【F1 2017 続報】開幕戦オーストラリアGP「フェラーリ優勝はF1を活気づける」
2017.03.26 自動車ニュース![]() |
2017年3月26日、オーストラリアのメルボルンにあるアルバートパーク・サーキットで行われた、F1世界選手権の第1戦オーストラリアGP。新しい組織体制の下、F1を活気づけるために大きなレギュレーション変更が行われた今シーズンは、最良の形でスタートを切った。フェラーリ&セバスチャン・ベッテルの優勝は、コンペティションこそF1の最大の魅力である、ということを再認識させてくれる出来事となった。
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大幅なレギュレーション変更、新たな組織体制
2017年のF1は、大きな変革の波の中で始まった。
今季のトピックの筆頭は大幅なレギュレーション変更だ。4年目に突入した1.6リッターターボ+ハイブリッド規定は引き継がれたものの、そのほかのエリアについても「F1をよりカッコよく、より速く、よりエキサイティングにする」ため、大胆に手が加えられた。
前後ウイングは大型化、マシンの幅も200mm拡大され最大2000mmとなったほか、タイヤはフロントが60mm、リアは80mm太くなり、これまで細長いイメージだったF1マシンはマッシブ&アグレッシブな風貌になった。
変更はルックスだけにとどまらない。空力性能でカギを握るディフューザーの領域を拡大。またマシン中央部のデザインの自由度を増やすなどし、ダウンフォースの増大を図った。全体的な大型化で空気抵抗も増えストレートスピードは落ちるが、接地面積が増したタイヤも手伝ってコーナリング速度は飛躍的にアップ。トータルでラップタイムを上げようという狙いである。
これまでのルール変更は「技術の進歩で年々増大するスピードを抑えること」に軸足を置いたものが多かったが、今年は真逆の方向を目指している。レーシングカー然としたたたずまいと性能を追求する今年のレギュレーション変更は、近年のF1人気の陰り、また「エキゾーストノートが小さい」「コンサバなレースがつまらない」といった内外の声に真摯(しんし)に向き合った結果である。
F1の運営組織体制も一変した。昨シーズン途中に発表された米企業「リバディ・メディア」のF1買収が完了し、過去40年以上にわたりチームをまとめ、F1を世界規模のスポーツビジネスにまで成長させたバーニー・エクレストンがボスの座を追われた。
代わってリバティの息の掛かったチェイス・キャリーが会長職に加えCEOも務めることになり、さらに米メディアESPNで手腕を振るったショーン・ブラッチスがコマーシャル面のディレクター、そしてフェラーリやベネトンなどでタイトル獲得に貢献した名将ロス・ブラウンがモータースポーツのマネージングディレクターとして招聘(しょうへい)された。パドックで知らない人はいないブラウンのF1復帰には特に注目が集まっており、レースのスポーツ&エンターテインメント性向上や、チーム間の財政不均衡の問題など、コース内外の課題解決に期待が寄せられている。
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3強の争いと、苦境に立つチーム
ルールや組織の改革が進む一方で、GPの主役であるチームとドライバーは新シーズンに向けて準備を進めてきた。
まずは、過去3年の59戦で51勝、実に勝率86%という驚異的な強さでダブルタイトルを手中におさめてきたメルセデス。昨季終了直後に衝撃的な引退を表明した2016年王者ニコ・ロズベルグの後釜には、ウィリアムズから引き抜いたバルテリ・ボッタスが座ることに。有望視されるボッタスは、2年ぶり4度目のタイトル奪還に燃えるルイス・ハミルトンという強敵とペアを組むことになった。前年の正常進化型といえるマシン「W08」は、例年通りウインターテストで最長距離を走破、タイトル防衛への足固めをしてきた。
しかし冬のテストでヘッドラインを奪ったのはフェラーリだった。キミ・ライコネンが全体の最速タイムを記録。セバスチャン・ベッテルを含めさまざまなタイヤで安定して速いラップタイムを刻み、ニューマシン「SF70H」で上々の感触をつかんだ。昨季は戦術面のミスや信頼性不足、さらにシーズン中の開発競争の遅れなどもあり、未勝利のうえコンストラクターズランキング3位に甘んじただけに、雪辱を果たさなければならない一年となりそうだ。
昨年ランキング2位だったレッドブルは、タグ・ホイヤーのバッジを付けたルノーのパワーユニットのトラブルに足を引っ張られテストでは控えめな存在とならざるを得なかったが、レギュレーションの変わり目、名デザイナー、エイドリアン・ニューウェイが奇策を講じてくるであろうことは想像に難くない。「RB13」の完成度が上がってくれば、ダニエル・リカルドとマックス・フェルスタッペンがエキサイティングなレースを披露してくれるにちがいない。
