第175回:クルマだけでは実現できない?
ホンダの交通安全への取り組みを知る
2013.04.15
エディターから一言
第175回:クルマだけでは実現できない? ホンダの交通安全への取り組みを知る
創業者の掲げた「人命尊重」「積極安全」という言葉を旗印に、「交通事故ゼロ」モビリティー社会の実現に向けてさまざまな取り組みを行うホンダ。2013年3月29日の活動説明会で分かった、同社の幅広い活動をリポートしよう。
安全支援技術に見る次の一手
最近、ホンダが話題づくりに熱心だ。
ついこの間、次期ハイブリッドシステムの技術説明会があったばかりだというのに、わずか2週間のインターバルで、今度は安全に関する取り組みの説明会を開催したのだ。そこでも興味深い話をたくさん聞けたので、今回はその一部を紹介する。
まずは読者のみなさんがもっとも関心を寄せていそうな、ハード面の話から。
話題の主役は、事故回避支援システムの「City-Brake Active System」だ。年内に発売される新型「フィット」に搭載予定とのことで、いよいよホンダからも「ぶつからないクルマ」が登場することとなる。
このシステムはセンサーにレーザーレーダーを用いたもので、車両のおよそ15メートル先までを監視。追突の危険を感知したら自動でブレーキがかかり、追突事故を回避、もしくは事故の被害を軽減してくれるというものだ。(詳しくはこちらのニュースをどうぞ)
ここで「ああ、『ダイハツ・ムーヴ』とか『フォルクスワーゲンup!』とかのアレね」と気付いた方は事情通。最近ではこうしたシステムをユニット単位でサプライヤーが提供しており、システムの普及が急速に進んでいるのだ。
ただ、逆に言ってしまうと、この「City-Brake Active System」の基本は他のクルマで既出のものだとも言える。同じ事故回避支援システムなら、現在開発中という「進化型衝突軽減ブレーキ」の方が、個人的には興味を引かれた。
これは、その名の通り従来の追突軽減ブレーキ(CMBS)を進化させたもので、センサーが前走車だけでなく隣車線の対向車も検知。車線逸脱による正面衝突事故の被害を軽減するというものだ。
具体的なシステム作動の手順を説明すると、まずはセンサーが車両の前方150mほどの距離(相対速度80km/hでおよそ2〜3秒の距離)を監視。自車が車線をはみ出て対向車との衝突の危険性が高まると、フロントウィンドウ上の瞬間発光やステアリングホイールの微振動、ステアリングホイールに伝わる反力の変化などで、ドライバーに危険を知らせる。
ここでドライバーが回避操舵(そうだ)を行った場合、ステアリングのアシスト力を高めて回避操作を支援。最後は衝突の被害を軽減するためのブレーキをかける。
追突事故の回避支援システムについてはもう普及が進んでいるが、車線逸脱による正面衝突に備えたものは聞いたことがない。そのあたりについて伺うと、「確かに車線逸脱による正面衝突事故は、低速走行時の追突事故と比べると発生件数は多くありません。ただ相対速度が高いだけに被害が大きく、死亡事故につながる率が高いんですよ」とシステムの重要性を教えてくれた。
詳しい人ならご存じだろうが、ブレーキを制御して事故被害を軽減する技術は、世界に先駆けて2003年にホンダが実用化したものだ。そんなプリクラッシュブレーキのパイオニアが、今後それをどのように進化させたいと思っているのか。進化型衝突軽減ブレーキの説明からは、その思惑が垣間見えた気がした。
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危険な道路が一目でわかる
このように、クルマの進化による安全運転支援に注力しているホンダだが、一方でクルマ「以外」のところでも相当に頑張っている。
中でもユニークな取り組みなのが「みんなでつくる安全マップ」こと「SAFETY MAP」の公開だ。
「SAFETY MAP」とは、ホンダの提供する交通情報サービス「インターナビ」のフローティングカーデータや、地域住民からの投稿を利用した、危険な道路が一目でわかる便利なソーシャルマップのこと。
掲載される情報は、実際に事故が多発しているエリア、インターナビの走行データから収集した急ブレーキ多発地点、最高速が30km/hに制限される生活道路の「ゾーン30」、そして地域住民が一般投稿した危険スポットなど。パソコンやスマートフォンを使って、誰でも自由に閲覧することができる。
現在情報が公開されているのは埼玉県のみだが、ホンダでは今後、他の都道府県への展開も検討しているという。
さらに、もうひとつ「イイネ!」と言いたかったのが、福祉関連の交通安全支援の取り組み。今年の4月から、体に障害のあるドライバーに向けた「自操安全運転プログラム」、介護施設などの送迎スタッフを対象とした「移送安全運転プログラム」の、2つの研修プログラムをスタートしたのだ。
体に障害がある人の中にもクルマを運転したいと思っている人はいるし、実際に免許証を、マイカーを持っている人も少なくない。
今回のプログラムは、そうした課題に直面する当事者たち、つまり私たちなどよりはるかに切実な事情で「運転を教わりたいけど、教えてもらえる環境がない」と悩む人たちにとって、大きな助けとなってくれるはずだ。
受講にかかる費用は50分の「自操安全運転プログラム」が5250円、140分の「移送安全運転プログラム」が1万500円。さすがに無料とはいかないが、授業内容を聞くと、教習所の初心者教習と比較しても「高い」とは思わなかった。
ドライビングシミュレーターを自主開発
もちろん、課題も少なくない。
まずは場所、このプログラムを受けられるのはホンダの交通教育センターのみで、その数はわずか全国5カ所。思い立ったからといって、気軽に受講できる状況ではない。
また、ビジネスとはいわないまでも、ホンダの社会貢献活動の一環として、事業として成り立たせることも重要だ。そのあたりは関係者も重々承知のようで、この話を伺ったプログラムの説明員は、こんな風に教えてくれた。
「自操安全運転プログラムについて言えば、日本には『条件付き免許証』を持っているドライバーが約20万人います。このうちの3割の方が運転に不安を抱いているとしたら、その数は6万人。プログラムの需要はあるはずです。課題は、こうした個々のニーズの『点』にどうやってアプローチするか。今回のプログラムについては、今のところは病院の先生からの問い合わせが多いのですが、今後はそれに加えて、リハビリセンターや大学などの教育、研究機関にも働き掛けていきたいと思います」
この他にも、障害者が実際の福祉車両に近い操作でドライビングシミュレーターを使えるようにする機器を製作したり、二輪車のシミュレーターを開発して販売会社に売り込んだりと、さまざまなアプローチで「交通安全」の普及に取り組むホンダ。メーカーのこうした活動については、もろ手を挙げて応援したい。
(文=webCG 堀田/写真=webCG 堀田・本田技研工業)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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