なぜ給油口の位置は統一されていないのか?

2025.10.14 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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マイカー以外のクルマに乗ると、ガソリンスタンドに入るたびに給油口がどちら側にあるのか迷います。なぜ左側・右側のどちらかに統一されていないのでしょうか? 設計上の問題など、理由があればお聞かせください。

給油口の位置については、「ここにせよ」という取り決めがあるわけではないので、車種によって位置がバラバラです。でも、“決まりごと”がまったくないわけではなくて、例えばトヨタなら「給油口は排気口の反対側にレイアウトすべし」というルールはありました。火災防止の考えからですね。元をたどれば、「給油口は排気口から300mm以上離れていなければならない」という国の保安基準に基づいています。

排気口の位置についても、むかしは歩行者から遠いほう、つまり、(歩道が車道の左側にある日本であれば)車体の右側にしよう、という考えで設計されていました。今ではファッション的な意味もあり、左右2本出しのマフラーも多くなってはいますが、どちらか選べと言われれば、基本方針としては変わらず「歩行者から遠いほうにします」ということになると思います。

もっともエンジニアとしては、設計上、給油口の位置は右でも左でも問題はありません。確かに、ベースとなるプラットフォームによっては「こっちにしたほうがレイアウトしやすい」みたいなこともないわけではありません。でも、こっちにしようと決まればそうするだけで、左右どちらであろうとつくるのが難しいということはありません。

給油口の位置は、現実的には、そのクルマを最も多く販売する地域が右側通行なのか左側通行なのかで、つまり数の論理で決まることが多いでしょう。

メーカーとしては、「給油口の位置がクルマごとに違うのでわかりにくい」というお客さまの声は重々承知していて、それを受けてトヨタでは、1990年代の半ばだったでしょうか、メーターパネル内の燃料計のところに「給油口の向きを示す三角(◁または▷)のマーク」を添えるようになりました。

私がクルマ全体の企画を取りまとめるようになったのは1997年なのですが、そのとき、80型「スープラ」の開発者である都築 功さんから「燃料計に三角印を忘れずに付けるんだぞ!」「お客さんが苦労されていて、大事なことなんだから……」と、何度も言われたのを思い出します。「これは俺が考えたアイデアなんだ」とも言っていましたね。本当かどうかは知りませんが(笑)。

そのマークも普及し、給油の際に確認するのが習慣化されるにしたがい、給油口の位置はさほど問題視されることがなくなった、というのが現状かと思います。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。