この3強の後ろの中団グループは混戦必至と見られているが、悪い意味で目立ってしまったのがマクラーレンだった。ホンダとのパートナーシップ復活3年目は、初年度同様にホンダのパワーユニットを中心に問題が多発し、まともな走行ができないまま開幕戦を迎えた。2015年のランキング9位から2016年には6位まで挽回、上昇の機運が感じられただけに関係者の落胆も大きかったようで、フェルナンド・アロンソもその気持ちを隠さなかった。とはいえ今年からパワーユニットの開発規制、いわゆる「トークン制」が廃止され、遅れを取り戻す環境は過去2年よりも整っている。新進気鋭のストフェル・バンドールンを正ドライバーに加えた今季、まずは苦境を抜け出すところからのスタートである。
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メルセデス対フェラーリの予選対決を制したのは
恒例のオーストラリアでの開幕戦は、フリー走行の最初の2回でハミルトンがトップ、予選直前の3回目ではベッテルが最速と、メルセデスとフェラーリが静かに火花を散らして始まった。
そして今年最初の本気の力試し、土曜日午後の予選Q3になると、1発目のアタックで1位ハミルトンと2位ベッテルが0.3秒差、ベッテルと3位ボッタスはわずかに0.002秒差と三つどもえの戦いを見せた。
2回目のフライングラップでは、最初にタイムを更新したメルセデスのハミルトンが首位、0.293秒離されてボッタスが2番手タイム。この間にベッテルが割って入り、フェラーリは2015年のシンガポールGP以来となるフロントローを獲得した。0.025秒の差で3位に落ちたボッタスに続くのはライコネン。メルセデス&ハミルトンに一日の長があったものの、2列目まではシルバーとレッドのマシンが交互に並び、トップ2チームの真っ向勝負にファンの期待も高まった。自身通算62回目のポールを奪ったハミルトンのタイムは、これまでのコースレコードを1秒以上縮める記録となった。
レッドブルは、予選5番手にフェルスタッペン。母国GPで奮起していたリカルドは最初のアタック中にスピン、クラッシュして10番手となった後、ギアボックス交換のペナルティーで15番グリッドまで落ちた。
2年目のハースはロメ・グロジャンが健闘しチーム予選最高位の6番手を獲得。ボッタスの移籍で引退を撤回したフェリッペ・マッサのウィリアムズが7番手、トロロッソのカルロス・サインツJr.は8番手、同じくダニール・クビアト9番手、リカルドの降格で繰り上がったフォースインディアのセルジオ・ペレスが10番グリッドにおさまった。
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ハミルトン対ベッテルの首位攻防戦
晩夏のメルボルンの決勝日は快晴。1位ハミルトンが好スタートを決めれば、ベッテル、ボッタス、ライコネン、フェルスタッペンら上位陣もそれにならい順調な出だしを見せ、57周のレースへと旅立っていった。
序盤は、トップのハミルトンに2位ベッテルが1秒半~2秒程度の差で食らいつく展開。3位ボッタスより後ろは5秒以上遅れ、異なるマシンを駆る2人のチャンピオン経験者が優勝をかけ真剣勝負を繰り広げた。
17周を終えて、タイヤに難儀していた1位ハミルトンがピットイン、ウルトラソフトからソフトにタイヤを交換した。代わってトップに立ったベッテルはベストタイムをマークし好走。5位に落ちたハミルトンもニュータイヤで飛ばそうとしたのだが、目の前の4位フェルスタッペンを抜きあぐねていた。
23周目、ベッテルが満を持してピットに飛び込みソフトタイヤにチェンジ。コースに戻ると、背後にフェルスタッペンとハミルトンを従えていた。フェラーリとベッテルが、メルセデスとハミルトンとの勝負に打ち勝った瞬間だった。
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前年の悪夢を振り払う、フェラーリ会心の勝利
もちろんレースはまだ半分以上残っており、フェラーリとて安穏とはしていられない。上位のピットストップが一巡し、1位ベッテルと2位ハミルトンの間には約6秒、3位ボッタスはトップから12秒の差があった。
しかし、安穏としていられなかったのは2位ハミルトンの方で、ベッテルを追い上げるどころか新しいチームメイトのボッタスに差を詰められる始末。レースを通じタイヤと格闘し、終盤にはパワーの低下を訴えていたハミルトンに、ベッテルをトップから引きずり下ろすだけの力はなかった。チェッカードフラッグが振られると、ベッテルと2位ハミルトンの間にはおよそ10秒ものギャップが築かれていた。
ベッテルとフェラーリは、2015年シンガポールGP以来となる勝利の美酒に酔うことになった。昨年のオーストラリアGPでは、レース序盤に1-2を快走していながら作戦ミスで敗退。その後もマシントラブルやヒューマンエラーで勝てるレースをことごとく落としてきたフェラーリにとっては、悪夢のような前年の記憶を振り払う会心の勝利となった。
そして最古参チームのこの復活の1勝は、新たな章を開こうとするF1にも最良の結果となったにちがいない。ルックスがいかにカッコよくても、そしてマシンがいかに速くても、そこに手に汗握るコンペティション=競争がない限り人々の興味関心は芽生えないだろう。メルセデス1強時代に終止符を打つつわものの登場こそ、F1を活気づける一番の特効薬になるはずなのだ。
過去最多のレースが行われた昨シーズンより1戦少ない、全20戦で争われる2017年のF1。第2戦中国GPの決勝は4月9日に開催される。
(文=bg)