マセラティ・レヴァンテ ディーゼル(4WD/8AT)
東風の吹くところ 2017.05.15 試乗記 いよいよデリバリーが始まった「マセラティ・レヴァンテ」のディーゼルモデルに試乗。いたるところにちりばめられたブランドシグネチャーとは裏腹に、巨大なボディーやエンジンのフィーリングなど、筆者の知る“マセラティ”とはまるで別物……。お前は一体何者だ? その正体がはっきりと見えたのは、伊豆のワインディングロードだった。お前は本当にマセラティなのか?
お前は誰だ? そう私は問いかけるのだった。レヴァンテ。「スペイン北東部に地中海から吹く東風」のディーゼル。君の名は? 君の名は?
マセラティであることが信じられなかった。レーシングカーづくりから始まったイタリアの名門。これは私の知るマセラティではない。マセラティは大きな4ドアはつくったことがあるけれど、こんな山のようなクルマは見たことがない。なるほど、そのグリルやらフロントフェンダー上部の3連の冷却口やら、ルーフやらショルダーラインやらにその面影を見て取ることはできる。しかれどもレヴァンテよ、君はいったい何者であるのか。
ドアを開ければ、ヴィーノ・ロッソ、ペルファボーレな、「赤ワインちょうだい」といっているにすぎないわけだけれど、イタリアンレッドのシートとダッシュボードが目に飛び込んでくる。それはもうブラッディな赤で、いきなり高揚する。ラグジュアリー・スポーツカーもかくやのシートに座れば、トライデントのマークが入ったアナログ時計がちゃんと備わっている。まごうかたなきマセラティである。
細かい話ながら、試乗車の「カーボンファイバートリム」は23万円で、予算が許すのならぜひともつけたい。しっとりとした肌触りのシートは「フルプレミアムレザー」で、36万3000円のオプションだけれど、予算が許すのなら、これもぜひつけたい。「ドライバーアシスタンスパッケージプラス」は、45万円のオプションだけれど、ま、これは予算が余っていたらつける程度でよろしい。マセラティを選ぶ男にレーンデパーチャーワーニングだのフォワードコリジョンワーニングだの、アダプティブクルーズコントロールだのが似合うだろうか。でも、ブラインドスポットアラートはあるといいな……、そうすると結局45万円のエクストラが発生するわけですけれど。
あまりに控えめなエンジンサウンド
内装がマセラティであることはわかった。しかれども、このエンジンはなんだ? これはマセラティなのか? 君の名は?
レヴァンテ ディーゼルはマセラティとVMモトーリが共同開発した排気量3リッターのV6ディーゼルターボエンジンを長いフロントフードの下に隠し持つ。このV6ディーゼルは、フェラーリのF1エンジンのデザイナーを務めた人物がマセラティのために開発を指揮して生まれたもので、すでに現行「ギブリ」にも搭載されている。ただし、あいにく私は今回がマセラティのディーゼル初体験なのだった。
静かなことはさすが高級車である。275ps/4000rpmの最高出力は控えめながら、600Nmという大トルクを2000-2600rpmで生み出す。アクセルを踏み込めば、車重2290kgの巨体が滑らかに加速していく。しかれどもそのサウンドはあまりに静かすぎて、現代のマセラティに特徴的な野獣の咆哮(ほうこう)を期待すると、あまりにおとなしすぎる。ゆえに私はつぶやく。お前は誰だ?
SUVを名乗るレヴァンテには、4つの走行モードが用意されている。すなわち「ノーマル」「スポーツ」「オフロード」それに「I.C.E.(Increased Control &Efficiency:制御性&効率性向上)」である。最後のI.C.Eは凍結路面だけではなく、より静かで滑らかな走行を確保するとともに燃費向上を視野に入れて開発されている。ということはあとで知った。それなら試してみるべきだった。“ICE”というから雪道用と短絡してしまった。今回のテストはオンロードのみだったので、ノーマルとスポーツしか試みなかったことを悔い改めたい。
ノーマルだと乗り心地がソフトだけれど、ややフワフワする。265/50R19サイズの「ピレリPゼロ」は、ランフラットと勘違いするほど当たりが硬い(実際はランフラットではない)。
スポーツに切り替えると、乗り心地が硬くなる。個人的にはやや硬いぐらいの乗り心地の方が好みだけれど、それにしても硬すぎる。エンジンの排気音は控えめに大きくなっているけれど、“マセラティ”というにふさわしいほどではない。ZFの8段オートマチックを介しての100km/h巡航は、トップで1500rpmあたり。静かなはずだ。
ついに正体をつかむ!
