ふたつ、次がたくさんというぐらいに覚えられない人間なので(笑)、テーマはふたつぐらいがちょうどいい。スタッフ全員で“完成”という目的地に向かう時、みんな迷わずに済みますね」
形としてだけではなく、製造や販売のことまで考えてデザインを語るあたりが、さすがにプロフェッショナルだとうならされる。そう伝えると、秋田さんはうなずいた。

「インテリアのデザイナーはおそらくエクステリアとは別の人でしょうが、“六角形がテーマ”だと言語が絞られているから、内装担当の人も仕事がしやすかっただろうと思います。それに、デザイン責任者とその部下、開発担当などのコミュニケーションは密だったろうと想像します。きっとデザイン責任者は現場をよく知っていて、スタッフから好かれる人物じゃないでしょうか(笑)。どこの部署がやってくれて、どこのグループがやってくれないか、現場のいいところも悪いところも知り尽くした方の名人芸という印象を受けました」
エクステリアのデザインが際立っているのに、それがインテリアと調和している理由が、秋田さんのお話をうかがってよくわかった。専門家の目から見ると、イヴォークのデザインは細部にまで責任者の目配りが行き届いているのだ。だから全体の統制がとれている。
秋田さんにうかがいたいと思っていたのは、デザイン的にとても新しい感じがするのにレンジローバーというブランドの雰囲気が残っているのはなぜか、という疑問だ。この質問に対して秋田さんは、「塀」を例に挙げて答えてくださった。

「塀を越える時、ジャンプするという方法があります。もうひとつは、時間をかけて塀の前に長い坂を作ってその道を歩いていたらいつの間にか塀を越えていた、という越え方もあります。イヴォークの場合は後者だと思います。すでに今回のようなアーバンな造形は準備ができていて、時代の空気がマッチするタイミングを見計らっていたのではないでしょうか」
つまりイヴォークはレンジローバーというブランドの中で突然変異的に生まれたデザインではなく、長年にわたる新しい造形への取り組みから誕生したデザインだということだ。
「夢が実現する時には勇気は要らないのかもしれません。波止場で船着き場と船の高さがちょうど合った時には歩いて船に乗れます。でも干潮や満潮の時にはジャンプしないといけない。つまりイヴォークが生まれるのにいい潮時だったということです」




