日産フーガハイブリッド(FR/7AT)
運転席も後席も魅力的 2015.03.13 試乗記 日産のプレミアムセダン「フーガ」がエクステリアデザインの大幅な変更を伴うマイナーチェンジを受けた。最も人気の高いグレード「ハイブリッド」でその進化を確かめた。カッコよくなった!
2代目フーガのデビューは2009年11月のことだから、6年目のモデルチェンジということになる。しかし、今回はフルモデルチェンジではなくビッグマイナーチェンジ。写真を見るかぎりはずいぶん雰囲気が変わったようだが、実物はどうだろう?
実際に新しいフーガを目の当たりにした印象は、「カッコよくなった!」。精悍(せいかん)になったフロントマスク、特に、キリッとしたデザインのLEDヘッドランプやメッシュタイプのラジエーターグリルが効いているのだろう。リアコンビネーションランプも、ドットが目立つLEDから帯状に太く光るデザインに変更されて、今風になった。
試乗中にマイナーチェンジ前のフーガに何度か出くわしたが、あらためて眺めると5年の月日を感じさせられるし、プレミアムセダンとしてはやや印象が弱く思えたのも事実だ。そういう意味では、このエクステリアの進化はなかなか効果的だと思う。
ただ、これはこれで心配なことがある。弟分の「スカイライン」と見間違えてしまいそうなのだ。日産の人に言わせると、「スカイラインは低いノーズがスポーティーで、フーガは厚みのあるフードがラグジュアリーな印象を与える」ということで、差別化しているそうだが、街ですれ違ったときに瞬時に言い当てられる自信はない。
そのうえ、このフーガにはスカイライン同様、「インフィニティ」のエンブレムがラジエーターグリルに輝いているから区別がつきにくい。
安全装備の充実も見どころ
北米では「インフィニティQ70」として売られているフーガと、同じく「Q50」のスカイラインだから、似ているのは当たり前なのだが、それにしても紛らわしいのは確かである。
エクステリアに比べると、インテリアの変更はかなり控えめだ。基本的にはマイナーチェンジ前のデザインを受け継いでいるのだが、それでも、「ハイブリッド」VIPに標準、試乗車のハイブリッドにオプション設定されている“銀粉本木目フィニッシャー”はインパクトがあって、特別なクルマに乗っている感覚に浸ることができた。匠(たくみ)が手作業でつくり上げたと聞くと、さらにありがたみも増すというものだ。
スカイラインに先を越されていた安全装備は、この機会にキャッチアップしている。いま日産が力を入れている「エマージェンシーブレーキ」をこのフーガにも標準採用したことに加えて、2台前を走る車両の動きを監視して危険を知らせる「PFCW(前方衝突予測警報)」や、側方と後方の危険を知らせるさまざまなシステムを採用して、ライバルに対抗している。
気になるパワートレインは、マイナーチェンジ前と同じスペック。306ps/35.7kgmを誇る3.5リッターV6エンジンと、68ps/39.6kgmを発生させるモーター1個を組み合わせた日産独自のハイブリッド。リチウムイオンバッテリーを搭載し、7段ATにふたつのクラッチを組み合わせたシステムにより、JC08モードで18.0km/リッターの燃費を達成するところも同じである……となると、その走りは……。
SPORTモードで走りたくなる
今回は都内での試乗になったが、フーガハイブリッドのパワフルな走りは健在だ。
ほとんどの場合、発進はモーターが担当し、スピードが上がるとエンジンが目を覚ますのだが、1860kgのボディーを加速させるのに十分な力強さを誇っている。街中では、走行中、頻繁にエンジンがオフになり、そのたびに回転計の針がすっとゼロに戻る様子に最初のうちはドキッとしたが、ハイブリッドを主張する演出としては効果的かもしれない。
でも、運転して楽しいのは回転計の針が活発に動いているときだ。アクセルペダルを強めに踏み込むと、3.5リッターV6エンジンが気持ちのいいサウンドを奏でながら吹け上がっていく。さらに、ドライブモードセレクターをSPORTに切り替えると、その加速が病みつきになる。燃費も稼ぐが、いざというときには走りも楽しめるのがフーガのハイブリッドなのだ。
初期にはクラッチのオンオフにともないぎくしゃくすることもあったが、さすがにいまは熟成されて動きもスムーズ。ただ、クルマを停止させるためにブレーキを踏んでいると、停止直前でタッチが変わるのが気になった……とはいっても、ささいなことなのだが。
乗り心地はプレミアムセダンにふさわしいマイルドなセッティング。個人的には、運転するにはもう少しだけ硬めで、フラットさを高めたほうがいいと思うが、後席に乗る、あるいは、後席に大切な人を乗せる機会が多いクルマということを考えると、このくらいがちょうどいいのかもしれない。
ということで、短時間だが後席もチェックしてみた。
後席は別世界
そのままでも十分なスペースがある後席の足元だが、助手席に人がいないのをいいことにシートバックのスイッチで前席を前にスライドさせると、余裕で足が組める広さになる。そのうえ、リアシートのサポートが良く、最上級グレードのVIPでなくても、快適な移動が楽しめる。乗り心地もちょうどいい硬さで、後席ベストのサスペンションセッティングといえそうだ。
さらにうれしいのが、その優れた静粛性。運転中はスポーティーなエンジンサウンドを楽しんだが、後席は運転席とは別世界の静かさだった。このフーガには“アクティブ・ノイズ・コントロール”といって、不快なこもり音を打ち消す機能が備わっているが、その効果も手伝っているのだろう。
運転しても、後ろに座っても、それぞれの楽しさがあるフーガハイブリッド。今回試乗したグレードが一番人気で、さらに法人需要が多いと聞くが、もし私がこのクルマに乗れる立場なら、ショーファーにはSTANDARDまたはECOモードを徹底させておきながら、たまに自分で運転するときにはSPORTに切り替えてストレス解消といきたいところ。そんな二面性を楽しめるのが、このクルマの魅力だろう。
(文=生方 聡/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
日産フーガハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4980×1845×1500mm
ホイールベース:2900mm
車重:1850kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6800rpm
エンジン最大トルク:35.7kgm(350Nm)/5000rpm
モーター最高出力:68ps(50kW)
モーター最大トルク:29.6kgm(290Nm)
タイヤ:(前)245/50R18 100V/(後)245/50R18 100V(ダンロップSP SPORT MAXX TT)
燃費:18.0km/リッター(JC08モード)
価格:620万5680円/テスト車=691万8480円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムブラウン>(5万4000円)/Boseサラウンド・サウンドシステム(19万4400円)/プレミアムインテリアパッケージ(46万4000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:4045km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
NEW
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。