私はなにか違和感を抱きながらレヴァンテを走らせた。そして、伊豆スカイラインを走っているうちにようやく気づいた。このクルマはSUVのカタチを借りてはいるけれど、ワインディングロードを走るために存在していることを。エアサスペンションはコーナリング中もグッと踏ん張ってロールを許さない。全長5000×全幅1985×全高1680mm、ホイールベース3005mmという巨体にして、そのサイズを感じさせない、奇跡のようなハンドリングのために、乗り心地は若干犠牲になっていることを。52:48という前後重量配分はそのために仕込まれていることを。
さらに、レヴァンテには8段オートマチックのプログラムをノーマルからマニュアルに切り替える「M」スイッチがついていることを。ああ、もっと早く気づけばよかった。
走行モードをスポーツにし、ATのプログラムをMにすれば「マニュアルスポーツモード」と呼ばれる最強モードに変身する。アクセルペダルのマップはよりアグレッシブになり、エンジンの力をレブリミットまで発揮させる。4500rpmまで滑らかに回る。ESPは作動を控え、排気バルブが開いて、よりシャープなギアチェンジが可能になる。排気バルブはスポーツにすれば開くわけだけれど、Mにすると、いっそうエキゾーストノートが華やかになる。これがディーゼルエンジンだろうか。野太くグオオオオオッとほえる、マセラティの名前に期待される現代の海神ネプチューンがそこにいる。
乗れば乗るほど好きになる
君の名はマセラティ・レヴァンテ ディーゼル。車両価格は976万9090円。テスト車は前述したようなオプションがあれやこれやついていて、その合計だけで240万2000円。合わせて1217万1090円と、イタリアの名門にふさわしい金額を提示する。
もしもイタリアンエキゾチックカーメーカーがSUVのディーゼルをつくるとしたら……、それはきっとマセラティ・レヴァンテ ディーゼルのようなクルマになるだろう。この巨体に比してカーゴルームが狭いことも、いかにも“らしい”。
君の名はマセラティ・レヴァンテ ディーゼル。返却が迫られる頃、私はこのSUVが好きになっていた。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
マセラティ・レヴァンテ ディーゼル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5000×1985×1680mm
ホイールベース:3005mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:275ps(202kW)/4000rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2000-2600rpm
タイヤ:(前)265/50R19 110Y/(後)265/50R19 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:7.2リッター/100km(約13.9km/リッター、欧州複合モード)
価格:976万9090円/テスト車=1217万1090円
オプション装備:カーボンファイバートリム(23万円)/メタリックペイント(12万8000円)/レッドカラードブレーキキャリパー(5万5000円)/19インチポリッシュホイール(16万円)/カーボンスポーツステアリング(18万円)/スポーツスポイラー・シート(6万9000円)/フルプレミアムレザー(36万3000円)/ヘッドレストトライデントステッチ(5万2000円)/リア・プライベート&ラミネートガラス(13万円)/ブライトパック(22万円)/プレミアムパック(35万5000円)/キックセンサー(1万円)/ドライバーアシスタンスパッケージプラス<レーンデパーチャーワーニング、フォワードコリジョンワーニング、アダプティブクルーズコントロール、ブラインドスポットアラート>(45万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3089km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:450.1km
使用燃料:52.1リッター(軽油)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。 -
NEW
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】
2025.12.1試乗記ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。 -
NEW
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと
2025.12.1デイリーコラム2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。 -
NEW
第324回:カーマニアの愛されキャラ
2025.12.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。 -
フェンダーミラーがなつかしい 日本の名車特集
2025.12.1日刊!名車列伝一年を振り返る月にふさわしく(?)、12月はクルマの後方視界を得るためのミラーをフィーチャー。フェンダーミラーが似合っていた、懐かしい日本車を日替わりで紹介します。 -
アウディRS 3スポーツバック(前編)
2025.11.30ミスター・スバル 辰己英治の目利き最高出力400PS、最大トルク500N・mのアウトプットをフルタイム4WDで御す! アウディの豪速コンパクト「RS 3」を、ミスター・スバルこと辰己英治が試す。あまたのハイパフォーマンス四駆を手がけてきた彼の目に、このマシンはどう映るのか?
















































